格言
「いやぁ 一筋縄ではいきませんねカエデは」
とりあえず、部室で本を読んでいた僕をみるなり倒れた三園さんを介抱する斉藤さんも苦笑している、緊張しすぎて気絶するとは実に難儀な体質という以外にない。
「これは特訓が必要ですね」
「特訓して治るようなものなの?」
「分かりませんが、こう気絶ばかりしていたらカエデ、恋できないじゃないですか」
「あぁ確かにね」
「それは流石に可愛そうです、それに恋ができないとなると私と恋バナができないじゃないですか」
まぁ後半の恋バナはともかく確かに三園さんがこの体質で恋をしたなら好きな相手のまえで緊張しすぎて気絶とかしていたら恋もままならないだろう、相手の人がとてもビックリするか、ドン引きするかだと思う。
「はい そういうわけで奥居先輩いえ恋神さま、カエデの特訓付き合ってくださいね」
「うん やっぱりそうなるよね。」
「はい ご相談ですから」
そういうと斉藤さんは、にっこりと笑う、友達思いなのか、それとも自分が恋バナをしたいだけなのか判別しにくい裏のありそうな笑顔ではあったが、数すくない新入部員でもあるし、一応は恋の相談とも言えなくはないので特訓に付き合うことにした。
「特訓って何するの」
「さぁ?」
三園さんが起きる前に特訓の内容を確認したかったが、斉藤さんはノープランだったようだ、首を傾げる仕草はわざとかと言うぐらいまでに可愛かったが、特訓の内容を決めていないのはごまかせてないから無意味だと思う。
「一緒に考えればいいんですよ、三人いれば文殊の知恵といいますし」
「一人気絶しているけどね、あと三人寄れば文殊の知恵じゃないのそれ?」
「細かいことはどうでもいいんですよ、要するに緊張しなければいいんですよ」
「そうだろうね」
三園さんは、緊張して片言になったり、気絶してしまうのが問題ならば、緊張しなければいいというのはそうなのだが、どうやれば緊張しないような精神力がつけられるのかというのがわからない。
「古典的な方法ですが、手のひらに人を書いて飲み込むというのがありますよね、それを毎日続けるのはどうでしょう?」
「飲み続けても効果は期待できないね」
「わかりませんよ、プラシーボ効果でしたっけそれに期待してみましょう」
「いや三園さんが信じてくれるかどうかによるよね」
「じゃあ後はもう、度胸つけるためにバンジージャンプしていくしかありませんね」
僕もアイディアを出さないとこのままでいくと、斉藤さんのアイディアで三園さんが、ひどい目あいそうな気がする。
だからといって、僕に出来ることもあまり無いし、一番三園さんに負担がないのは手のひらに人を書いて飲み込むという気休め程度のものなんだよな。
一つアイディアは浮かんだけれど自信はない。
神田さんがいてくれたら、マシなアイデアを出してくれるんだろうけど、今日は体調不良で休んでるし、お昼に電話した時は少しは元気そうだったけれど、流石に電話して相談するのも悪いよね。
「先輩、どうかしましたか?」
「あっ うんプラシーボ効果でいこうかなって」
「手のひら返しですね、さっき否定したじゃないですか」
「一応手のひらに人を書いて飲み込むよりはいいと思うよ、好きな人の前で緊張しすぎないように、僕が御守りを作るよ」
とりあえず、気休め程度、好きな人の前で緊張しないように、緊張が和らぐように恋神らしく恋愛成就祈願と書いた御守りを作る事にする。
「先輩の手づくりですか、ご利益ありそうですね」
「いやどうだろうね」
「カエデも喜びますよ」
斉藤さんと僕は手芸部に布と裁縫セットを借りて、三園さんが気絶している間に即席の御守りを作り、三園さんが目を覚ましたあと御守りを渡した。
「嬉し過ぎて気絶とは、さすが カエデ 一筋縄ではいかないですね」
見事にまた気絶した、三園さんを見て苦笑しながらため息をつく斉藤さん。
まぁよく考えたら恋愛成就祈願の御守りでは、慣れない部活動の先輩、しか男の人との緊張が改善するわけはない。
三園さん心の中で謝りつつ、下手な考え休むに似たりのことわざを痛感した。