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巫女もたまには祈る

 斉藤さんが正式に文芸部の後輩になって数日たつ、彼女はこれといって本をよむわけでもなく、創作活動にいそしむわけでもないだろう、基本的に今までどおりにきまぐれに遊びにきたりするだけと思っていたからここ数日意外といったら意外にも斉藤さんは、部室に毎日のように顔を出すようになっていた。


 まぁ顔を出すだけで、文芸部員としての活動というのはほぼしておらず、僕が読んでいる本の内容を聞いたり、僕と一緒にお茶請けのお菓子やお茶をかい出しに行く程度だ。


「誕生日を使った一発ネタかと思っていたよ」

「そうですか? 私にはそう見えませんでしたし、むしろいえこれは思い過ごしでしょう」


 神田さんには、なにやら思うところがあるらしい、女子には女子にしかわからない何かがあるのだろうか。


「それにしても斉藤さん遅いね」

「そうですね、まぁたぶん今日も来ると思いますよ」

「そうなんだ」


 すこし不機嫌そうな神田さんの言葉どおり、バタバタと走る足音が聞こえたと思ったら、ドアを勢いよくあける音ともに斉藤さんは現れた。


「事件です」

「事件って恋愛相談じゃないの?」

「いえ それもそうなんですかなんというか事件なのです」

「少しは落ち着いたらどうなの」

「落ち着いてなんていられませんよ、私のクラスに転入生ですよ転入生しかもロボットです」


 転入生がロボットかぁ、地蔵が歩いたり、幽霊だったりくの一だったり恋神さまなんてものがあったりと、そりゃあだいぶおかしいが怪奇現象みたいなものがあるくらいだしロボットが転入生でも不思議じゃないのか。



「斉藤さん熱があるみたいだから帰ってもらっていいかしら」

「ちがうんです、比喩ですよ比喩」

「あっ 比喩なの」


 ロボットかぁ一度でいいからみてみたいなぁとか思ってしまった、自分が恥ずかしい。


「当たり前じゃないですか、この時代にそんな精巧なロボットはいませんよ、先輩いつの時代を生きているんですか」

「現代だよ」


 パン パンッと神田さんが手を大きくならし、その音で脱線しそうな会話が途切れる。

 

「くだらないじゃれあいはそこまでにして それでその転入生がどうかしたの」

「いえどうやら、彼女は初恋の人を追跡してここまできたそうなんですが、どうも奥居先輩っぽいんですよ」

「僕?」

「それは大事件ですね」

 

 話にぐっと身を乗り出しながら神田さんは真剣に話を聞き始めたのだが、そこまでしなくてもというより初恋の人が僕でなんで大事件になるのかがわからない。


「いや、神田さんなんで大事件になるのさ」

「恋神さま考えてみてください 転入生の初恋の人が恋神さまって怪しすぎます、何か裏がありそうです」


 うわぁ、真面目な神田さんからそう聞くと怪しさ満開な気分になってしまうから不思議だ。


「謎の秘密組織とか謎の国家組織ですかねやっぱり」

「いやなんで狙われているの僕」

「お約束ってやつですよ 奥居先輩」


 斉藤さんは実に楽しそうではあるが、お約束で命を狙われたりしたら、嫌なんですけど、他人に嫌われることはあったかもしれないけど命を狙われるような酷いことをした覚えもない。


「それならあるいは本当に初恋の人とかですかね、昔仲良くなった女の子が転校したとかありませんか」

「神田さん僕はそんなモテないよ」

 

 女の子と親しくなったことがないという悲しい記憶を掘り起こしてみても、どう考えても思い当たらない

しそこまで親しくなった女の子なんて小さいときでも居なかった。


「いや本人忘れているだけで結婚の約束をしたのに覚えていないとか」

「ない 親しくなった女の子は君達が最初だし」


 悲しい現実ではあるが、まぁ恋神さまにならなかったら多分二人とも親しくはなっていなかっただろう。


「そうですか まぁ照れますね」

「照れなくていいから、でも本気で記憶はないな」

「向こうが一方的に知っているということもありますよ」

「斉藤さん同じクラスって事だけれどどういう娘なの?」

「文芸部の部長を知っているかとか、場所はどこだとか色々聞かれました、転入初日にそこまで聞いてくると聞いてくることにピンときましたこれは先輩に恋をしていると」

「えっ どこにその要素があったの?」


 僕と神田さんの力が抜けそうになってくるが、斉藤さんはクビをかしげて何があったのかわからないといったような顔になっている。


「文芸部にはいりたいだけじゃない? 君一応文芸部だし」

「あぁだから私に聞いてきたんですね」

「くだらない時間でしたね恋神さま」

「まぁまぁ 命狙われなくてよかったよ」


 結局は斉藤さんが尾ひれとか背びれを無意識につけただけというオチだったのだが、秘密の組織とかそんな事件めいたものは一切ないのだから、一息つこうとお茶を飲もうとすると神田さんだけがジト目でこちらを見ていた。


「初恋の部分は残念ですか恋神さま」

「あぁちょっとだけね、でもほらモテないってわかってるから期待していなかったというのが本音かな」


 まぁその部分だけはちょっとだけ残念ではあったが、モテない自分にそうそう浮いた話はでないので期待もあまりしていないのが現状だ。


「なるほどちょっとは期待したということですか」

「それはちょっとだけです、でもありえないよね女の子に告白されるの」

「ありえなくはないと思いますよ」

「そうだったら嬉しいけどね」

「じゃあ私が その ほら祈りますよ」

「ありがとう神田さんは優しいね」


 すこし言うのが恥ずかしかったのか、めずらしくテレ気味だった神田さんはそのあとは会話することも無く本を読みながら物思いにふけり始め、そんな神田さんをみてたまには祈られるのも悪くはないと、そう思った。

 

  


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