からかい
「それでなんでせっかくの休日なのにアナタに会うのかしらねぇ」
「いやはや運命ですかねぇ」
斉藤さんが不思議なことに書店にいる、そして運の悪いことに斉藤さんに見つかってしまった、平静を装うがそれでも並んでいるコーナーがコーナーだからかわれることは間違いない。
案の定 猫にまたたびをあたえたような極上の笑みで近寄ってきたので、けん制してみたのだが気にすることはなく気軽に声をかけてきた。
「いやぁでも意外ですねぇまさかこんなところにいるとは」
「そう?」
「意中の彼に思いを伝える10の方法ですか? それともこっちの恋をしたときに読む本ですかね」
「別に違うわよ」
案の定からかわれてしまうのだが、どうやら最初から見かけたわけではなさそうだと安堵の反面、やはり本屋にせずネットで調べるべきと思っても時はすでにおそし、見つかりたくない相手に見つかってしまった、世の男性がそういった本を隠す心境というのはこういうものなのだろうか、気恥ずかしさと見栄と屈辱が入り混じったなんともいえない感情が私の中で渦をまいていく。
「いやでもまぁこういった本を読むより、恋を色々経験してきた身近な人に相談という手が一番ですよ」
「結構よ」
「これでもクラスメイトの恋の相談にいくつものっていますからね、信頼と実績はありますよ」
「それ恋神さまが解決したやつじゃないの?」
「まぁそうともいいますね まぁ海千山千とは言いませんが私だってそれなりに恋を見てきましたよ」
そうとしか言わないが、まぁ彼女は私をおちょくりたいだけなのだろう、気にせずに本屋をでることにしよう、ここにいても彼女との会話で精神を疲労するだけなのだから。
そう思い手にとっていた本を棚にきちんと戻し本屋を出ようとするが、やはりというかなんというか彼女はひょこひょことついてきている。
「まだ何か用なの?あなたに恋愛相談なんてしないわよ」
「あぁでしょうね、まぁ私が勝手にしゃべるだけというなら構いませんよね」
「大体あなた平等に応援するんじゃないの?」
「おや手厳しい、まぁ昨日カエデの手助けをしたのでそのへんは問題ないですね」
「へぇ二人きりにでもさせてあげたのかしら」
「いやぁカエデの恋愛相談を恋神さまに持ちかけました」
三園さんのあの気絶する状態で昨日の今日で進展がそうそう望めるわけはないと分かってはいるがそれでも私から思考をしばらく奪うには十分すぎる発言に思わず足がとまってしまう。
「まぁそれでも進歩はしたと思いますしね、何せカエデに恋愛成就のお守りのプレゼントをしましたから恋神さま発案ですよこれは気があるとしかいいようがありませんね」
必死になにかの否定材料を思いつく限りしようとするが、どう否定しようというのだ、わからないまま
足も口も震えて動かない私をみて斉藤さんは笑う
「なぁんてね、冗談ですよプレゼントはカエデが緊張しすぎないようにとあげたお守りですし、後輩にたいする義理ってやつです
「冗談にしては悪意があるようにいったわね」
「いやぁそのほうがリアリティあるかなぁって思いまして おっとすいませんその握りこぶしは危険です」
反省する様子のない斉藤さんの態度をまえに私はつい手に力がはいっていたようだ、たとえ義理であげたとしてもこのむなしさにも似た嫉妬で息がつまりそうになった私の気持ちを弄んだ彼女を一発平手ではたいても私は罪に問われないかもしれない。
「恋神さまへの相談はあれも嘘なの?」
「あれは本当ですが、流石に恋神さまにカエデが告白するとは言っていませんよ」
「そう」
「私はそこまで野暮じゃないですから、あくまで平等に応援していますよ」
「安心できないわね」
にやにやしながら実に楽しそうに応援する斉藤さんをみて、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてしまえという言葉があるが、おもしろおかしく人の恋を眺めてあまつさえかき乱そうとしているようにしか思えない後輩をどうやってまいて、買いそびれた目当ての本を買いにいくか悩んだ。
みつかればきっとまたからかいのネタにされてしまうのは目に見えているからだ。