Wデート
丁度補習が終わったようで、ゆっくりとした足取りで、廊下を歩いているトメさんに声をかけることができた。
「トメさん」
「奥居君? どうしました君は補習はなかったはずですよ私に何か用ですか?」
「はい智子さんのことで」
一瞬目を丸くし、周りをきょろきょろ見渡して、だれも通っていない事を確認すると、トメさんは、場所をかえる事を提案してきたので、近くの空き教室に入り鍵をしめた。
智子さん本人からお二人が付き合っていることをきいた事と、Wデートの件を話をした。
「初デートがWデートですか」
「いえまぁお邪魔だとは思いますがね」
トメさんのトーンに、少し落胆の色が混ざっているが、そこらへんは、まぁお邪魔かなと思ったが、智子さんが、すごく乗り気であったという事を伝えるとトメさんも納得してくれたようだ。
「裏山の蛍狩りは昔ここの学生のころ恋神さまのお告げが会った時に見たきりなんですよ」
「えっ 普通の蛍じゃないんですか?」
「そうです そもそも裏山に蛍は居ません」
実際の蛍が、住む環境が違うらしく、蛍狩りを体験したあと数年何度も足を運んだが、一向にみることはできていないという。
非常に残念な様子で語ってくれたのだが、こうなってくると智子さんには悪いが、蛍狩りのプランは変えた方が、いいのではないだろうかと思ってくる。
「奥居くん恋神さまなら蛍狩りなんとかなりませんかね」
智子さんが、とても楽しみにしているという事なので、僕としても叶えてあげたいのだが、僕の恋神さまとしての力では、トメさんが昔見たような光景は、再現することはできないだろう。
「あまり期待はしないでくださいね」
「わかりました」
結局、蛍狩りの当日になってもいい案など浮かぶはずも無い、薄暗い山道を歩きながら、前を歩くトメさんと智子さんは、ゆっくりと話しながら手をつなぎ歩き、その後ろを僕と神田さんも、Wデートという事と後夜道ではぐれないように念のために、手をつなぎながら歩いている。
「恋神さま蛍狩りの件は大丈夫ですか?」
「あぁ神田さん だめだね一向に浮かばないしできる気配もないそっちは?」
「私もこれといってお告げは受けていないです」
打つ手もなし、本当にあとは僕でない恋神さまに、祈るしかない状況だ、ただそんな祈りもむなしくトメさんが、昔みたという場所についても虫らしい虫も飛んでいない。
一分がたち、五分、十分、三十分と時間だけが過ぎていく、その間は川の音だけが、聞こえてくるようにゆったりと静かに流れる空間だった。
それでも時間は過ぎていきトメさんが腕時計を確認するともうそろそろ来た道を戻る時間になっているようだった。
「戻りましょうか」
そうつぶやくトメさんは、少し悲しそうだったが僕を責めるような事はしなかったが、それでも僕は心ぐるしさがあり、トメさんと智子さんに謝っていた。
「蛍 駄目でしたね、ごめんなさい」
「恋神さま 謝らなくてもいいですよ」
「智子さん」
「だって私はWデートをしたかったんです。 十二分に楽しみましたありがとうございます」
智子さんは頭を下げてお礼を言ってきた。
その智子さんの声色はとても楽しそうに笑っているような感じだった。
「トメさんと手をつないで緊張もしないで色々おしゃべりもできましたし、蛍が光るかもと思いながら、トメさんの隣で、過ごす時間、恋神さまと神田さんのお二人がついていてくれる、応援してくれてると思うと、デート楽しかったんです」
「私も楽しかったですよ」
「はい でも今度は二人できましょう、やはりWデートもいいですが普通のデートもしたいですしあぁ蛍今度は見てみたいですね、遊園地とか自転車にも二人乗りでのってみたいです。」
どんどんと、デートプランが立てられていく、トメさんは、初めはポカンとしていたが次々と楽しそうに浮かんでいく二人のデートの予想図に微笑んでいた。
「いいですよ、また何度でも見に来ましょう、遊園地は難しいかもですが自転車も乗りましょう」
「はい約束ですよ トメさん」
「もちろんです智子さん」
完全に目の前のカップルに置いていかれた感じは。あるのだが、まぁ二人が仲良く次のデートを計画しているのだから一応は成功しているのかもしれない。
「今回なにもできなかったね」
「そうでもないですよ Wデート成功したじゃないですか」
神田さんは笑って、そういってくれたが、恋神さまとして僕が、なにかの役にたったとは思えないけれど、今度トメさんたちが二人で蛍狩りに来たときはトメさんが見たような、蛍に祝福されるような光景が、見れるようにと恋神としてできる限り祈った。