青春とはかくも遠く
文化祭での発表のために、ラブレターの読み上げる練習のために、斉藤さんがカバンにしまっていた少女マンガの台詞を恋神さまは、詰まってしまったり、しどろもどろになってしまっている。
「恋神さま、声がでていません」
「あぁうん」
「神田先輩が睨みつけるからじゃないですか?」
「睨みつけていないわよ」
本当に失礼な後輩である。
もしかしたら、ただの練習と必要以上に気にしないように顔をひきしめしすぎて、知らない間に睨みつけていたのかもしれない。
「オクイセンパイ ファイト デス」
先程恋神さまとの練習で、緊張しすぎて倒れてしまった斉藤さんは、床に突っ伏したまま、恋神さまにエールを送っている。
「三園さん、あなたも片言なのと緊張で倒れるのをどうにかしないといけないのよ」
「ワタシ ガンバリマス」
頑張りすぎて、倒れてしまうのも問題ではあるが、緊張しすぎて、倒れてしまうう三園さんは、もしかしたら恋神さまと同じぐらいか、それ以上に手ごわい問題かもしれない。
「やれやれ前途多難ってところですね」
「そうね」
練習のしすぎで、ぐったりしている恋神さまと、それに輪をかけて緊張で倒れている三園さんの二人をみていると、流石に上手くいのかと心配になってきてしまう。
「しかし、奥居先輩たかが恋愛マンガ朗読するぐらいでなんでこんなに疲れているんです?」
「いや、これ案外きついよ」
まぁ人前でマンガの朗読というのは案外緊張してしまうものという事を、私も身にしみて分かった。
恋神さまは、告白の相手役や告白と何度もしている、それが身悶えるほどの甘い台詞を読み上げていくのは、男子の恋神さまにはハードルが高いのかもしれない。
「まぁ甘ったるさ全開ですけどね、此処まで奥居先輩が酷いとは」
「斉藤さんがまともにできたのは驚きだよね」
「ふふふ、くぐってきた場数が違うのです」
自慢げに言うだけあって、彼女はきちんと恥ずかしがらずにやり遂げていた。
「カンダセンパイ アドバイスヲ クダサイ」
「普段の本読みと一緒よ」
普段の本読みと言い聞かせて読んでいたので、多少の緊張というのはあったものの、なんとか上手くいったとは思う、とはいうものの斉藤さんは、声もでて、しかも感情をこめて読んでいたので、一番上手いのは彼女だった。
彼女に比べると私も練習が必要と思った。
「全くアドバイスになっていませんねぇ、カエデは本読みでもこの調子ですよ」
「じゃあ 貴女がアドバイスしてちょうだい」
多少の悔しさもあるが、そこはしょうがないと割り切って、私もアドバイスを聞きたいのもあって、三園さんへのアドバイスを促した。
彼女は自信満々に三園さんに言い放った。
「ふふふカエデ あなたに教えることはもう何もないわ」
「アリガトウゴザイマス」
「何も教えていなわよ」
一気に疲れがわいて、座ってお茶を飲んでいた恋神さまのそばで私も休むことにした。
「はい お茶」
「あっ ありがとうございます」
こんな調子で本番は大丈夫なのかと、お茶を飲みながら、そう感じてしまう。
「いやぁ 難しいよね」
「もう少しがんばりましょう 恋神さまも」
「はい」
まぁでも 恥ずかしながら、告白される気分を味わえたのは、うん まぁ悪くないと思ってしまう私を、いつのまにニヤニヤしながら見ている、斉藤さんに気づいた。
そんな彼女を睨みつけながら、私は再度お茶でのどを潤すのだった。