霹靂と嵐
「カエデの恋人になってください」
そう言って、去っていた少女と違い、その言葉だけは、その場にとどまり続けました。
恋神さまにどう聞こえたのでしょうか、我にかえったのが、私が早かったのか、それとも同時だったのか分かりません。
「これが恋神さまのお告げのことなのかな?」
「そうでない事を祈ります」
ただ、恋神さまがポツリといった言葉に、私も本音を少しもらしてしまっていました。
「どうしようか」
「いえ、どうしようかと言われても、恋神さまの判断ということになります」
「そうだよねぇ」
そう逃げることしかできないので、そう言う事しかできないのですが。
もし例えば、例えばの話ですが、恋神さまに、この願いをかなえてほしくないと言ったらどうなるのでしょうか? でもそれは、恋神さまの巫女としてではなく、私個人の話というよりは私個人の願いなのです。
それを願えば、恋神さまにお願いしてきた、あの少女の願いを踏みにじることになってしまいます。
だから、恋神さまの判断に任せるしか本当にないのです。
そういって逃げる事しかない、ただ何か言わないといけない、焦りとともに口から出たのが、聞きたいこと三園さんをどう思っているかです。
「恋神さまは、三園さんの事をどう思っていますか」
「美人だなぁと思うことはあるよ」
「そうですよね」
恋神さまは、あまり間をあけず、こちらの意図には気づかずに答えてくれました。
聞きたいことだったはずなのに、聞きたくないと思いますが、ただ、それでも口は勝手に、言葉を発していく。
「そんな美人の人と恋人になれるかもしれませんよ」
「いや、うんでも三園さん自体が僕を好きかも分からないし、あの子がからかっていっているだけかも」
あの女の子が、ただ単純にからかっているだけではないと思います。
斉藤さんづてではあるが、部活に入った理由も聞いていて、恋神さまに告白するためです。
それも言いません、唇が喉がこんなにもカラカラと乾き、喉から出た言葉を飲み込みます。
三園さんが、恋神さまに対して今もまだ、緊張しすぎて、美人の後輩の三園さんが、好きだったらどうするんですかと言う言葉もかろうじて飲み込みました。
「まぁ そうですよね」
どうせ、すぐに分かってしまう事です、なら私が今言う必要はないとまた逃げだします。
「恋神さま 多分すぐに答えを出せというわけではありませんよ」
「そうだね」
「ですが、恋神さま自身が判断されて、決意して答えをだしたことなら文句は言えません」
本当は付き合うことになれば、文句はありますが、それでも恋神さまの判断でしか答えしかないでしょう。
「でも、本当にどうしよう」
恋神さまのつぶやいた問いに答える事は、これ以上は何もいえずに、ただ隣で並んで歩いているだけでした。
「それではこれで」
「あぁうん そうだね さようなら神田さん」
恋神さまは返事をするのも上の空でした、恋神さまにしてみれば、晴天の霹靂の状況でしょう。
それでも私にとっては、いつかはくるはずと暗雲を予測していた状況なのです。
それでもまだ日があると、勝手に思い込んで、不意にふってきたあの女の子言葉は、嵐と見間違うほどに吹き荒れるようでした。
そしてそれは、遠くない日に、私は、恋神さまの答えでは晴れか嵐か、どうなるのか分からない日に思いを少しよせ、家へと一人帰っていきました。