熱気
校内の生徒達も実に賑やかで浮き足立ち、皆のなぞの一体感がうねりとなって校内を駆け巡っている。
当たり前なのだが去年も祭りは行われている。
去年はどうだっただろうか、文芸部室によって本をよんで祭りの空気感を味わっていたような気もするし早々に祭りの空気に当てられて帰った気もする。
これじゃあ斉藤さんの言うとおりさびしい人生と揶揄されてもしょうがないような気もする。
「ちょっと飲み物を買ってくる」
「そう、いってらっしゃい」
「何か買ってこようか?」
「お茶があるからいいわ」
「そう じゃあいってくるよ」
祭りの空気を少しは浴びてこようと部室から適当な理由をつけて校内を散策するが、そのうち賑やかな喧騒の中ひとりで居るのはむなしさというものしか味わえないということにいまさらながらに気づく。
去年の教訓を生かせよ僕はアホかよ、いやまぁ賢くはないのは事実だがそれでもやるせなくなった。
「おや どうしました先輩」
「あぁちょっと飲み物を買おうかとおもって」
「部室にお茶があるじゃないですか」
「そうだけどね ちょっとは祭り楽しもうかと思って」
「一人で居てもさびしいだけですよ?」
「そうだね今かみ締めているよ、そっちはどう」
「ナンパされたのでこれからデートにいくんですよ」
確かに先ほどよりすこし化粧をしたのか、それともナンパの嬉しさの影響なのかいつもとは違う斉藤さんは、かわいくみえるし、デートという僕には経験もない甘美な響きが似合う後輩が実にうらやましい。
「そっ楽しんできてね」
まぁおくびにもださずそっけなく伝えた。
「そうですねたまには恋神さまにもアドバイスしましょうが」
さびしいやつだと思われたのかアドバイスをもらってしまった、どうやら見抜かれていたらしい。
「それはありがたいね」
「いえいえまぁ幸せのおすそ分けです、そうですねぇ一人がさびしいなら神田先輩と星でもみにいってくださいプール脇の渡り廊下なら涼しくてお勧めですね虫もまだわいていませんよ」
「そりゃあどうも」
「はい、じゃあ実行してください恋もそうですが何事も行動あるのみですよ」
「そうだね ありがとう」
「神田先輩も気分転換が必要ですからね確実に誘ってください」
「わかったよ誘うよ」
「いいですかもう確実に誘ってください」
「どれだけ信用ないんだよ!」
「繰り返すいうぐらいには信用ありませんよ」
「そんなに心配しなくてもダメ元で誘うよ」
まぁ神田さんが一緒に行くとは思えないけれどという言葉は言わずにおいた、せっかくのアドバイスに水を差すこともあるまい。
とりあえず部室にもどって軽く誘ってみることにした。
「いいですよ」
「えっ なんで」
意外にもあっさりとOKがでたので僕が逆に聞いてしまうほどであったが、まぁ口走ってしまったために軽くにらまれてしまう。
「なんでって誘っておいてなんでってなんですか」
「いや意外だったからつい ほら最近不機嫌そうだったし」
「それはすいませんでした恋神さま」
「いや、謝らなくても大丈夫だよ」
「八つ当たりにちかいようなものですから」
若干まだとげとげしさが残るが、それは今僕が不用意な発言をしたからだろう。
斉藤さんとは違って神田さんは、いつもと同じように真面目な優等生のように凛としているのがかわいいと思う、まぁそんな事は不用意でもなんでもなく、ただ僕が口に出せないだけなんだ。
「すっきりしたように見えるよ」
「えぇ自分で整理つけることにしましたから」
「そうなんだ」
「はい、言われっぱなしには納得できません」
なにを誰に言われたのかはわかないけれども不機嫌でいられるよりはこっちの神田さんのほうが気が楽になる。
「まぁなんにせよそれじゃあ星見に行こうか」
「そうですね、恋神さま」
「うん?」
「誘っていただきありがとうございます」
なんだろう、神田さんがちょっとかわいく見えすぎて照れるんだけど、まぁあれだ言葉も出ないほどには、どきどきして来たのは祭りの熱気と神田さんのかわいらしさに当てられすぎたんだろう。