だーれーだ
公園のベンチで待っているが、斉藤さんは、なかなか来ない、待ち合わせ時間15分をすぎてもやってこないため、ケイタイでメールを送ってみるが、返信はなく電話をかけてもとらない。
どうしたものかと悩んでいる時、不意に目の前が真っ暗となり、少し小さめの手が目を覆い隠して背後から声が聞こえる。
「だーれーだ」
「いや、斉藤さんだよね」
「うわっ当たるなんて奥居先輩私のこと好きですねぇ」
「いや誰だって分かるよ」
「そうですかねぇ まっこれがやりたくて隙をうかがっていたんです」
ふふふとからかう事に成功したのが、嬉しいのか楽しそうに笑う斉藤さん。
しかし、隙をうかがうという事は、ずいぶんと先に来ていたのだろうか。
「仮とはいえ、せっかくの奥居先輩とのデートですからね」
「お手柔らかに」
「それはどうでしょうかね」
なんだろうか、斉藤さんは神田さんや、三園さんとは、少し違った意味でドキドキしてくる、
女の子である意識に加えて、不意にいたずらをしかけてくる部分でもドキドキする。
「何を考えているんですか あっもしかして私のことですか」
「あぁうん大体そんな感じかな」
「いやですねぇ そんな警戒しなくても、今は何もしませんって」
なにか引っかかってしまうが、気にするだけ無駄なのだろう。
「さて、腕でもくみますか」
「えっ」
「いや 練習なので、それぐらいいいじゃないですか」
「それは ちょっと」
「えぇー 恥ずかしさとか、乗り越えないと本番に失敗しますよ」
「そりゃあそうだろうけれど、心臓がもたないよ」
腕を組むというのは、手をつないで歩くより、距離が近すぎて、練習であるという心の限界を超えて生きそうで、絶対に心臓が持たないとおもうので、どうにか勘弁してもらう。
「じゃあ、そうですねぇ自転車の二人乗りはどうですか? 私の自転車できてますし」
「それならいいかな」
「決まりですね、奥居先輩こぎます?」
「斉藤さんにこがせたら僕酷い人だよね」
「それもそうですね じゃあお願いしますね」
斉藤さんが乗ってきた赤い自転車のサドルの位置を、微調整して準備をしながら聞いてみる。
「そういえば自転車わざわざ乗ってきたんだ、家はここから遠かったけ?」
「いえ、そういうわけではないです二人乗りするために乗ってきました」
「あぁ計画通りってわけ」
「まぁそういうことです、行き先は指示しますから頼みますよ」
「はいはい」
自転車に二人乗りあまりやった事はないが、ちょっとバランスを取るのが難しいだろうし体力も使うと考えていたが、それ以上の衝撃があった。
「ちょっ 斉藤さん 手 手」
「手がどうかしましたか?」
「見えない 見えないから すごい危ない」
両手で覆っているので斉藤さんも危ないし、僕も危ない状況で凄くあせってしまう、よく転ばなかったものだと思いつつ、斉藤さんの手が離れた時に、後ろを振り向き注意した。
「凄い危ないからやめてよ」
「そうですねぇ安全にしないといけませんよね」
「当たり前だよ」
「じゃあ遠慮なく」
斉藤さんは、両手を僕の腕にまわし抱きつくような形をとってきた。
「ちょっ」
「安定して安全ですよ」
ふふふと笑いながら、少し力をこめながら、身体を預けてくる斉藤さん。
それに比例するように、顔が熱くなってきたり、早く漕いでいる分けでもないのに、心臓の鼓動は不定期になるようだ。
そんな明らかに動揺する僕の反応を楽しみながら、斉藤さんの指示をうけ、斉藤さんが行きたい場所まで、この自転車での移動は続いた。




