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手作りクッキー

「これはなんですか何か魔術でも失敗したような物体があるんですが」

「調理実習で作ったクッキーよ」


 調理実習で手作り菓子というものをつくってみたけれども焦げの塊とかしているクッキーの成れの果てが机の前におかれているのを食い意地の張った斉藤さんが手をつけないということは、やはりこれは失敗作というものになるのだろう。


「意外ですね先輩は家事全般得意そうなイメージですのにギャップというやつですかね」

「私は得意よ」

「なんでこの状況で嘘つく必要があるんですか」

「嘘じゃないわよ、ただ同じ班の子が張り切りすぎた結果がこれよ」

 

 砂糖と塩を間違えて焼き時間も間違え、さらに大量につくるという工程が行われたクッキーは、もはや塩辛いのかこげくさいのか、とにかく酷い味で、食べた同じ班のメンバーの顔の表情が皆一様に同じになり無言で自分のノルマを食べきった後は一言も言葉を漏らさない、そんな兵器ともなりかねないクッキーが目の前にある。


「味見する?」

「いや食べなくてもわかりますって恋人がこれをさしだしたら気持ちが大事だよっていうわけのわからない台詞をのたまうぐらいしか救いようがないレベルですって」

「恋人にあげるものだから味も大事に決まっているじゃない」

「味落第じゃないですか」

「食べてもいいわよ?」

「いやですよ」

「まぁいいけど」


 そうしてしばらくすると恋神さまが部室にやってきて、机の上のクッキーを見ていたが何かに気づいたのか意を決してもやはり若干声が上ずっていた。


「これ何?」

「恋神さまへのお供え物よだからちゃんと食べてね」


 斉藤さんが信じられないものをみるような目でこちらを凝視していたがそれに恋神さまがきづくことかった。

まぁ私としても気分的には申しわけないのと、このクッキーを渡すのは、イヤなのだが恋愛成就のお供え物としてと言われたら渡すよりなかった。


「いや、うん」


 彼は躊躇していたがその震える手からクッキーが彼の口の中に投下され、口の中で何回ももごもごとしている、私は無言でお茶をさしだしてその苦行からようやく人心地ついたみたいだ。


「おいしくない」


 それはそうだろう、これでおいしいという人は味覚がすこしおかしいと思う。


「それを作ったの神田先輩ですよ」

「えっ」


 斉藤さんが、ややあきれた様子で恋神さまに密告している、だから私は家事得意なんですがまぁ私の名誉のために訂正させてもらうとする。


「調理実習の班で作りましたからね、班のメンバーが意中の人に渡したくて張り切りすぎて失敗してしまったんですよ」

「あぁなるほど、まぁでもこれをさすがに渡すわけにはいかないものな」

「えぇまぁ恋神さまには申し訳ないですが恋愛成就の祈願のためもう一息がんばってください」

「わかったよ」


 その後数十分という十数枚のクッキーにかける時間とは思えないほどの時間を要しつつも恋神さまは食べ切った。


「まぁ恋にはほろ苦いのも大事ということですね」

「うぅほろ苦いというより塩辛いしこげでさらに苦味が増している」


 もう一度お茶をすすって味を何とか忘れようとしていて、よほどつらかったのだろう目元に少し涙がでている。


「まぁ流石にそのクッキーだけではなんですから後日クッキー焼いて持ってきますよ」

「ありがとう神田さん楽しみにしているね」

「いえいえ」


 いやまぁ私も一応乙女ですからまともな手作りクッキーを渡したいですしね、その横で、なにか変なもの仕込まなければいいですけれどなどとボソっとつぶやいた失礼な後輩の声は聞こえなかったことにしましょう。




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