09
凛 「、、、あぁ、そうだ。」
湊 「、、、外の世界って言いますが、ここから出たことは無いんですか?」
凛 「、、、無い。一度も。ここに来てから、この塀の外側を見たことがない。」
湊 「、、、どうしてですか?」
凛 「、、、外の世界に行けば私たちが逃げ出すと思っているんだ。だから出さない。これまで、逃げ出そうとした奴も何人かいるが誰一人ここから出られなかった。」
湊 「、、、でも、ここは安全です。色々なものから守られて、十分な食事がもらえて、風呂にも毎日入れる。」
凛 「、、、ここも十分に安全とは言えない。ここが狙われることも十分あり得る。外の世界と違うのは強固な塀とこの建物があるくらいか。ただ、食事や生活面で言えば鳴瀬の言うとおりだと思う。でも、それでも外の世界の方が私は羨ましく思う。命の危険に晒されても誰かを傷つけるより何十倍も良い。」
湊 「、、、もしも、仕事をするのを辞めたらどうなりますか?」
凛 「、、、無理やり仕事をさせられるか殺されるだろうな。ここにあるものは、全て機密情報。ここの情報に触れてしまえば帰してはもらえない。それに、帰る場所もない。」
湊 「、、、」
凛 「、、、鳴瀬は帰りたいか?家族のところに。」
湊 「、、、僕にも帰る場所はありません。家から追い出されましたから。」
凛 「、、、誰も悲しまなかったか?鳴瀬が居なくなって。」
湊 「、、、悲しむ人なんて居ません。」
凛 「、、、そうか。私と同じだな。」
湊 「えっ?」
凛 「、、、私の過去の話はあまりしないのだが鳴瀬には話そうか。」
湊 「、、、」
凛 「、、、私は生まれてすぐにここに売られたんだ。両親は頭の良い人だった。だから、その子どもである私をきちんと教育すれば頭の良い子どもになると国の奴らは考えたんだ。高額な金で両親は私を売った。私はその日からずっとここで育てられた。」
湊 「、、、早坂先輩たちもですか?」
凛 「莉央たちがここに来たのは私も物心ついた頃からだった。蘭だけは町に出掛けた教官がある日連れて帰ってきて小さい頃に私と一緒に育ったが、他の四人は鳴瀬と同じように普通に外の世界で育てられていた。」
湊 「、、、」
凛 「、、、蘭は覚えてないみたいだが、莉央たちは家族の記憶がある。優しい家族の記憶。私には微塵もない。生きてる意味さえ分からなくなるよ。」
湊 「、、、」
凛 「、、、でも、鳴瀬にはきっと居ると思う。鳴瀬が居なくなって悲しんでいる人が。そうでなくとも自分を悲観することはない。こんな場所さえなければ、こんな時代でなければ普通に愛されていた。私と違う。」
湊 「、、、橘先輩こそ、こんな時代じゃなければ普通に愛されていたんじゃないですか?」
凛 「、、、私の両親は研究者なんだ。その実験台には何でも使う。虫も動物も、、、実の子どもも。」
湊 「っ、、、」
凛 「、、、手放したくなかったと思うよ。恰好の実験材料を。でも、高額な値がついたから手放した。不幸中の幸いかな。まだ生きていられるのは売られたからだから。」
湊 「、、、どうして橘先輩は、それでも仕事を続けているんですか?」
凛 「、、、私が死ぬとお前たちが苦しむことになる。莉央たちや鳴瀬たちを苦しめる。両親に少しは感謝してるんだ。私が皆を守れる武器はこの頭脳。まぁ、体が弱いことがじゃくてんなんだけどな。弱点なんだけどな。」
湊 「、、、」
凛 「、、、鳴瀬。ここが優しい場所、安心できる場所だなんて思うな。誰かを苦しめ、傷つけている場所なんだ。でも、私たちが死んでも何も変わらない。また新しい子どもが犠牲になるだけ。」
湊 「、、、じゃあ、仕事を続けるしかないんですか?」
凛 「、、、どうしたら良いのか私も考えている。私が言いたいのはここの大人を信用するなということだ。私たちはただの道具としてしか思っていない。切り捨てたくなれば簡単に切り捨てる。」
湊 「しかし、教官は優しい人なんですよね?」
凛 「、、、情が湧いているだけだよ。本性は分からない。だから、大人は信用するな。」
湊 「、、、橘先輩たちのことは信用して良いですか?」
凛 「あぁ。私たちはお前たちを守る覚悟だ。信用して良い。相談ごとも聞いてやるぞ。」
湊 「、、、はい、、、」
凛 「っ、ふっ、、、何も泣くことはないだろう?」
湊 「い、いえ、、、思ってもいなかったので、、、こんな場所で信用して良いなんて言ってもらえるなんて、、、」
凛 「、、、家族の居ないお前たちのせめてもの親代わり、兄弟代わりをすることは当たり前のことだ。」
湊 「、、、ここに来て何されるか凄く不安でいっぱいで、、、誰にも相談できずに居ましたが貴方みたいな人が居るなんて驚きました。」
凛 「莉央たちも皆、同じ気持ちだ。鳴瀬は一人じゃないぞ。」
すると部屋の扉が開いて水瀬先輩と近衛先輩が入ってきた。
蘭 「あっ、凛。寝てないと駄目だろ?」
そう言って水瀬先輩は橘先輩を寝かせた。
蘭 「鳴瀬?どうして泣いて、、、」
湊 「な、何でもないんです、、、」
蘭 「、、、何を話していた?」
凛 「昔のことだ。」
蘭 「あぁ、さっきの、、、」
柚月 「凛が泣かせたのかと思ったよ。はい、お粥。」
凛 「なぜ、私が。」
柚月 「普通に格好いいこと言っちゃうんだよね。凛。」
蘭 「あぁ。」
凛 「何の話だか、、、」
柚月 「でも、さっきよりは元気そうだね。じゃあ、お粥食べて復帰に向けてゆっくり休んで。」
凛 「あぁ、ありがとう。」




