元日
ゆく年くる年が始まった。
高校2年の井野嶽幌は、双子の姉の桜とともに、毎年恒例となっていたNHKを見ていた。
「今年もいよいよあと10分か……」
幌は考え深げである。
「どうしたの。そんな雰囲気の幌って珍しいと思うけど」
桜が幌に聞いた。
「いや、今年もいろいろあったなあと思ってさ。どうだった」
「今年一年を振り返って?」
幌は黙ってうなづく。
「一字で書くとするなら忙かな。部活で忙しかったし、そろそろ受験の勉強で忙しいし。テストもあったし」
「俺なら楽かな。楽しいことの連続だったさ。部活も楽しかったし、勉強はもちろん楽しいし、友達付合いも楽しいし」
「よかったね」
ほっこりとしている幌に、桜が優しく言った。
「楽しいことが一番だからな。それから忙しくなればいいさ。最良なのは、忙しいことすらも楽しめる心を持つことだし」
「じゃ、私は来年、それを抱負にして頑張ろう」
「姉ちゃんは、毎日を楽しんでるだろ。それで十分さ」
話しているうちに、時間というのはあっという間に経つ。
テレビでは除夜の鐘が鳴らされ、もう少しで年明けとなろう時間になっていた。
「いよいよか」
「いよいよだね」
幌は桜に合図を出して、その時を待った。
そして、0時になったことをアナウンサーが伝えると同時に、幌と桜は互いに都市開けて最初の言葉を発した。
「あけましておめでとうございます、今年一年、よろしくお願いします」