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図書館に住む妖精の恋(仮)  作者: 河内音子
第一章 図書室の妖精
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図書館には神聖な雰囲気がある。

王城ができたのと同じころ建てられたという石造りの塔のような建物は五階まであり、屋上に出れば城郭の外まで見えるため、戦時は物見にも使われたそうだ。中央は吹き抜けになっていて、一階の受付から屋上中央のガラス戸から光が差しているのが確認できる。

歴史あるビレンスカ王国立中央図書館は内城に隣接しているため、利用者は官吏や騎士のみな様、そしてごくたま王族の方々。国中の書物、そして珍しい外国の書物も含め、蔵書数は国内一なので大学校の教授や生徒のみなさんも訪れるが、残念なことに市民が気軽に訪れられる雰囲気づくりには失敗してしまっている。

でもだからこそ、静かで、ページをめくる音が響くこの空間を人々は特別と感じるのだろう。

私はここが好き。司書という職に就けて本当によかった。もちろん本が好きだし、自分の能力が物事を管理することに長けているのも理由の一つだけど……。今はそれ以上に大きな理由がある。

厳かな空気の中、大きな椋の机に座り本を読む思い人の姿を最後にちらりと見てから、ここを離れなくてはならないことに未練を感じつつ裏方へ通じる扉を開いた。

「ハッピーバースデー! カタリナ!」

扉を開けた瞬間に、火薬の香りと何かがはじける音、そして祝いの言葉。私は驚いて眼鏡の下の目を見開くばかりだったが、はっと気が付き慌てて後ろ手に扉を閉めた。

「……オルガありがとう。でも今のきっとフロアにも聞こえているわ」

そう、今まで扉が開いていたのである。つまりあの静かな空間に筒抜けだったのだ。

「聞こえたって大丈夫よ。別に今王族の方が来ているわけじゃあないし、多少のことには目をつむってくれるわ。もともとある程度に静かにするべき場所だけど、厳しいルールがあるわけではない場所だもの」

「それはそうだけど、……もう、クラッカーまで鳴らしちゃって」

「ふふ、お祝いだからね。多少うるさくても許してもらえるわ」

同僚であり、私が働き始めた時の指導役であり、さらには学生時代の先輩であるオルガは茶目っ気たっぷりにウインクをする。そんな仕草も決まる彼女は私の三才年上とは思えないほど若くて可愛らしい。普段ならかわいいなあと心が温かくなるのだが、しかし、そこは今問題ではない。

彼女にも言っていない私がいけないのだけど、今フロアには私の思い人、リシャルド様がいるのだ。

彼にも聞こえてしまっただろうか、今日が私の誕生日であるということが。

別に誕生日を知られて困ることなどない。ないのだけれど、今回は特別な誕生日なのだ。そして私は彼に聞かれたくない理由がある。

「カタリナの二十歳のお祝いだものね。もう契約は済ませたの? あなたの妖精ならきっとものすごい力のある優しい子に違いないわ」

そう、二十歳の誕生日は妖精との契約の日。子供達はみなこの日を待ち望む。二十歳を過ぎた大人たちと妖精の仲の良さを見て育つから。それは私も例外ではなく、今日が楽しみだった。

「そうね、そうだと嬉しい……」

しかし、今は罪悪感でいっぱいだ。

人間も妖精も生まれた時から誰がパートナーなのか決まっていて、出会ってしまえば一緒にいるのが当たり前のように感じるものらしい。まるでお互い自分の体の一部のように、心も考えも共有できる、それでも別の生物である不思議な存在。人間は妖精たちのおかげで魔力を自然から取り入れることができ、妖精は心を共有することでエネルギーを得る。そうして共生しているのだ。

彼、リシャルド様以外は。

「あたしたちの魔力って契約する妖精に影響を受けているらしいから、あなたが攻撃魔法を一切使えないのはきっとそのせいだと思うのよね。だからきっと癒しと識別に特化したタイプの穏やかな子じゃないかしら」

確かに私は一切攻撃魔法が使えないし、癒しと識別に特化している。そして、攻撃魔法系妖精は気が強く、癒しや識別系の非攻撃系の妖精は穏やかで優しいことが多いのだ。だけど、それは私には当てはまらない。

だって、私自身がリシャルド様の妖精なのだから。

「攻撃魔法が一切使えないのは妖精のせいではなくて、子供の頃の事故のせいだとお医者様から言われているから分からないわ。私はとりあえず仲良くできる子ならどんな子だっていいの」

「カタリナったらおかしなことを言うのね。妖精は生まれた時からのパートナーよ? 仲良くできるもなにもないわ、同じ存在なんだもの。でも、そればっかりは契約してみないと実感できないかもね。ふふ、明日になればカタリナも納得しているはず!」

違う。私は半分人間で半分妖精。だからこそ、自分の妖精と気が合わない可能性がある。そして、その可能性はかなり高い。

だって、私本当は攻撃魔法特化型の炎の妖精なんだもの!

私の能力からして絶対風か水の精霊が現れるはず。風まだしも水だったら典型的な相反する属性だ。

「そうね。オルガの精霊も見えるようになると思うし、それも楽しみだわ」

「ええ。明日紹介するわね」

オルガにはそう言ったものの、実は昔から見えているし、会話もしている。ただオルガの精霊である土属性のマーラは私のことを炎の精霊と認識しているのでオルガはそれが私であると知らないだけだ。つまりオルガは人間なので私を人間と認識し、マーラは精霊なので私を精霊と認識していて、その二人が同じ存在だと二人とも認識していないだけ。

今晩私の精霊が現れて、さらに一人増えるわけだけど。明日からオルガとマーラには私がどう見えるのか、たぶん誰にも分からない。……すでにわけがわからないことになっているのに、今晩からさらにわけのわからないことになると思うと頭が痛い。

今日の仕事はこれで終わりなので、契約の時が迫り力がざわつくのを抑えながら急いで家路についた。


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