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図書館に住む妖精の恋(仮)  作者: 河内音子
第一章 図書室の妖精
2/8

なぜこんな面倒なことになっているかというと、私が妖精のエネルギーを生み出す力が大きい心を持って生まれてきたことに始まる。

両親の妖精によると、私は生まれた時から幼いながらによく考え、人に同情し、楽しければ笑い、感情豊かでエネルギーに富んだ素晴らしい栄養源候補だった。

そこに目を付けたフリーの妖精が私を誘拐したのだ。

チェンジリング。その妖精はまだ生まれたばかりで自我のない炎の妖精と私を入れ替えた。

そういった事件が全くないわけではない。私達人間と契約する妖精の年齢は必ずしも一緒ではなく、人間側が二十歳になった誕生日が契約の日であるのは人間の成長速度がある程度一定だから、古の妖精と人間で人間に合わせることに決めたらしい。歴史書にはそうある。

妖精側は力が使用できる状態であることが契約の条件で、彼らは一年でその状態まで持っていける個体もいれば何年もかかる個体もいる。だけど、必ず契約の日までにはその状態になる。問題はそれが何時だか分からないことだ。

私をさらった妖精は、もう何十年も待ち続けているのに力が使用できる状態になれず、契約者も現れなかった。それで焦ってしまって、チェンジリングを行った。

ここでまた事件が起こる。通常チェンジリングが起こった場合、妖精の専門家と呼ばれる魔女が問題のないように赤ん坊を取り返すのだが、取り乱した母が無理やり私を妖精の世界から引き戻したのだ。普通そんなことはできないのだけれど、母は力の強い人で、そのパートナーの水の妖精も結界を張ったり空間をつなげたりといったことに特化していたので、チェンジリングによって炎の妖精と私の間にできた絆を手繰り寄せることでそれを可能にしてしまった。

結果、私と炎の妖精は同化してしまった。

可愛そうなのは炎の妖精だ。まだ自我もできる前に事件に巻き込まれ私と同化してしまったため、名前もなかった。同化することで変化してしまった私の容姿を見て母はこの妖精も自分の子供であると考えることにしたらしい。私の名まえはカタリナだけど、同じスペルで妖精の名まえはキャサリン。私は一人で二つの名まえを持っている。また、私の性格が事件の前と後では変わったらしいが、両親はそれも喜んだ。同化してしまった妖精がきちんと生きている証拠であると。

そうやって両親が受け入れてくれたおかげか、私は被害者として怒らないと行けないのかもしれないが、犯人の妖精に同情している。だって、想像しただけでも、自分より遅く生まれた個体がどんどん成長し契約していくのに、自分は何十年も契約できる状態にもなれず、置いていかれてしまって焦るばかりで解決の糸口のない状態なんて、辛く悲しい。

やり方は間違えたにしても、そう言った行為に走ってしまった気持ちは理解できるのだ。

そして、現在、その状態にリシャルド様はいらっしゃる。学校の剣術科を優秀な成績で卒業され、人々の期待を背負い白騎士隊へ入隊。出世間違いなしと言われていたのに、彼の二十歳の誕生日に妖精は現れず、彼は今休職を余儀なくされている。

左遷等ではなく、ただただ周りも心配でたまらないのだ。前代未聞の事態だから。

彼の剣の腕は申し分ない。妖精の力を借りての魔力供給ができなくても彼は高魔力保持者で、基本的な魔法は問題なく使えるときく。炎系の攻撃魔法に特化しているはずだし。ただ戦場に立たされた時、どこまで騎士として戦えるか、それは未知数。

敵も味方もみなパートナーの妖精の力を借りて戦うから。

それで彼は毎日のように図書館へやってきては調べものをしている。読むのは歴史書や妖精学の本など。最近は妖精に関係していればおとぎ話すら読んでいる。それだけ彼も追いつめられているということだ。

ごめんなさい。ごめんなさい。私はなぜあなたの妖精が現れないか知っています。

一学年上の優秀な生徒の噂は学生時代から知っていたけれど、興味はさほど持っていなかった。一度リシャルド様を中庭で見かけて、確かにかっこいいなと思ったぐらいの思い出しかない。

しかし、半年ほど前の夜、突然体が引き裂かれるような痛みに襲われた瞬間、すとんと全てを分かってしまったのだ。

彼が私の半分キャサリンの半身であると。そして、彼のことを好きになってしまったのだ。

突然だと思われるかもしれない。でも、その一瞬で私は彼のことを理解し、それで好きになったのだ。

妖精と契約する人間は生まれた時から決まっている。契約すると『お互い自分の体の一部のように、心も考えも共有できる』。

彼の妖精はキャサリンだった。だけど彼女は私と同化していて、彼との契約には向かえなかった。既に一人になっているのに、人間としての部分を認知しないまま妖精契約がなされようとしたから私の体は引き裂かれるような痛みを感じたのだ。

本来妖精と人間は契約しようとも恋愛に発展することはない。妖精は性別を持たないし、そもそも心が一つならば恋愛になるわけがない。

でも私はカタリナとしての心を持っている。キャサリンの心は彼と同じだとしても、カタリナはそうじゃない。しかも、彼がどういった人物でどういう考えを持っているのか、あの契約のなされようとした一瞬で知ってしまった。

優しくて暖かくて、そして熱い。炎の妖精のパートナーらしい情熱的な人。そして誠実で、民を守る騎士になりたいと真っ直ぐな心を持った人。

キャサリンに引きずられて彼とずっと一緒に居たいと、一緒にいることが当然であると感じてしまう。カタリナとしての人間の私と彼に接点などないのに。

彼に名乗り出た方がいいと考えたこともある。だって彼の妖精はこの世のどこにも、私以外にはいないのだから。このまま探しても彼が見つけることはない。

でも……恋愛感情を持ってしまった私はそれが言い出せない。彼と共にありたい。だけど、妖精として選ばれて共に居るのは辛すぎる。彼が恋愛し、結婚し、それでもそばに居なければならないなんて。

たとえ名乗りでて、彼が私の気持ちを受け入れてくれたとしても、きっと私は私が彼の妖精であるからだと、彼を信じることができないだろう。

パートナーになった妖精が人間を信じないなんて聞いたことがない。どちらに転んでも上手くいかないならば、このまま名乗り出ず、彼には悪いが妖精をあきらめてもらいたい。

私の恋もかなわないけれど、それは仕方ない。だって、彼から妖精を奪ったのは私だ。


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