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銅像

 斉藤さんの補習の最終日に彼女はこのところすっかり忘れていた僕の使命を思い出させてくれた、恋神さまとしてこのお客さまの相談に乗らないといけないのだが、目の前には立派なとしかいいようのない銅像がいた。

 元々この銅像は卒業生が寄付した大正時代の勤勉な学生をお手本にするようにと立てられたらしいが、改築などがあり、プール横に移動させられてほとんどの学生は一度見たことあるかないかの知名度である。 

 まさかその銅像の恋愛相談ってなんだろうと思ってしまう、斉藤さんは補習があるからと銅像をこちらに引き渡したあとに部室から脱兎のように逃げだし、部室にはあっけに取られている僕と神田さんそして部室をきょろきょろと見渡している銅像が残った。


 「はじめまして銅像の智子と申します」


 挨拶するときも体が硬くて曲がらないといったことはなく、普通に頭を下げてきたのでこちらもあわててお辞儀を返しながら挨拶をする、そういえばお茶とかを用意したほうがいいのかと今更ながらに思ってしまう。


「それで恋神さまに用件って事なんですけど」

「そうなんですよ実はWデートをしたいのです」


 銅像からWデートという単語を聞くと違和感があるのだが、いやまぁ会話をしている時点で違和感はあるのだが頬に手を当てて照れているのか顔の表情からは読み取れないが、それを補うほどのボディランゲージだ。


「智子さん、それでWデートということなんですが?」

「はい 実はですね私今度デートをしたいのですが、やはり最初のデートという事で不安がありましてできればこういえ最初は2人きりでもいいかなと思ったのですがこう気恥ずかしさとかそういったものがありまして、そこで斉藤さんがWデートを提案してくれたんですよ」


 智子さんは興奮したのか、ぐいぐいと身を乗り出してくる智子さんの勢いと重量にまけ足がもつれてお互いに倒れこむような形になる。

 神田さんの手も借りて、なんとかどいてくれたが破壊力は半端ではなく、痛みがまだ引かない状態だ。


「大丈夫ですか恋神さま?」

「ありがとう神田さん」

「すいません、どうも興奮してしまいまして」

「いえ 大丈夫です」


 申し訳ないと頭を下げる智子さん、とりあえず智子さんには怪我というより欠けたところは無いようで何よりだ。


「ところで智子さんとお相手の方は普段どのように会われているのですか」

「普段は私動けないものですので、向こうから会いにきてくれます」

「普段は動けないんですか?」

「はいでもここ数日動けるようになったので、そのデートをしたいと思っているのです」


 普通に動いているので、てっきり深夜に会いに行っているのかと思ったがそんなことはないらしい。


「お相手は誰なんですか?」

「こちらの数学教諭のトメさんです」


 トメさんとはまだ20代後半に手が届くか届かないかの若い男性教諭でちなみに本名は山田はじめ先生とトメさんの文字にかすりもしない。

 好物は梅のおにぎりとお茶という渋い選択で縁側でお茶をのんでいそうなのんびりとしている雰囲気からトメさんとよばれているが、まさか智子さんと付き合っているなんて思いもよらなかった。


 夏休みの補習を担当しているという点はもしかしたら智子さんに会う口実なのかと思ってしまう、まぁ実際はそんなこと関係なく教師は夏休み中でも仕事があるのでその関連で残っているだけというのが妥当なところであるがそれにしても本当に意外である。

 

「山田先生 浮いた話がないと思っていたんですが」

「そうだね」


 神田さん山田先生がまず銅像と付き合うという自体もおかしいんだけどまぁう僕達はなんとか耐性めいた感じで受け止めてはいるのだが、遊園地となるとそれはハードルが高いというか難しいのではないだろうか? 目立つというか一種のホラー現象に近いものがあり、当人同士が付き合っているということであれば、まぁ色々世間体とかはあるだろうが、愛があればいいんじゃないだろうかとありふれた感想を抱くしかないのだ。


「まぁなんにせよ私と恋神さまでお二人のWデートを手伝います」

「ありがとうございます」


 まぁWデート自体はWデートっぽくすることはできるからこの点は問題はないのだがデートプランはどうするか、まず行きたいところはあるのかとかそこから聞きだすことにした。


「それでWデートということなんですがどこかいきたいのですか?」

「はい、遊園地に行きたいのです」

「それは難しいですね」


 神田さんが難色をしめし僕のほうに振り返って確認してくるが僕も首をふる。


「いや、たぶん無理じゃないかな」


 肩を落とす仕草はなにやら可愛いものがあるが、僕達はなんとか耐性めいた感じで受け止めてはいるのだが、遊園地となるとそれはハードルが高いというか難しいのではないだろうか? 目立つというか一種のホラー現象に近いものがある。

 

「そうですか……」


 本当に申し訳ないのだが、恋神さまの力といっても僕は使い方をよくわからないのが現状で祈るぐらいしかできていないのだ、祈ったぐらいで大勢の人をごまかせるとは思えないその旨を伝えると肩を落とす仕草で落胆をしていた


「あとはなんでしょうか海とか山にドライブとかですかね」

「トメさん自転車通勤だよ」

「2人乗りできるかと」


 いや神田さん智子さんどうみても銅像だから、トメさんがいくら例え体力自慢でもたぶん動かないという問題があるんですとまぁ本人をまえに体重が重いとかはいえない。


「2人乗りは禁止されているよ」

「それをいうなら交通違反というより私達がWデートする場合もし夜なら深夜徘徊になりますよ」

「そこらへんはほらトメさん先生だし」

「あぁなるほど」


 とりあえず自転車は回避できそうだ、おずおずと智子さんが手を上げているのでなにか要望があるのだろうか?


「夜という事ならば蛍狩りはどうですか? 裏山でみることができるとトメさんが行ってましたし」

「蛍狩りかぁ」

 

 あぁいいかもしれない、あまり人がいなさそうだし時間帯もおそらく夜になるだろうから智子さんも出歩けそうだ。


「いいと思うよ」

「ありがとうございます」

「それで、山田先生にも知らせないと」

「あぁじゃあ僕がお願いしておくよ」

「おねがいします 私はそれではいつもの場所にもどっています」


 スキップでもしそうな智子さんを見送った後、トメさんに会いに補習をしている教室まで行くことにした。

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