舞台は近づく
二学期が始まりひと月ほどたち始め三園さんが僕と二人になったても気絶する回数が3日に3回へと減り、何とか文芸部の部活も穏やかに、恋神としては特に拝まれる回数が日を重ねるたびに増えるぐらいでこれといってかわらない日々を過ごしている。
「どうですか先輩方 カエデ進歩したでしょ見てくださいこのやる気に満ち溢れた顔を」
斉藤さんがドアを開きじゃーんと効果音をだしそうなぐらい、自信満々に目にアイマスクをつけて三園さんを引っ張り込むように部室に登場した。
「いや退化しているよ 目隠しをして舞台に立てるわけないよ」
「いえ 恋神さまその前に顔がわかりませんよ」
拝まれる回数が多くなったということは皆がだんだんと色めきだちはじめているということで、文化祭の準備それがいま直結しているイベントだ。
文芸部ではラブレターの朗読というすごいはずかしいものを、体育館のイベントで利用することになっている、僕一人じゃ心もとないというか男一人がラブレターを読むという擬似告白というなんとも恥ずかしい出来事に耐えられないと申請したところ、斉藤さんはあきれた顔ではあったが僕の要望をかなえてくれた。
すなわち皆でやれば恥ずかしくないという非常に自分勝手で皆にも恥ずかしい思いをさせてしまうというなんともな話だ。
「まぁ三園さんは無理にたたなくてもいいと思うよ」
「サンカシタイノ デス」
「ほら見てくださいかえでのやる気に満ちたこの目を」
「いやだから目隠ししているから見れないよ」
三園さんがやる気なので、後は本番などで緊張して気絶しないかとか舞台前に緊張しすぎて倒れないか心配だ。
とくに緊張しすぎて倒れる三園さんには大変もうしわけないので三園さんには無理しなくてもいいと思う。
気絶して失敗してさらにトラウマになってという負のループに陥ってしまわないかというのも心配だ。
「心の目でみるのですよ奥居先輩」
むちゃくちゃな斉藤さんはいつにもましてテンションが高い、まぁイベントが好きであまり物怖じしたところを見たところがないので彼女は大丈夫だろう。
「何でこっちを見てるんですか恋神さま」
「神田さんは緊張しないの?」
「緊張は私だってしますし、上手くいくか不安ではあります」
神田さんは僕の中でソツなくこなすイメージがあるんだけれど、やはりこういった場面では緊張するのだろう。
「ただ恋神さま、本番はまだまだ先なんですよ、今から緊張してどうするんですか」
「ごもっともです、いやでも考えたら緊張とか不安とか押し寄せるんだよねぇ」
「しっかりしてくださいよ 恋神さまはメインを勤めてもらうんですから」
「それ、神田さんじゃ駄目なんだよね」
「無理ですよ、恋神さまとしての役目でもありますし部長としても頑張ってください」
やはり一番心配なのは僕自身がうまくその役目をつとめることができるか、不安で仕方がない、多分この不安は気恥ずかしさと緊張が重なりあって、その重みでなけなしの自信がなくなりそれがさらに気恥ずかしさと緊張を生んでいくという不毛すぎる事態に陥っている。
「恋神さま 不安なら私でよければ練習いくらでも付き合いますよ」
「そうですよ、せっかくの文化祭なんですから楽しみましょう」
「キンチョウホグスホウホウ ヒトヲヒトト オモワナイ」
緊張の代名詞の三園さんは説得力のまえに何かが間違っている気がする。
「そうだね、ありがとう頑張ってみるよ」
不安はまだまだ続くだろうけど、文化祭の本番はまだまだ先なのだし、さしあたっては神田さんの言うとおり練習して、少しでも楽しんでいければいい。
文化祭の準備期間といういつもとは違った日常は始まったばかりなのだから。