1話
ズシンと地鳴りを響かせて地上に降り立つと、道を歩いていた人たちが俺とライオネルに驚いた顔で注目する。
確かに生きた人間なら、突然降りてきた家一軒ほどの大きさのドラゴンと
その首の付け根に乗る鎧を着た男が上空から降りてきたら思わず
注目するだろう。
ただ、NPCは決してこんな反応は示さない。
その反応が俺の頭にあった、ここは現実ではないか?という考えを
よりいっそうに強くした。
道行く商人達の邪魔にならないように道から少し離れた所をライオネルに四速歩行で歩いてもらう。
しかし移動をしているのにも関わらず旅人と商人達の視線は俺とライオネルに
釘付けである。
ジロジロ見られる事にイライラして、ライオネルを走らせて街に行こうと
思った時、後方からドスドスドスと何かが後方から、こちらに向かって駆けて来る音が聞こえた。
振り向くと、赤い髪の冒険者風の男が翼のない赤いドラゴンに乗ってこちらに
向かって走っている姿が目に入る。
ドラゴンの大きさは大体5メートルくらいの大きさだからリトルクラスのドラゴンだろう。
立ち上がると18メートルを超える俺のライオネルと比べてしまうとまだまだ子供だ。
乗っている男は皮の防具と剣を装備している。
一体何のようだろうか?
もしかしてプレイヤーか?
「おい!アンタのドラゴンすげぇな!かなり若く見えるけど
もしかしてアンタって、何処かの国の龍騎士?それともSランクの冒険者だったりするの?」
赤い髪の男はライオネルを見て興奮しているようで
早口でまくし立ててくる。
俺のアバターの外見は黒い髪に黒い瞳をしただいたい二十歳くらいのそこそこなイケメンの青年で装備はゲーム最高ランクの青い軽鎧を着ている。
たしかに今の俺は騎士に見えなくもない。
「質問を質問で返して悪いが、あんた…プレイヤーか?」
「ぷれいやー?初めて聞く名前だけど……人違いだ。
俺の名前はマックス!!相棒のレッドフットと一緒に一流の冒険者を目指す男だ!」
「…そうか」
プレイヤーじゃない。
このマックスという男の言葉でここが現実だと確信した。
プレイヤーならマックスのように興奮したり感情を表に出して表現するだろう。
しかし現代の科学技術では人間のように意志を持つAIは存在しない。
つまり、彼や道を歩く人たちは全員意思を持った人間という事になり
ここがゲームではなく現実という証明になるだろう。
想定内の事だが…やはり寂しいな………。
「なあ、もしかしてアンタはぷれいやーって奴を探しにリアントルに向かっているのか?」
「ああ、そうだったんだが……もういいんだ」
俺の答えに一瞬変な顔をするマックスだったがすぐに元の笑顔に戻った。
事情を知らないマックスからしたらおかしなことを言ってるアホにしか見えない筈なのだが、彼は気にしないようにしてくれたらしい。
どうやらマックスは結構いい奴のようだ。
「じゃあ、これからどうするんだ?」
そんなマックスからの問いに俺は……。
「相棒と一緒に冒険でもするよ」
ライオネルのうなじを撫でて答えた。
そう、最高のドラゴンであるライオネルが居れば何所でだってやっていけるさ。
まずは冒険してここが何所なのかを調べよう。
「そうか…じゃあ俺と一緒だな!冒険者登録するなら俺も一緒に付き合うぜ!!」
「ありがとうマックス。俺はカイト、よろしくな」
「おう!」
最初に出会えたのがマックスのような奴で幸運だったかもしれない。
もし、悪い奴に会っていたら右も左も分からない俺は騙されたりしていたかも
しれないな。
サラリーマンであった頃の自分と決別するようにアバターの名前で自己紹介する俺に明るく返事をするマックス
俺達は世間話をしながら都市リアントルへと向かった。
☆☆☆
マックスに自己紹介した後、俺は辺境の島国出身でライオネルと旅をしていて
ここら辺のことは何も知らないとマックスに話したら、マックスは親切に
色々な情報を教えてくれた。
俺が今居る大陸はコラウ大陸といい、東西南北それぞれに大国が存在する。
北にオリヴィアン王国、南にバルゴス帝国、東にビブリアン連合国、西にドラヴィウス法国。
昔は戦争や聖戦などが起こり争っていたが、お互いの国々の戦力が近くて決着が付かず和平を結んだらしい。
そして和平を乱す行為を行った国は経済的制裁が下る為、和平を結んでいこう戦争はなくなったようだ。
マックスからゲームにもなかった国の名前を聞いて『ドラゴン・ファンタジア』とは逸脱した世界だと思っていたのだがどうやらそうでもないようだ。
通貨であるGはマックスの持っているGと同じだったし、使われている言語も今更だが日本語。
そしてドラゴンと共存する人類。
モンスターはアイテムを落さないが世界観はまるっきり『ドラゴン・ファンタジア』と同じなのだ。
つまり俺は『ドラゴン・ファンタジア』にそっくりな世界に来たという
事になる。
そして俺達が向かっているリアントルは和平の証として四国が建てた
大都市であり、四国の国境の中心に立っている。
経済も潤っており、人々は夢を持って訪れる。
あるものは冒険者になって一攫千金を狙い。
あるものは毎年開催されるドラゴン武道際と呼ばれるイベントなどに参加して
名声を狙う。
訪れるのはドラゴンと共に戦うドラゴン使いやドラゴンに乗って戦うドラゴン乗り以外にも居る。
それは商人だ。
四国が立てた大都市というだけあって人口は各国の首都と並ぶほどであり
金持ちも多い。
そんな金持ち達と縁を結び大商人へと成り上がるため、彼等も夢を持って
訪れる。
あと、驚いた事にこの世界のドラゴンは進化することはなく、生まれた時から
種族が決定しているらしい。
それゆえに、貴族は強力なドラゴンの卵を購入し有名なドラゴン使いもしくはドラゴン乗りになる人物の割合が多いらしいが卵を買った全ての貴族がドラゴンを使役できるわけではない。
ドラゴンにも好き嫌いはあるし、人間にも素質がないとドラゴン使いにも
ドラゴン乗りにもなれない。
契約できなかったドラゴンたちは殺処分されることなくオークションでドラゴン牧場に売られたり
相性のいいドラゴンと交換されたりするらしい。
なんでもドラゴンを殺すことは犯罪であり宗教でも禁止されているらしいのだ。
そしてマックスたちのような平民は金銭の問題から地龍種と契約するのが一般的だが、稀に運よく強力なドラゴンの卵を手に入れたりする人や貴族が牧場に
売ったドラゴン安く購入し契約する人が居るらしい。
運がよかった人たちは大抵が国に使える騎士になったり高ランクの冒険者となって成功するのだとか。
つまりこの世界の人たちにとってドラゴンとは家族であり社会的なステータスらしい。
だからマックスも初めて会った時、俺を高ランクの冒険者や騎士と
勘違いしたのだ。
だが、地龍だから弱いとは限らない。
進化はしないがドラゴンは経験により成長し、中では地龍でありながら
上位クラスのドラゴンと渡り合う事も出来るドラゴンも存在するようでマックスもレッドフットを成長させて、上位ランクの冒険者になることが夢らしい。
「おお!ついたぜカイト!!夢の街『リアントル』だ!!」
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