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図書館に住む妖精の恋(仮)  作者: 河内音子
第二章 司書であって探偵にはなれません
8/8

前話を編集ではなく変更しています。

ご注意ください。

リシャルド様に言われたとおりそのまま席に座っていたけれど、段々と周りの人々も帰り始めてしまった。とくに誰かが止めているわけでもないようで、初めはぽつりぽつりとあった空席も今は半分以上を占めている。

「私はいつまで待てばいいのでしょうか」

時刻は既に夜の八時を過ぎた。リシャルド様が席を立たれてから既に三十分ほど過ぎている。

【帰ろうよ~カタリナ~】

「でも、ここに居てって言われたし……」

もう十数回は繰り返した押し問答をしながら、私もノアの意見に賛同しそうになっていた。時間が経っても戻っていらっしゃらないということは、事件の対応で忙しいのだろう。待っていてもご迷惑になるだけかもしれない。

「一声おかけして、帰ろうか」

【そうしよそうしよ~】

ノアが疲れたように普段よりだらしなく宙に浮いている。それを見て私は少し笑った。だって人魚が空中でひっくり返っているんだもの。普段は空気を泳ぐようにして移動しているのに、今はまるでベッドの上でごろごろしているかのように見える。

「ノアも疲れているのね。珍しい」

【だってここの空気ピリピリしているからさ~僕だって緊張ぐらいするよ】

「……うん、そうね。明らかに何かおかしいもの。なんのアナウンスもなし。料理も出てきていないし、お金払おうにもお店の人も居なくなってしまったみたいだし、みんな困っている」

近くの席にいた人の会話を聞いた限りでは、厨房に店員を探しに行ったが誰もいなかったらしい。部屋が暗くなる少し前まで、私達の席にサラダを持って来た女性店員がいたのに。彼女はどこに消えてしまったのだろうか。

【それに闇の魔法破るのにカタリナに合わせて力使ったからさ~ちょびっとだけど初めて協調したから疲れた~】

「そっか。ノアが合わせてくれたから力が大きかったのね」

【僕らも協調の練習しないとダメだね~まだ契約して日が浅いからいいかと思っていたけど。いつ必要になるか分かったもんじゃないよ】

「ふふ、こんな事件に巻き込まれることなんてそうそうないし、今までみたいに図書館の棚戻しぐらいしか私は魔法使わないわよ」

【わっかんないでしょー?】

そんな会話をしながら、リシャルド様が向かった方向へと足を向ける。テーブルの間を縫うように進み、大きな部屋から廊下へと入る。トイレのマークのある角を曲がると、扉がいくつもある場所へ出た。扉の間隔からして一つずつの部屋はそれほど大きくないようだった。こういったレストランはプライベート重視の個室も用意しているのか、と感心する。まあ最近は大衆食堂でも個室を用意している場所もあるので珍しくはないけど。

「どこにいるんだろう。リシャルド様」

【全部の扉を開いていく?】

確かにそうすれば確実にいつかはリシャルド様のいる部屋へとたどり着くだろう。でも、もしかしたらまだ他の客が残っている部屋があるかもしれない。開けてしまったら、相当気まずい。

「眼鏡とったら分かるけど」

【それはしないでしょ】

「うん、絶対しない」

眼鏡を取ればリシャルド様の妖精として彼の魔力を感じることはできるはずだけど、リシャルド様にも私の妖精の力が伝わってしまう可能性が高い。危ない橋は渡れない。それ以外の方法で見つけるとなると……。

「あ、もしかしたらリシャルド様の魔力を追えるかも?」

力の残照を読み取る魔法がある。それも一応私は得意だ。滅多に使うことはないけれど。

人間は普段生活しているだけでも微妙に魔力を放出している。それに、もしリシャルド様が魔法を使っていたら、発動するときに使われた魔力の残照が濃く残っているはず。残照はどういう種類の魔法を使うかによって残り方が違うし、場合によっては一切残らないから見つからない可能性も高いけど。

【うーん。僕はノヴァック先輩って魔力の発散量少ないなって感じたよ? 難しいんじゃない?】

「高魔力保持者の人ってそもそもの器が大きいから発散量少ないらしいもんね。まあやってみて炎の魔力残照反応あればよし、見えなくても魔法の練習ってことで」

学校を卒業してからは仕事でいつも同じ魔法ばかり使っている。それはそれで習熟度があがっているのかもしれないけれど、せっかく学んだ魔法を忘れてしまいそうだ。だから可能性は低くとも損はない。そう思いながら魔力残照を読み取る魔法を発動した。

「ん? あれ?」

【どうしたの、カタリナ?】

「ねえ、もしかしてまずいもの発見したかもしれない」

【まずいもの?】

私の目には探していたリシャルド様の炎属性魔力の残照ではなく、黒い残照がくっきりと見えていた。

「これってもしかして、レストラン中真っ暗にした魔法のやつ?」

それは黒い筋となって廊下を突き進んでいる。ここまではっきりと見えるその意味は、術者が発動しながら歩いていたということだろう。そこまで考えてから、背筋をさあっと血の気がひいた。私はここでまずいことをしているのではないだろうか。

