新学期
新学期がはじまり最初の部活動ということで、神田さんと二人で部室の鍵を借りようと職員室にむかったらすでに鍵が借りられている状態であった、幽霊部員が活動していることを若干期待して鍵の開いたドアをあけると我が物顔でよく見知った後輩の斉藤さんが部室のお茶をかってに飲んでいた。
「おや お二人そろって何よりですね」
「斉藤さん、鍵もそうだけど部員じゃないんだから勝手にお茶のまないでよ」
「まぁまぁ奥居先輩と私の仲じゃないですか」
「ただの先輩と後輩よね」
「神田先輩辛辣ですね、仲良く遊びにいったじゃないですか」
まるで、悪びれる様子のない斉藤さんだが彼女はよく弾む声で笑いながら、神田さんの厳しい視線を気にもしていないようだった。
「それで、何か用事? それとも相談事?」
「いえ、奥居先輩に誕生日プレゼントです」
「この間お祝いして貰ったからいらないよ」
僕の人生で、女の子と誕生日に遊んで、祝ってもらえるなんてない事だったから、あれで十分だったのにそのうえ、プレゼントまで貰ったら罰があたりそうだ。
「お世話になっていますし、やはりここはさしあげたいのですよ」
「そう悪いね」
「いえいえ、構いませんよ」
「お二人とも仲が良いのは結構ですが、第三者が鍵をかってに持って行っていい事にはなりません」
確かに、神田さんの言うとおりだった、まぁトゲのある言い方であったがその通りなので何も言い返せない、というか僕もそれを注意していたはずだがいつのまにか横道にそれてしまった。
そのこともあって僕も神田さんに睨まれている。
「まぁまぁ 私達の中に嫉妬していたら身がもちませんよ」
「違います、お二人が先輩後輩として仲のよいことはもう十分知っています」
まぁ今更あの程度のやり取りで怒るはずがないというか、神田さんが僕と斉藤さんの仲に嫉妬というのはないだろう、神田さんは僕のことをなんともというか恋神さまと巫女という形でないと、あまりしゃべらなかったはずだし今も多分そんな感情というのは沸かないだろう。
やばい、自分でおもって悲しくなってきた、悲しくなるのであまり考えるのはやめておこう。
「そうですかなら安心してプレゼントを渡せます」
「もう すきにしてください」
「はい そうさせてもらいます」
神田さんは斉藤さんにこれ以上何を言っても無駄だと思ったのかそれ以上怒ることもせず、本を取り出して部室で自分のいつもすわっている席に読み始めた。
そんな神田さんを尻目に斉藤さんはプレゼントを渡すべく、なにやら笑いをこらえきれないというかいたずらをする前の子供によくにた無邪気とこれから起きることにわくわくがとまらないそんな笑顔で近づいてきた。
「プレゼント何だと思います?」
プレゼントを渡すにしては、かばんをとりださず何も持っている様子がこれといってない。なにか図書券のようなものだろうとあたりをつけて言ってみる。
「図書券とか」
「そんな夢の無いもの渡しませんよ ヒント 男の夢」
「わからない 降参」
「少しは考えてくださいよ」
いや抽象的すぎてよくわからない、男の夢ってのもロマンあふれすぎて絞込みができないのだ。
「正解はほっぺにキスでした」
「はい?」
バッとマンガだったら効果音がド派手につくぐらいに、今ものすごい勢いで神田さんが振り向いた、いやたしかに驚くけどね神田さんのびっくりした様子でこっちの頭も冷えたというか冷静になった。
「よしそれは男の夢ではないなのでノーサンキューです」
「しませんよ 冗談ですし」
「からかうなよ」
「ごめんなさい つい 面白くてじゃあ正解は私自身がプレゼントでした」
照れながらそう告白してきた斉藤さんに、神田さんはポカーンとあいた口がふさがっていない、うん僕もさきから頭がまわっておらず、身動きも取れず、頭が先ほどよりまわっていない。
「まぁ入部したってだけなんですけどね びっくりしました? ドッキとしました?」
「びっくりさせないでくれ」
本当にびっくりしたし、すこしだけドキッともした、先ほどのほっぺのキスより心臓に悪いしあんまり弄ばないでほしい。
神田さんは頭がいたいと呟きながら、ため息をつき僕は苦笑いを浮かべるしかなかったが、いたずらが成功したのが嬉しかったのか、斉藤さんは我慢できなかったのか笑い声をあげながら実にいい笑顔で入部の挨拶をした。
「それでは今後ともよろしくお願いしますね先輩方」