幕は下ります
「まさか急に殴られるとは思いませんでしたよ」
本当になんでこう、間が悪いというか、タイミングが悪いというか、やってくるのでしょうか。
よりにもよって、なんで あの時拳骨にしてしまったのかと悔やんでしまいます。
三園さんと、奥居君が丁度私が、拳骨で斉藤さんの頭を殴っている時に戻ってくるとは、本当になんで私は拳骨で殴ってしまったのでしょうか、今更ながらに後悔します。
「遅れてごめんなさい」
「ゴメンナサイ」
「奥居君はともかく、三園さんは謝る必要はありません」
とりあえず、時間ギリギリではありましたが、発表の時間までは間に合った事ですしとりあえず良しとしましょう。
そして、発表の幕があがりはじめる、結構地味な発表であっても体育館には当然のように保護者、生徒、先生が多く集まっていた。
恋の話の朗読がそれぞれ終わり、残すところ奥居君のラブレターの朗読を残すのみとなり、横目でみると緊張からの解放なのか、奥居君の横に並んでいる三園さんの綺麗な足がブルブルと小刻みに震えていた。
見ていると緊張で倒れてしまうのではないかと心配になってしまう。
そんななか奥居君が壇上でマイクを使いラブレターを読み上げはじめた。
「僕の好きな人 奥居利一」
自分でも表情がこわばるのが分かってしまう。
奥居君が声を震わせながら読み上げるラブレターの内容が、私達への返答だという事に気づいた。
「僕の好きな人は神田さんです。同じクラスの神田あかりさんです」
震えがいつの間にか止まっていた声で、嘘のような発言を耳で聞いた。
何度も脳内で繰り返しできそうなぐらいしっかりと聞いた。
冷やかしや、場内からおおという声も聞こえはじめたが、奥居君の声はそれを掻き消して聞こえてくるようだった。
嬉しさにわく心の反面に、目はいつの間にか三園さんへと向いていた。
今彼女は何を思ったのだろうと、思いむけてみると彼女の顔は何も変わっていなかった。
先程の震えもとまっている。
「カエデ、運びますね」
斉藤さんのどこか残念そうなその言葉で震えがとまったのではなく、タダのロボットに戻ったのだという事に気づいた。
何を言ったらいいのか分からない状況で、斉藤さんはしずかに運び出そうとしていた。
先程までの綺麗な顔も、足も、髪もどこか作りものの様に見えてしまった。
ただ、それでも奥居君はラブレターを読み進めていく。
「恋神として祈ります、皆さんの恋が叶いますように、そしてそれでも失恋してもまた次の恋ができるように、今の恋が終わりだと思わずにまた恋に生きられるように祈ります。すばらしい人生を、恋に恋するお年頃のままま進む事ができるように祈ります。心から祈ります。」
最後に深々と奥居君が頭をさげて舞台は幕を下ろしました。