今回の魔法は自分の目にかける、内側に働きかけるものなので残照は残らない。だけど、こうして魔法を気軽に使っていたら証拠の上に上書きしてしまう恐れがある。リシャルド様や警察の方の捜査の邪魔をしてしまうかもしれない。

それに、事件が起きている現場で犯人が通ったと思われる道筋を今知ってしまった。

「どうしよう。もしかしたら調べることもできるけど、もし何かを知ってしまったら……危ないことに巻き込まれたりしない?」

私は何か事件に巻き込まれるのが怖い。被害者になるのも、加害者になるのも絶対に避けたい。何か面倒なことに関わって自分の秘密が暴かれるのが怖い。リシャルド様に自分がパートナーの妖精であると知られたくないのもあるけど、そもそも半分妖精であることを誰かに知られるのは怖いのだ。両親は受け入れてくれたけれど、半分妖精であるということは他の人とは違うということだ。

【変なことに首は突っ込まないほうがいい】

ノアがいつになく真剣な声で言う。

【ノヴァック先輩には悪いけど、このままここを去ろう。……なんだか嫌な予感がするんだ。水の妖精の勘は勘じゃない。無意識に流れを読んでる。僕は危険な目に合いたくないし、カタリナを合わせたくもない】

「うん」

もしかしたら背筋を這い上がる寒気はノアが感じている嫌な予感というやつなのかもしれない。とにかく嫌な感じがする。

リシャルド様ごめんなさい。先に帰ります。

私達は来た道を歩き、レストランの入り口へ戻ってきた。気が急いているからか、向かったときより早く戻って来られたように思う。

来たときはリシャルド様が開けてくれたことを思い出しながら扉に手をかけ、外へ出ようと押した瞬間扉の向こう側から扉が引かれ、私は扉を引いた人の胸に飛び込む形でバランスを崩し倒れこんだ。

「おお、大丈夫か、お嬢さん」

「あ、はい。すみません、ぶつかってしまって」

転ぶ前に扉を引いたと思われる人に抱き留められた。固い胸板に鼻を思い切りぶつけたようだ。慌てて相手から少し距離をとり、眼鏡が食い込んだ部分をかばって手を当てる。痛い。視線を上げれば金髪で背の高い男性が目の前に立っていた。その後ろには警察の制服を着た人々が見える。

男性は警察の制服を着ていないが、先頭に立って先導していたようなので関係者だというのはなんとなくわかった。私服警官というやつかもしれない。小説にはそういう警察の人もよくでてくる。

「帰るところか。あーー、悪いがちょっと待ってくれるか? 残ってる人には申し訳ないが事件が起こった時のことを聞かなくちゃなんねえ」

「ええっ」

帰ろうと思った途端にこれ。私は運がないのではないだろうか。

無理矢理にでも帰ろうと思えば帰れるだろう。他の人達だって帰っているわけだし。だけど残れと言われているのに帰ろうとするほど、帰らなくてはならない理由があるわけではない。嫌な予感と言っても、警察がそばに居て事情聴取をするのならば問題なんて起こらないだろう。うん、大丈夫。大丈夫なはず。

「なんかお嬢さん顔色悪いけど、具合悪いの? ここで食事してから調子悪くなったとかだと事件と関係している可能性があるが」

「いえ、まだサラダしか食べてなかったし、それで気分が悪いというわけではないです。美味しかったですし」

慌てて否定する。詳細は分からないけれど、何か事件が起きているのは分かっている。そしてその犯人につながるかもしれない情報を得てしまった事実もある。そしてノアの言っていた嫌な感じ。それで早くここから離れようとは思っていたけれど、それと料理の評判は別。サラダはとても新鮮で美味しかった。たぶん私には一生作れない。サラダって組み合わせとかセンスが出るから凡庸な私にはおしゃれで美味しいのは無理だ。

「そう? とりあえず申し訳ないがもう一度レストランに入ってくれ。現場に警察を案内してくるから適当に座って待っててくれるか? すぐ使いを寄こすから」

「はい、わかりました」

ぽすっと私の頭を一度叩くようにしてから、その男の人は私が来た道、つまり廊下の方へと歩いていった。その後ろを警察の制服を着た人達がぞろぞろと付いて行く。その光景を恨めしく思いながら、私は見送った。

「ノア、まだ帰れないみたい」

【早くカタリナがここを出ないからだ~~】

ノアの言うことももっともで、リシャルド様が席を立った後すぐ、あるいは周りが帰り始めたころ、帰れるときに帰っておけばよかったと私も思う。

「事情聴取ってどれくらいかかるのかな?」

【早く帰りたいね】

私とノアは二人で揃えてため息をつくと、入り口近くの空いているテーブルの椅子に座った。警察と一緒にいた男性の言っていた使いとやらが来るまでここで待っていないといけない。


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