ラブレターを書く
電話越しに聞いたせいで、もしかしたら、万が一の可能性だが、聞きまちがえた可能性があるかもしれない。
今日の放課後の漫画を使った練習で、疲れた精神が、帰宅しても、回復していないせいで、聞いた言葉を、ネガティブに変換したのかもしれない。
そんな可能性を期待して、神田さんに聞き返した。
「ごめん もう一回いって」
「何回聞いても、結果は変わりませんよ」
神田さんは、僕に先程の、お告げをゆっくりと、聞き分けのない子供に、言いきかせるように言ってくれた。
「文化祭で読み上げる、ラブレターは、ご自身で、ご自分の言葉で、ご自分の言葉で、発表するようにとのことです」
確かに、何回聞いても結果は、変わらなかった。
むしろ、再度聞いても、信じたくはない気持ちで、いっぱいだった。
「それでは頼みましたよ」
神田さんにそう言われて、思わず
「はい」
そう答えてしまった、自分を殴りたい、さらに言うならば、僕に無理難題、羞恥プレイを、押し付けている、まだ見るどころか、声すら聞いたことのない、僕じゃない恋神さまを殴りたい。
神田さんとの電話が、終わった後、机に向い、予備のノートに、書き出そうとしたが、一文字も書けない。
まるで字を書くことを、拒否するかのように、手が動かず、頭も動かず、ノートは、僕の頭同様に、真っ白のままだった。
このままではいけないと思うが、神田さんには、相談しづらいために、アドバイスを求めべく、斉藤さんに電話をしてみるが、タイミング悪くコール音のみだった。
留守電に入れたり、メールを送って見たものの折り返しの電話や、メール返信は、返っては来ないまま、時間は過ぎていった。
その間も、何度かラブレターを書こうとするものの、一切ノートは、汚れることもなく、新品の状態で、机の上に、異様な存在感を見せつける、オブジェとかしていた。
ふと時計を見ると、今日から明日へと切り替わる時間へと、変わりそうな時間になっていた。
時計を見たせいか、それとも偶然か、小腹も空いたし、眠気も、多少ながら出てきていた。
ノートを閉じて、夜食を食べる準備をしようと部屋から、出ようとした時に、神田さんからメールが届いた。
こんな時間に、神田さんから届くのは、珍しいと思い、メールをチェックすると、そこには、今の僕を、見ていたかのような内容だった。
【恋神さま 一文字も書けないからといって、深夜まで起きて書こうとすると、ロクな文面になりませんからね。 文化祭まで、日はあるのですから、起きていたら、眠ることを、お勧めします。】
神田さん、すごい的確に、状況を把握しているなと、感心する。
まぁ深夜に入って、ラブレターを書くと、後で、自分でも読み返して、悶絶するほどに恥ずかしくなるというのは、よくきく話だ。
神田さんに、お礼のメールを、返信して夜食を食べて、眠ることにした。
眠る前に、一度だけと、ノートを開いて、ラブレターの文面を書いてみる、意外に今度は書ける、調子に乗って、続けていくと、その分筆が進む。
そして、朝その文面を読むと、あの時何故こんな文面を書いたんだと、赤面しながら、消しゴムで消して、ノートを引きちぎりゴミ箱へと捨てた。
神田さんの言うとおり、ロクな事に、ならなかったと反省した。