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一瞬の不安

 一学期最後の日にもかかわらず幽霊部員の方々はきておらず、部室の掃除以外にも二学期の文化祭に向けた話し合いを行い他の部員の意見も聞きたかったが、話し合いに関して不参加ということはこちらで勝手に決めても文句はないということであろう。


それはそれで好都合ではあるが、もしかしたら恋神さまの影響なのかもしれないと考えるとやはり神田さんが受けたお告げにそって実行しないといけないと言う事になるので憂鬱ではある。


「熱い日が続きますね」


遊びに来ていた斉藤さんは、手にもった下敷きで仰いでもやはり額に浮かんでいる汗は引くことがなく元気な後輩が珍しくトーンダウンしている。


「そうだねぇ」


 僕も先程の掃除の疲れと神田さんが今回受けた恋神さまのお告げの件と暑さで頭がまわっていないこともあり返事がおざなりになっている、斉藤さんは僕の態度にすこし頬を膨らませるが起こるのも面倒だとばかりに話相手を神田さんにかえた。 


「神田先輩は涼しそうですね」

「そうでもないわよ」


 そう言いつつも汗ひとつ浮かばずに黙々と部費の帳簿をチェックしている時点で僕らと体感温度に差が生まれているのではないのかと思ってくる、もしそうならば実に羨ましい限りだ。


「チェック終わりました計算もあっていますし後は顧問にわたせば問題ないでしょう」

「ありがとう お疲れさま」

「それで恋神さま文化祭の件は本当にアレでいいんですか」


 僕としては文集でもよいのだが、二人で文集を作る労力を考えた場合一時の恥のほうがよいのではないかと思いとこの段々と受けなきゃならない雰囲気に僕の天秤は、恋神さまのお告げに従うことに傾いた。


「これも恋神さまのお導きってやつだと思うよ」

「ならそのように申請しておきますね」


 お導きというよりはやる内容が僕にとっては恋神さまの呪いという感じがしてしまうのだが、まぁそこらへんは諦めるしかないのだ。

 そして、あからさまに面白いものを見つけたという顔をした斉藤さんは先ほどまでの暑さにだれていた様子とは一転してテンションをあげていた。


「恋神さまのお告げって文化祭で何をするんですか?」

「ラブレターの朗読よ」


 神田さんは淡々というが、自分のではないけれどもそれでも愛の告白を大勢の人の前でするという羞恥プレイが二学期には待っていることになる。


「うわぁ楽しみですね」

「それは僕が羞恥にまみれるという事が?」

「はい」


 本当にこの後輩は僕に対して配慮はないのだろうか実に素直に楽しんでいた。


「でもなんで文化祭でやるんですかね?」

「文化祭というイベントに恋神さまがラブレターを読むという事ですくなからず恋愛の流れを強くするといった趣旨があるんです」


 僕じゃない恋神さまは鳥居高校の恋愛ごとを見守ってそういった雰囲気づくりのために色々と働いているようである。


 相変わらず僕自身にはお告げの一言もいいに来ないので明らかに嫌がらせか忙しいのどちらかであろう。


「なるほどじゃあ私にも恩恵がありそうですね」

「その前に僕にやさしくするといいんじゃない?」

「えーほら優しくして誤解されもいやじゃないですか」

「誤解? 」

「私のこと好きになっちゃ駄目ですよ」


 茶目っ気たっぷりに言うのは確かに可愛いと思うが何故その発想になるのかと僕があきれているのを察したのか斉藤さんは笑っていた。


「冗談ですよ冗談」

「冗談なのは知っているけどね」


 そういう冗談は僕としては、慣れていないので本当にやめてほしいと思うのだが、斉藤さんは気にする様子も無いようだ。


「まぁ先輩に優しくしますよ、かき氷食べに行きましょう奢ってあげますよ」

「それは私も行っていいのかしら」


 神田さんが室温が1度下がるような声で聞いてきた。


「もちろんですよ」

「そう二人で盛り上がっているからてっきり忘れられたかと思ったわ」

「そんなわけないじゃないですか ねっ先輩」

「そうだよ」


 本当は先ほどの冗談のせいで神田さんの事を少しだけ忘れかけていたのだが、それを見越しているのか神田さんはため息をついて部室の鍵を手渡してきた。


「まぁいいですでは恋神さま戸締りと文化祭の件などの報告をおねがいしますね」

「はい」

「神田先輩も奥居先輩に優しくしたほうがいいんじゃないですか? 」

「優しくはしているわよ」

「はい、神田さんにはいつもお世話になっています」


 そんな神田さんが、もし恋をしているのなら恋神さまの恩恵というものがあればいいなとひそかに祈ることにして、二学期の僕の羞恥心が少しでも神田さんや斉藤さんの恋愛成就に役に立ってくれるならまぁ多少は報われるというものだ。


ただ、神田さんの恋が実った時には斉藤さんが言うところの僕の恋煩いっていうのはどうなるのかわからない不安がよぎったが、神田さんと斉藤さんとかき氷を食べているうちに、何処かへと不安は消えていった。

 

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