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 新学期もそろそろ折り返しにかかる、僕はといえば相変わらず文芸部の部室で後輩の斉藤さんがもってくる恋愛相談という名の厄介ごとを、恋神さまとして解決しているのか微妙な回答でお告げを出して、神田さんは神田さんでそんな状況を見守ってくれているのが、異常から日常へと変わってきている。


 1学期が折返しということは、学業も折返しになり生徒にとっては最初の学業を試される中間テストの期間へと差し掛かってきている、恋神さまと呼ばれてはいるが僕も鳥居高校に通う高校生であるためそのテストという苦行からは逃れられないのである。


「へぇ 先輩は勉強するタイプなんですね」


 部員でもないのに、部室に常備されているお茶をすすりながら持参したチョコレート菓子を食べながらのんきに話しかけている斉藤さん、テスト準備期間というのに参考書はおろかノートすら書く努力をしていない、進学高校ではないゆるい鳥居高校だし1年の最初のテストなんて先生によっては、中学のおさらいが主だったりするのでそれほどきつくないが他人事ながらそれでも少しはやったほうがいいと思う。

 ちなみに神田さんは予習復習をきちんと毎日こなすタイプらしく特にテストの準備期間だからといって僕みたいに必死に頭の片隅に単語を覚えるといったようなことはせずに、黙々と本を読んでいる余裕っぷりである。


「そういやお二人は仲悪いんですか?」

「えっそんなことないと思うけれど」


 最近校内で会話があるのは斉藤さんを除けば神田さんのみだ、恋神さまになっていらい校内で何かいじめかというぐらい他のみなが会話してくれない、そのため必然的に会話するし、恋神さまとしてのお勤めの時も会話をする。 

 まぁ仲がよいか悪いかの2択であればの話であるが、その2択であれば仲がよいといって差し支えないのでないかと思うし これでも恋神さまやる前よりは事務的会話より日常の会話も増えてきてはいるし


「いやいや だって恋神さまと巫女の関係の割にはなんか空気が違うんですよね」

「そうか?普通だと思うんだけど」

「神田先輩はどう思います?」

 本から顔を上げてこちらをみた後に評価をくれた。

「普通だとおもう」

「そうですか?」


 どうにも納得のいっていない斉藤さんはやっぱり違うよなぁといいながら食べかけのチョコレート菓子を頬張る作業に戻ろうとしたとき突如声を上げた。


「そうだ、そうだ先輩相談があるんでした」

「またかよ」

「私がここにくるのは大抵ご相談の件ですよ」


 まぁ、文芸部員でないのに部室にいるのが当たり前のようになっているせいか違和感をだんだん感じなくなって入るが 斉藤さんは大抵彼女自身か彼女の友達の恋愛相談しにこの部室にくるか、ただ単に時間をつぶしにくるかのどちらかではあった。


「いやぁこれは友達から聞いた話なんですけどね最近うちの学校の音楽室に出るらしいんですよ」


 斉藤さんは声を途中から低くして律儀にも両手と舌をつかって古典的なおばけの表現をしてくれたがあまり食いつきがよくないのを見ると通常のトーンに戻っていった。


「まぁよくある話なんですが放課後になると誰もいない音楽室から不気味なピアノの音が聞こえる」

「よくある話ね」

「まぁ神田先輩そうなんですが、ここからが違いますよカップルでないとその音が聞こえないんですよ」

「いや、まぁ確かに鳥居高校らしい話だね」

「それで相談というのは?」

「相談というのはですねその幽霊の退治なんですよ」

「放っておいて問題ないと思うんだけど」


 恋神さまは別に除霊をする神様ではなく、鳥居高校に恋愛に関する出来事での悩みならまぁしょうがないかなと思うが、今の話を聞いても特に悩みなどないと思ってしまう。

 なにせ音楽室によらなければいいだけの話だ、神田さんにどうするといったようなニュアンスでみると期待した答えは返ってこなかった。


「それではいきましょうか恋神さま」

「えっマジで」

「はい お告げがありましたので」


 誰のとは聞かない、どうやら恋神さまとやらは2人いて僕にはお告げをいまだにくれないが、巫女たる神田さんにはお告げがあるらしい。


「あのさ恋愛にこれ関係あるのかな?」

「お告げによると、恋というのは出会いの場所だけ生まれる可能性があるのです、また愛というのは逢瀬の数だけ育めるものなのです」

「あぁはいはい」


 要するに放課後に音楽室でデートするカップルや未来の恋が生まれる可能性のある場所を守りなさいということだ。


「それじゃあ私はここで待っていますね」

「お留守番よろしくお願いします」


 音楽室に行くと確かにピアノが鳴り始めてきた、うん音楽とかはあまり詳しくはないがピアノでここまで不気味な音は聞いたことがない。

 怨念という感情を音で表現したというのであれば確かにこの音になるのだろうと思うぐらいにいやな感じがしてくる。


「ねぇ神田さんは大丈夫」

「いえこれはなかなかつらいです、恋神さまは余裕がありそうですね」

いつもの涼しそうな表情を無理してつくっている感じではある、よく見ると神田さんの額にはあぶら汗が流れ始めている息もすこし荒くなっているの。

「それではどうにかこの案件を勤めてください」

「あぁうんそうだね」


 神田さんが倒れそうになったため、抑えるため神田さんの体を抱きとめると神田さんの先ほどまでの少し荒い息が収まっている。


「あっ今すごく楽ですね」

「そうなの」


 もしかしたら恋神さまのご利益のおかげなのかも知れない、僕も先ほどまで感じていたいやな感じではなくむしろ神田さんと触れ合っていたほうが居心地がよかった。


「とりあえずこのまま打開策を考えてください」

「うん」


 いや、正直神田さんとの距離がものすごく近いので考えようにも考えがまとまらないというのが本音ではあるが、いつまでもこうして抱きとめた状況をしておくわけにもいかない。

 どうにかしてピアノの音が聞こえないようにしないといけないのだがそれよりも神田さんの体の感触やときおり聞いてしまう吐息の音のほうに意識を集中してしまうのも考えが上手くまとまらない


「恋神さま」

「あっ なに?」

「ピアノが止まっているようです」


 確かにとまっていた、何もしていないのだが恋神さまのご利益というものなのか? とりあえず神田さんと離れてみるが、やはりいつの間にかピアノの音が鳴り止んでいた。


「えぇと戻ろうか」

「そうですね」

 

 若干の気まずさがそこそあるがとりあえず文芸部室にもどると斉藤さんが呑気にまっていた。


「お帰りなさいどうでした」

「たぶん大丈夫だと思う」

「さすがですねぇ あれ?なんかありましたか」

「何もなかったわ いつもどおり恋神さまが解決しました」

「そうですか いえお二人の雰囲気が仲よさげだったものですから」

「別に普通だよ ねっ神田さん」

「そうね恋神さま」

「まぁ いいです解決したならそれでいいです」


 先ほどとはちがって一人納得したかのようにうなずく斉藤さんはなにやら嬉しそうに部室からでようとしたところを珍しく神田さんが声をかけていた。


「あぁ斉藤さん たまには一緒に帰るわ」

「珍しいですね」

 

 一人残された感じになる僕は試験勉強もどるべくしばらくは神田さんとのことで単語が頭に入ってこない実に無駄な時間をすごす。



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