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図書館に住む妖精の恋(仮)  作者: 河内音子
第二章 司書であって探偵にはなれません
6/8

その場に居合わせたお客さんたちがざわざわと動揺している。それもそのはず、突然視界が真っ暗になるなんて本来ならあり得ないのだ。部屋にあったのは炎をつかったオイルのランプと魔法で光るランプの両方。それを一気に消すなんて、作為的であり魔法を使う以外に道はない。

「カミンスカさん、見える?」

「ええ。先輩は?」

「俺は気配だけ。識別系苦手なんだ」

リシャルド様がぎりぎり私に聞こえるような声で聞いてきた。彼は今かなり周りを警戒している。暗くなったと同時に発動した空間へ魔力を空気に少量織り交ぜることで認識する魔法で私には見えているのだが、彼の手はいつも帯刀している剣に伸びている。

「静かですが事件だと思って間違いないでしょうか」

「……ごめん、店選んだのオレだ」

「ノヴァック先輩が謝ることではありません。有名店ですし。それより、何かわかりますか?」

「いや。視界が悪い中人が多すぎて何か起こっていても確認できないな」

「ランプが消えたのって人為的ですよね。ちょっと調べて見ます」

【僕が調べてくるよ】

「ノア? どこにいるの?」

不思議なことに目の前にいたはずのノアが私の魔力視に引っかからず、姿が確認できない。

【僕はさっきからずっと同じ場所にいるよー? たぶん魔力と妖精の力は別だから見えないんだよ。じゃちょっと行ってくる】

「うん、ありがと」

「……ノアの気配が消えたね」

私の魔力視には引っかからずともリシャルド様はノアの気配を察知していたらしい。数分たっても明かりは回復せず、私たちはただ席で待つしかなかった。

「はあ。これだと気配なんて読めないな。カミンスカさんの魔法で何か分かる?」

先輩は未だ辺りを警戒しているものの、店は満席だったのだ。段々を人々も不安になってきたらしく、席を立ち歩き出す人が出てきた。

「何かと言われても。これだけ人が多くてざわざわしていると明かりが付いていても何が起こっているか分かりませんよ。私はどちらかというと失せ物探しとか見つける対象がある方が得意なんです」

図書館で棚戻しの時のように“この本はこの棚”というような、決められている物を探すのは得意だけど、知らない場所で何かおかしいことはないか、というのは難しい。授業で索敵もしたことがあるけれど、敵兵士だと一目瞭然ならば私は全員見つけられると思う。しかし、敵が市民と同じような服装である場合私には悪意や敵意というのを察知する能力がないので難しい。今回も同じこと。

「識別系って言ってもいろいろあるんだね」

「先輩の同僚さんには悪意や殺意に敏感なタイプの識別系魔術使いがいらっしゃるのではないですか? そういう能力は護衛向けで、私の能力は完璧平和な図書館向けです」

どこにどんな名まえの本があるか、前日と比べ何の本がなくなっているか等の管理に適した能力なのだ。物質の分析能力もなくはないけれど、錬金術の研究に使えるほどではないので、私は司書が天職だと思っている。

【ただいまー。ちょっと変なことが分かったよ】

私にはやはり見えないが、ノアの声がした。調べてきてくれたことを教えてくれる。

【僕最初は風かと思ったんだけど、どうもこれは闇だね。ランプの電源が落ちたわけじゃなくて闇で隠されている感じだった】

「店全体ということは、範囲が広いな。それなりの魔術師で闇の使い手はそんなに多くないし、本格的に事件決定か」

リシャルド様はぶつぶつとその後も何かをおっしゃっていたけれど、私には聞こえなかった。

【せーんぱーい、今の僕は聞こえたけどいいのー?】

リシャルド様はがばりと身を起こしてノアが居るらしい場所へ手を伸ばした。

「本人には言うなよ? 感情や心を共有していてもそういう情報は例えパートナーでも口頭で伝えないと伝わらないと本で読んだ」

【その通り! だけど今僕が楽しくなっていてノヴァック先輩をからかって遊びたいなあっていう気持ちはカタリナも共有しているし】

「そうなの?」

リシャルド様の必至な声にどう答えるか一瞬悩んだものの、正直に告げる。

「えと、はい。ノヴァック先輩が焦っているのを初めてみたので、意地悪したい気分にはなりました。ノアが何を聞いたのかは知らないので私はできないですけど」

「カミンスカさんにされるなら意地悪もいいな」

どきっとしていい場面なのだろうか。さっきも「オレもその一人」とおっしゃっていたし、私に好意を持って頂けると思っていいのだろうか。

こんな状況にあるのは分かっているけど、また緊張してきてしまった。リシャルド様とお近づきになれて嬉しい。嬉しいけど。

【カタリナぐるぐるしてないで現状打破だよ!】

「ふぇ!?」

【闇だったら払えるんじゃない? 水の癒しの39番で行こうよ】

「え、えあ、そっちの現状ね。うん。39番ってなに?」

【水魔術基本の100曲集より39番の歌】

学校で一年目に学ぶ曲だ。私は魔力系統が水のため水魔術基本の100曲を学んだけれど、リシャルド様は炎だから炎魔術基本の100曲を学んでいるだろう。でも、なぜ今ここでそれを歌わないといけないの?

「でもあれってただの呪文形成の練習のための曲でしょう」

【魔力をきちんと乗せればちゃんと効果あるよ。歌って。はい!】

そんなことを言われても、はいそうですねと私には歌えません。ノアが私にイライラして来ているのが分かる。いや、だってこんなに人が沢山いるところで突然歌えって言われても。

「カミンスカさん、試しにやってみてよ。このまま真っ暗だと帰ることもできないし本当に事件だとしたら休職中とはいえ、オレも働かないと。ね、オレを助けると思って」

「……ノヴァック先輩がそう言うなら」

自信がないので、リシャルド様の前だからこそ歌いたくないのだけど。仕方なしに覚えている音程を口ずさみ、正しく歌詞兼呪文を歌う。ノアの声も混ざり、乗せようと思ったよりも消費魔力は少ないのにきちんと魔法として作用しているのが感じられた。

丁度曲がおわったところで、部屋のランプが元のように灯った。よかった。歌うだけ歌って効果がなかったら恥ずかしいもの。

「結局店側は何も行動しなかったな……」

リシャルド様が何かを考えるように厨房がある方向をじっと見つめている。

「とりあえず明かりは戻りましたけど、まだ状況は分かりませ」

「わあっ!! ああ、ああああ!!」

私が話している途中に私たちが座っていたよりも厨房から距離の席から大きな声がした。驚きか、焦りか、恐怖か……とにかく平時では聞かないような叫び。

「ここに居て」

リシャルド様はそれだけ言い残し、声がした方向へと走って行った。


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