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そして橘先輩が復帰し、数日後、早坂先輩たちも研究を終えて通常の仕事に戻るようになった。
いつもどおり、夕飯を食べるために食堂に行くといつもよりも食堂が騒がしかった。
優 「あぁ、浅沼さんか。」
界 「昨日の夜中に帰ってきたって聞いた。」
湊 「あの人が、、、」
食堂を覗くと早坂先輩たちの間で男の人が楽しそうに話をしていた。
界 「湊、浅沼さんの話したっけ?」
湊 「水瀬先輩に少し聞いたんだ。」
界 「そっか。あの人、外の世界の話をしてくれるから面白いんだよ。」
湊 「あっ、そうなんだね。」
食堂に入ると浅沼さんと話していた水瀬先輩が僕に気づいた。
蘭 「あっ、来た来た。鳴瀬。」
湊 「は、はい。」
水瀬先輩のところに行くと浅沼さんが僕を見た。
蘭 「さっき話した新人の鳴瀬です。」
浅沼 「鳴瀬湊君ね。浅沼です。よろしく。」
湊 「よ、よろしくお願いします。」
浅沼 「うん。」
すると僕らの後ろから橘先輩が食堂に入ってきた。
浅沼 「あっ、凛。」
橘先輩は振り向くと浅沼さんに気づいて会釈した。
浅沼 「反抗期?」
蘭 「通常運転ですよ。」
橘先輩は食事を受け取って浅沼さんたちが居た場所に座った。
浅沼 「久しぶり。」
凛 「医者を連れてきたって本当ですか?」
浅沼 「情報が早いなぁ。そうだよ。」
凛 「この感染病が流行しているときにどっから連れてきたんですか?」
浅沼 「なるほど、そこを気にしていたのか。大丈夫。感染病が確認された地域からだいぶ離れたところの医者だから。遠征にどれだけの日数かけたか。」
莉央 「それでこんなに時間が掛かったんですね。」
浅沼 「そういうこと。しかも、結構医療知識の高い医者を連れてきたからさ。」
凛 「、、、そんなもの要りませんよ。」
浅沼 「どれだけお金掛かってると思ってるの。」
凛 「、、、だから要らないんですよ。お金で判断するような大人は嫌いです。」
浅沼 「、、、凛が心配していることは大丈夫だよ。そこはちゃんと見極めたから。」
凛 「、、、」
橘先輩は黙々と夕飯を食べて食堂を出て行った。
莉央 「あれでもいつ帰ってくるか心配してたんですよ。」
浅沼 「凛は昔から心配してくれるんだよね。」
次の日、朝礼でいつもどおり剣術や武術を習っていると浅沼さんも指導役として入っていた。
浅沼 「坂井。もっと力を入れろ。」
壮馬 「は、はい。」
橘先輩の方を見ると教官に呼ばれて、僕らとは離れた場所で女の人を紹介されているようだった。
教官 「新しく引き入れた医者の瀬良だ。」
瀬良 「瀬良です。よろしくお願いします。」
凛 「、、、」
教官 「橘ことも話してある。」
凛 「、、、結構です。」
瀬良 「、、、」
教官 「落ち着け。とりあえず、こっちの医務室で入ってもらうから。あっちに入れるかは橘の判断に任せる。」
凛 「、、、こちらは結構です。」
瀬良 「、、、教官。後で橘さんと少し話をさせていただけませんか?」
教官 「え?あ、あぁ。分かった。」
朝礼が終わり、僕は橘先輩の後を追い掛けた。
瀬良さんは空き部屋に入り橘先輩が入るとその扉を閉めた。
瀬良 「橘さんの体のことも聞いたわ。聞いたところ生まれつきだそうね。」
凛 「、、、結構だと話しましたよ。」
瀬良 「少し教えてくれない?調べられるのはまだ嫌だと思うから。」
凛 「、、、遠慮します。」
瀬良 「何か分かるかもしれない。治療法や何かしらの案とか。」
凛 「、、、ありませんよ。」
瀬良 「えっ?そんなの分からないじゃない。調べてみたら何か、、、」
凛 「無いです。貴方にも分かるわけない。」
瀬良 「どうして、、、他の人に無理だって言われたのかもしれないけど、私はその人たちよりも医療知識はあると思うわ。」
凛 「、、、無理です。貴方よりも私の方が医療知識はありますし。」
瀬良 「えっ?」
凛 「、、、甘く見ないでください。この時代の医療知識はほとんど詰めてあります。」
瀬良 「、、、どうして?そんな必要、、、」
凛 「ありますよ。必要があるからやってるんです。」
瀬良 「、、、貴方の医療知識はいつどこで必要なの?ここは今は居ないけど前は医者が居たって聞いたし、ここに居る兵士や役人の中にも何人も医療知識を持った人が居る。それなのに何故、、、」
凛 「、、、もし、ここが爆破されたらどうなると思いますか?」
瀬良 「、、、」
凛 「、、、数え切れないくらいの怪我人が出る。ここで医療知識を持った人間なんて、せいぜい擦り傷程度の手当てしかできません。」
瀬良 「、、、じゃあ、そのときに備えて?」
凛 「初めは覚えさせられましたが。今では役に立っています。」
瀬良 「、、、ここは恐ろしい場所のように感じるわ。」
凛 「じゃあ、今すぐ辞めた方がいい。ここは、あなたが思う想像どおりの場所ですよ。」
瀬良 「、、、」
凛 「、、、人の本性は何か起きたときに必ず現れる。そのとき、分かるはずです。この場所の恐ろしさを痛感します。貴方が真っ当な人間であるかどうか、そのときに分かります。」
そう言って橘先輩は部屋の扉を開けて、僕を見た。
凛 「行くぞ、鳴瀬。」
湊 「は、はい。」
足早に立ち去る橘先輩の後を必死に追い掛けて食堂に着いた。
莉央 「あっ、凛。」
藍 「辞めさせたのか?」
凛 「勝手に辞めていくだろ。」
莉央 「全然長続きしないんだよな。どの医者も。」
柚月 「見た感じ、あの人は良さそうな人だけどね。」
莉央 「どうだかなぁ。」




