ご利益
恋神さまという校内の七不思議にかかわる神様になったといったら電波な人かなと思われるので、僕はそんなことは言いふらしてはいないのだが、なにやら女性徒達から拝まれる機会が増えた気もする。
しかし拝んでいる女性徒には悪いが、僕ときたら恋愛経験がまるでないのだからそんな神さまを拝んでもご利益はないと思う。
「あぁ あれ気休めみたいなものよ」
神田さんに相談したところ、気にすることはないと言われた。
彼女は恋神さまの巫女である、これまで一度も僕自身は一度も聞いたことのない恋神さまのお告げによって彼女が巫女となっていらい、以前よりよく喋るようにはなった。
まぁ恋神さまとやらになって以来、校内で彼女とそろそろ来るであろう斉藤さん以外はあまり喋ってくれなくなったといった若干いじめに近いものがある状況に陥っているせいでもある。
「気休めねぇ」
まぁご利益ないとわかればそのうち拝み倒されるということはないだろう、まぁ気休めなら拝まれても別にいいかなぁとは思う。
「こんにちは」
「こんにちは」
見た目は一件不真面目そうなのに挨拶がきちんとできる下級生の斉藤さんはあの一件以来文芸部によく遊びにくるようになった。
遊びに来るだけで文芸部員になってくれないのは文芸部の部長としては、すこしさびしい感じがするが本人曰く授業中も寝ているだけ、教科書なんて開いたこともなく漫画ぐらいだというのだから、小説を読んだり書いたりするのは無理だろう。
「実はご相談があってきました」
「今度は武士の幽霊にでも告白されたの」
「いえ くのいちです」
「君はいつの時代に生きているんだよ」
「現代です」
「知っているよそれでなんで忍者に告白されているんだよ」
「あぁすいません 私の友達が忍者なんです」
「君の友達 忍者かよ」
なんで現代日本にいるんだよ、忍者しかも斉藤さん友達なんだ
「もっと正確に言うと忍者の末裔でしてその彼女は主君の末裔に恋をしているんですよ、それで互いにすきは好きなんですぶっちゃけ結婚したいぐらい好きだそうです」
「えぇとそれなんか悩むことあるの?」
結婚したいほどとは高校生としてはなんとも大きく出たものだ。
「恋神さま 恋に悩みはつきものです」
「いやそれはそうだろうけどさ」
話を聞く限り現代日本において何の問題もないと思う。
「さらに言うとその悩みを聞き道を示すのが恋神さまのお勤めです」
「わかったよそれでその二人がどうしたの?斉藤さん」
「時代を錯誤しているんです」
「?」
「ですから二人とも先祖が先祖ということで付き合えないんですよ」
「いや なんで?付き合えばいいじゃん」
互いに結婚したいぐらいすきなら先祖云々なんか関係なく付き合えよと思ってしまう。
「恋神さま 古い名家とかになると婚約者とか家柄そういったことも重要になるのよ」
「それです」
「あぁそういうことか親の決めた婚約者とかそういった話になってくるわけか」
そういった話は身近では聞かないが、ドラマや映画だとよく聞く話ではあるが実在するとは思わなかった。
「そういうことです」
「なのでどうすればいいんでしょうか?」
「大丈夫です 恋神さまがなんとかしてくれます」
「おいっ」
無責任にもほどがあるぞ この巫女と言いたい気持ちを抑えて神田さんを見るが伝わっただろうが、気にすることも無く神田さんは一言僕に伝えるだけだった。
「それが恋神さまのお勤めなのです 考えてください」
神田さん、いやそれ僕が助言してもどうにもならないよ、まさか駆け落ちを薦めるわけにもいかないし真っ当な方法としては親と話し合うぐらいしか言えないんだけどそれぐらいやっているだろう。
「どうですか 恋神さま」
斉藤さんには悪いがもう適当に答えるしかなかった。
「いやまぁ先祖が付き合い公認してりゃいいんじゃない 夢枕にたったとかそんな感じで」
「なるほど わかりました早速友達に伝えてみますね」
そういうと斉藤さんは部室からでて帰っていった。
「お疲れさまです」
「いや ねぇあれでいいの?」
今更ながらに不安しかない状態で送り出した事をすこし後悔した。
「恋神さまがそのように道を示したのであればそのように動くわね」
「えっ?」
「子供が夢枕とかそんな事いい始めたらどう思いますか?」
「頭おかしくなったとか思う」
「子供がそこまで思いつめていたら子を思いやる親であれば仲をみとめるでしょうし、子を思わない親なら子は子で燃え上がり駆け落ちまでいく可能性があるでしょう」
「そんなにうまくいくのかね」
所詮は気休めとそれらしい回答ができればいいと思ってあんな適当な回答になったのだが上手くいくかどうかときかれたらかなり確率は低いだろう。
「鳥居高校の恋神さまのご利益があれば大丈夫ですね」
「あるといいけどね」
せめて駆け落ちルートはやめてくださいと祈ろうとしたが、どうせなら上手くいきますようにと祈りなおしながら部室の時計をみると、そろそろ最終下校時間が迫っていた。
「さて帰りましょうか 恋神さま」
「そうだね」