提案
「オクレテスイマセン」
「練習はしていなかったみたいですね」
おやつの買出しを終えて、部室に入ると、ぐったりしている恋神さまが机に突っ伏していた。
今日は朝からあの調子でぐったりしている事が、多かったので休憩というよりは、やっていなかったのかもしれません。
「いや、していたよ今は休憩中」
「その様子を私ムービーで一部撮っていますよ」
「なんでムービーを撮っているの、消してよ斉藤さん」
バッとすばやく起き上がり抗議する恋神さまの様子からして、とても恥ずかしいものが映っているのでしょう。
「消してあげてもいいですが、条件があります」
「条件?」
「えぇ さっきいった事にも絡むんですが、恋神さま私とデートしましょう」
恋神三園さんがその言葉を聞いた途端に倒れ、それを合図にしたかのように一瞬だけ時が止まり、空間が一切の音を遮断する、数秒後にその意味を頭で、理解できた私は声を出していた。
「斉藤さん」
「大きな声ださないでくださいよ」
「出します」
「いえ、まぁ興奮しないで話を聞いてくださいよ神田先輩」
実に玩具で遊んでいる、子供のように楽しそうに笑う後輩、こんな顔をする時の話なんて、ロクな話ではいないと言う事を、容易に想像できる。
「斉藤さん、さっき言った事って、鍛えるということ?」
「えぇそうです」
「さっきの話というのが分からないのだけど、それがなんでデートという話になるの」
「実際に告白した経験があるかないか、これだけで大分違うと思います」
どうやら、恋神さまと斉藤さんは、先程何か話しあっていたようだが、それがなんでデートに結びつくのかが分からない、確かに実体験をもとにすれば、照れとか度胸とかはある程度つくでしょうけれど、昨日までの練習でも、ある程度度胸はつくとし、慣れていくはずである。
「それに、ラブレターを書くならこういう事も、経験しておいたほうがいいんじゃないですか?」
「それはそうかもしれないけど」
ため息をつく事で、若干の抗議の意味をこめたのですが、やはり届いていないようで、恋神さまは流されつつあるようで、なにやら考えこんでしまっている。
「斉藤さん、時間はあるといっても有限です、遊びたいなら文化祭が終ってからでもいいはずよ」
「いやだなぁ、遊んでいないといっては嘘になりますが、これは重要な事だと思いますよ」
「確かに」
「恋神さまは、今は黙っていてください」
とりあえず、この状況をなんとかしないと、ロクでもない事になりかねない、
私が、眉間を抑えながら、状況をどうにかしようと搾り出そうとすると、ポンとわざとらしくジェスチャーをしてにこやかに微笑む後輩がとても憎たらしく思える。
「奥居先輩、やっぱりデートは私たち3人としましょう」
斉藤さんは自分と、いまだに気絶している三園さん、そして私を指差した。
「あっ皆で遊びにということ ならいいかな」
恋神さまの不用意なうなずきに、斉藤さんは今日一番の微笑をみせたのだった。
「じゃあ奥居先輩、それぞれとデートするために、休日の三回あけて置いてくださいね」
「三回?」
「デートは一対一の事をデートと言うんですよ、一人一日と言う事で決定ですね」
斉藤さんは、実に楽しそうに鼻歌をまじりながら、三園さんを揺り起こそうとしている、困った顔でこちらを見た恋神さまには、悪いのですがもうどうにもならないです。
「諦めるしかないでしょうね、迂闊に返事をするからそうなるんですよ」
「はい、すいません」
「まぁ練習と思う事です」
それぐらいしか、アドバイスをする事ができなかったが、斉藤さんはそれをかき消すように、余計な一言を付け加えた。
「そうですよ、奥居先輩 練習を本番、本番を練習と思えば、いいんですよ」
「それ、本番だとしたら僕酷い奴なんだけれど」
「それはそれですよ、 まぁデートが終るまでデータは消去しませんよ」
恋神さまは斉藤さんが、ダメ押しとばかりに見せた携帯の動画で、抗議する気力を失いうなだれていた。
とりあえず、デートについては、心の中で小躍りしそうな自分を抑えつつ、これが彼女の言う応援なのか、それともただただ、恋神さまや私をからかっているのかは、彼女の笑顔にかき消されわからずじまいだった。