夏の夢
夢の中でで微笑む神田さんはいつもより優しげで柔らかい声だった気がする、いやそれも気のせいで本当は今まで見てきた神田さんだったのかもしれない。
それを確かめたくてなのか夢の中でもいいから会いたくてなのかは分からないが、起きては数分もかからずに寝てまどろんだ結果は朝ごはんはおろか昼ごはんも口にせず寝巻き姿のままベットの上で時計が4時をまわるというのは流石にやりすぎてしまった感がある。
夏休みという休みの期間というのは学生であれば普段の接点が希薄になってしまうという事を再認識してしまう、連絡網としてお互いに携帯の番号を知ってはいるが用事がなければ当然かかってこないし、こちらからもかけづらいというのがあるため夏休みになってからは神田さんに会えないままなんとなく過ごしていた。
とりあえず、自己嫌悪をすこしでも払拭するために学校周りの本屋にでもいってあわよくば見かけないかなと都合のいい事を考えて家を出ることにした。
夏の日差しも4時を過ぎれば少しは和らいでるようだが、それでも熱いことにはかわらないし心当たりのある本屋によっても神田さんに会えず空振りに終わった徒労感と空腹感が続いている。
どこか適当にコンビ二で食べ物を買って帰ろうと思った矢先に聞きなれた声が後ろからかかってくる
「おや先輩 奇遇ですね」
「斉藤さん? と神田さん」
振り返ると2人とも制服姿であったところから察するに学校からの帰り道のようだ、今日は図書館の解放日だったのでもしかしたら学校にいけば本物の神田さんに会えた可能性があるのに何を呑気に寝ていたんだろうかと軽い自己嫌悪に陥ってしまう。
「何をしているんですか」
「散歩ついでに本屋に寄って帰るところ そっちは」
流石にこの時間まで寝てましたとは言えずその部分は端折ってごまかすことにした。
「あたしは補習で神田先輩は図書館で本を読んでました」
「そっか」
うんやっぱり神田さんは少し不機嫌そうであったが夢の笑顔あふれる顔よりはこちらが現実だと思うと夢よりは現実がいいと改めて思うし、斉藤さんは相変わらず元気そうで何よりだ。
「元気そうでなによりだね」
「そうですね 恋神さまも元気そうですね」
「あぁ」
「今度の部活には寝坊なんてしないでくださいね」
どうやら寝癖がついていたらしく神田さんは頭を指して指摘した、どうやら先ほどまで寝ていたという事がばれてしまっているようだ、さすがに夢で神田さんをみるために寝ていたことまではばれないだろが何だか気恥ずかしい気分になってあいまいに笑ってごまかすことにした。
「そういえば神田先輩とも話したんですが夏なんだし遊びにいきましょうよ」
そんな様子を見かねて助け舟を出したわけではないだろうが斉藤さんがポンと手を叩いて提案をしてくる。
「遊びにか 神田さんはどう?」
それは実に魅力的な提案であるが神田さんはそれに眉をすこしひそめていたので乗り気ではないのかも知れない。
斉藤さんと遊びにいくのも面白そうではあるがせっかくならばできれば三人で遊びにいってみたい。
「いいんじゃない? たまには」
「本当ですか? じゃあ私の補習が終わったら行きましょう、補習さえなければ暇ですから日程とかその他諸々はお二方で決めてください」
「わかったわ ただ家にいったん帰らないとお互い予定が分からない部分もあるだろうし今日の夜電話するわ 8時頃でいいかしら」
「大丈夫だよ僕もそのころまでに予定確認するから」
「いやぁ楽しみですね」
「あぁそうだね」
なぜかニヤニヤしながら神田さんをみる斉藤さん、そんな斉藤さんを意識しないようにいつものように、すこし不機嫌そうだが、ただ少し頬を緩めているところをみると神田さんも少しは遊びに行くのが楽しみなようだ。
そういえば部活とか恋神さま抜きで電話をもらえるのは初めてだ、電話が終わるころには電話が終わる事を惜しんでいるのか、それともしゃべれた事に安堵しているのかは分からないがただ夢より現実でおしゃべりできるほうが何倍も素敵だとおもった。




