ごまかし
急いで部室に戻ると、恋神さまが、三園さんの頬をぺしぺしと叩きながら土下座をしているなんともいえない光景が目の前にあり、その横では一人笑い声を抑えようともせずに斉藤さんだけが、この状況を楽しんでいた。
「大体事情は分かりましたが、携帯とかで連絡してください」
「そうだよね」
まぁ突如見知らぬ女生徒が、部室にいていきなり倒れたということなら混乱してもしょうがないとは思いますし、事情も分かりましたが、三園さんは本当に日常生活遅れているのか心配になるレベルのあがり症ですね。
これで告白なんてした日には彼女どうなってしまうんでしょうか、まさか死なないですよね、ちらりとぐったりしている三園さんをみて他人事ながら心配をしてしまう。
斉藤さんに保険室の先生をよんでもらっている間に会話が途切れるのも何か気まずいものがあるので当たり障りなく、三園さんのことについて話すことにした。
「とりあえず彼女の入部どうします?」
「えっ あぁうん」
恋神さまをみて、いちいち気絶しているのでは、部活動にならないし下手したら生命活動すら危ういし、そんな状況では部活動は厳しいとは思いますが、まぁ文芸部としては本を読んだり、創作したりで、肉体的にはきつくはないが気絶ばかりでは精神的に、こちらがきついといわざるを得ない。
「まぁ緊張してということなら慣れれば問題はないと思うよ」
「そうですか、まぁ顧問の先生にも伝えていれば問題はないでしょう」
「あっちょっとまってメール 斉藤さんから」
恋神さまの携帯にメールが届く、恋神さまは、その文面をみると困ったような顔になったところを見ると、どうやら保険医はいなかったのだろう。
「保健室しまっていたみたい」
「なら彼女が目が覚めるまでいるしかないですね、とりあえず斉藤さんには戻ってくるように伝えて下さい」
「分かった」
恋神さまが、返信をしようとすると突如、むくりと先ほどまでぐったりしていた三園さんが起き上がった。
「三園さん大丈夫ですか?」
「オキマシタ セイジョウ イジョウナシ」
私が声をかけるとゆっくりと首を縦に振りながら、相変わらずの片言ではあったがどうやらどこか痛むということはなさそうだ。
「とりあえず大丈夫みたいですね」
「シンパイ カケマシタ」
「三園さん 今日は帰ってゆっくり休みなさい」
「そうだね、それがいいかも」
「ハイ、ソウシマス キョウノモクテキモ タッセイシマシタシ」
「一人で帰れますか? 不安なら私か斉藤さんが付き添いますよ?」
「イエ ヒトリデ ダイジョウブ モンダイナイデス」
また倒れないか心配ではあったが、恋神さまにあったら緊張して倒れるのであれば一人で帰ったほうがまだ安心なのかもしれない。
「そう、ならまた明日からよろしくね」
「ハイ、オクイセンパイ カンダセンパイ サヨウナラ」
カクカクとしながらも、律儀にお辞儀して帰っていった三園さんがでていった後に精神的な疲れが大きいのか恋神さまと同時にため息をついてしまう。
「僕らも帰ろうか」
「そうですね、斉藤さんが戻ってきたら今日はもう帰りましょうか」
「そういえば三園さんの目的ってなんだったんだろうね」
「入部届けのことでしょう」
「そっか」
恋神さまは、それで納得してくれたのだけど、私にはある不安が付きまとった。
本当は恋神さまに会いに来たのではないか、好きな恋神さまのいる部活に入るためだけにきたのではないか、恋神さまと話すために部室に来たのではないか、いろいろな憶測が、駆け巡り先ほど決意したことすらも折るように、いやな空気が私の身体を駆け巡り、思考もどんどん暗くなっていくような気がした。
私はとりあえず、ため息をつきいやな空気を外においやることにした。
もちろん一時的なごまかしでしかないことなんて分かりきっていたが、それでもため息をつかずにはいられなかった。