後輩の家
古い洋館というのは好意的に見た感想で、実際には幽霊屋敷やおんぼろ屋敷と揶揄されそうな洋館ではあった。
そんな場所に誘導した斉藤さんは、臆する事もなく、門をかってに押しあけ、どんどんと洋館の敷地内に入っていく。
自転車を適当にお気ながら、後を慌てて追いかけながら聞いてみる。
「ねぇ 行きたい場所ってここ?」
「そうですよ、ここは私の家です」
「えっ」
「まぁ大丈夫です、親はいませんから、安心して入ってきてください」
追いかけた足が、ピタリと止まってしまう。
からかっているのだろう、ふふふと笑いながら、ドアをあけて、家の中に入っていく。
緊張しながらおそる、なぜか盗人のように、おそると足音を極力ださないように廊下をすすんで、リビングに入ると涼しい顔でソファでお茶を飲んでいる、神田さんがいた。
「何しているの神田さん」
こっちの質問を無視するように、お茶を飲んでいる神田さんに力が抜けそうになる。
「こんにちは恋神さま」
「あぁうん」
「親はいませんが神田先輩はいますよ、ねっ大丈夫でしょ」
確かに、ウソは言っていないけれど、多少安堵しながらソファのあいている所に腰をかける。
「あっもしかして想像しちゃいましたか? 二人きりのドキドキ密会」
「していない していないから」
慌てて否定するも、その態度に疑惑の目が向けられ、また明らかに面白がっている声がする
「まぁ、そういうことにしておきましょう」
「それで、何の用事でわざわざ呼び出したのかしら」
「まぁまぁ慌てないでください、もう少ししたらカエデも此処にきますから」
お茶入れますねぇと軽い調子で、台所に向かっていく斉藤さん、そんな斉藤さんを見ながら、ため息をつく神田さんと僕。
「何だと思いますか?」
「いや、多分あの件だと思うよ」
「どうするか決めたんですか?」
「いや 決めていないんだよね」
少し声のボリュームを落し、ヒソヒソと話をしながらどうするべきなのか考えている。
確かに、三園さんには元気になってほしいと思っているけれど、やっぱり顔をあわせるというのはなんとなく気まずいというものもあった。
「お二人とも何をしているんですか」
斉藤さんは紅茶とケーキを僕の前においた。
「あぁうんちょっとね」
紅茶のカップを持つ手が少しゆれているのに気づいた、斉藤さんはフフフと笑いながら今日で何回かみたいたずらを企んだ顔をした。
「奥居先輩、そんなに緊張せずに、先程のデートの時みたいに、リラックスして私に抱きついてもいいですよ」
「やっていないよね」
「あぁすいません、私が抱きついたんですよね、奥居先輩にお願いされて」
「したけど、いやそういう意味でしていないけど」
危うく、紅茶をこぼしそうになる。
「恋神さまおちついてください」
「あっごめん」
「そうですよ、さてそろそろカエデもきます」
そういった数分後にチャイムがなり、緊張はさらに高まっていた。