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16話 狩りのやり方

「――えーっと、これで何ヶ所目だっけ?」

「3っ!!」

『拠点ポイントは残り10ね。最初とその次ほど規模は大きくないから今回は5ポイント。余ったポイントと合わせて10……。いやいやいやいや、あんたたちがいけないのよ! またポイントが入るなら豪遊しちゃおう、って全然私のいうこと聞かないんだもの! わら草ベッドはベッドはもうしばらく我慢しなさい!』



 細い道、イベントが開始された場所よりも中区に近い場所にあったゴブリンの拠点【処理部屋③】は学校の教室ほどの広さでしかなくてあまりポイントは稼げなかった。


 昨日見つけた処理部屋②も小さかったし……本拠地はまだまだ遠いところにあるのかもしれない。



 というかそもそも俺たちがこうして自分たちの拠点を離れている理由なんだけど……探そうと思えば思うほどゴブリンが見当たらなくて全然クエストが進まないから。


 あれから数日経ってるのに、残りゴブリンは30匹で俺のレベルはまだ5。



 こっからレベルアップで反逆だ!! なーんて息巻いてたってのに……。



 『がうがう』の遠吠えの効果範囲がもう少し広ければ良かったんだけど……こいつらの遠吠えって案外しょぼいんだよな。


 いや、仲間を呼び寄せるってのは確かに脅威なんだけど、その仲間が近くにいないんじゃ全然意味ないじゃん!

 アナさん曰く複数匹で遠吠えをつなぐことで広い範囲に効果を与えることもできるらしいけど……『がうがう』のやつ、結構食うのよ。


 折角手にいれたアイテムも味わってる様子なくバクバクバクバク。

 俺の分をくすねることだってある。


 不幸中の幸いで、それが原因になって経験値を取得できなかった、なんてことはないけど、こんなのをもう1匹増やすとか無理。


 俺とリンを乗せて移動が可能なのは嬉しいんだけど、コスパが悪いよコスパが。


 御者が馬を育てる時も似たようなこと思うのかな? 儲けが出りゃいいけどこのままじゃ火の車ですよ。



「はぁ……。とにかくゴブリンを探そう。坊主で帰るなんてしたくないよ、俺」

『それにしても……おかしいわよ、こんなの』

「アナさん?」



 溜息を溢すと、多分神妙な面持ちでアナさんは呟いた。

 

 これ、ストレスで癇癪を起すパターンの時のやつだ。危険信号だ。おだてる言葉を用意! 防衛姿勢に入ります!



『聞こえてるんですけど……。あのね、私のことなんだと思って……ってそんなこと言いたいんじゃなくて……。ねえこんなにゴブリンに出くわさないのっておかしいとは思わない? それに灯り犬にも』



 一瞬で全身から大量の汗が湧いて、一瞬で引いた。


 よ、良かった、話が変わってくれて……。いや、内容はそんなにいいことはないんだけど……。

 とにかく、ゴブリンの数について、か……。



「うーん、そうなんですかね? 俺は探索者としてダンジョンに潜ったことないんでこんなときもあるのかなって感じなんですけど」

『でもゴブリンがモンスターの中でもお盛んで、性行為を楽しむ種族だっていうのは知っているでしょ? つまりそれって他のモンスターよりも数が多いってことで……スタンピードが起こらないように探索者たちに依頼が入ったりとかはしなかった?』

「スタンピード……。そういえば、年に数回ゴブリンの討伐依頼が増える時期があったような……」

「仲間が急に増える時、リンも経験したことある。でも、スタンピード……この区から溢れるようなのはない」



 スタンピードって言葉は耳にしたことがある。

 でもそれが起きた前っていう例はなかったはず。だから、そんなの噂程度のものなんだと思っていたけど……。


 リンの反応を見るに本当にある、しかもその兆しが最近あった……。



 考えるだけでぞっとする話ではあるけど、でも……。



「うーん、気にはなりますけど……。むしろ数は減ってるわけですから、その危険はないんじゃないですか?」

『それはそうなんだけどね。そういう異常事態の時ってイレギュラーなことが起こるものなのよ。経験として、ね』



 なにか含のある言い方をするアナさん。

 それがなんだか艶やかで、怖くも感じる。



「もしかしてアナさんはスタンピードを目の当たりのしたことが?」

『……ううん。それにダンジョンの異常なんてものに遭遇したのは……多分あんたくらいかしら』

「俺、ですか?」

『人間からモンスターに覚醒して、やけに親し気に私に話しかけてきて……前も言ったけど、そんなのあんただけだったんだから』

「いや、そう褒められましても」

『別に褒めてはいないわよ』



 なんてことのない会話で場が和んだ気がした。


 俺の気は緩み、ついついここが安置であると思い込む。


 そう、思い込んでしまった。

 だからそいつらが残していった『それ』からモンスターが現れるなんて到底頭になくて……どうしようもなく呆気にとられてしまう。



「――が、あ?」

「な、なんだってこんなところに、こいつらが……」

「テレポートスキルのスクロール……。私よりももっともっと上の……ゴブリンだけが作れる一方通行のアイテム。それがこんなところに……おかしい。だって、あれはあそこから移動しないはずなのに……まさか、わざわざここに仕掛けに来てたの?」

『2人共! 驚くのは分かったけど、戦闘準備を! ここはもう私たちの拠点として効果があるから落ち着いて……このゴブリン軍曹たちを狩るわよ』

「わ、分かりました。勿体ないけど、ポイント消費5。共有出入口を設置」



 俺は未だ俺を見つけられていないゴブリン軍曹を横目に、近くの壁に触れた。

 そして、バレないよう出入口を設置するとその場から姿を消す。


 俺たちが拠点から離れて行動をするようになったきっかけは『がおがお』での移動が楽になったから、ゴブリンの数が少ないから……それとは別にこの出入口の設置があるからってのが大きい。


 俺のレベルが5に上がって、リンが3に上がると、拠点ポイントで交換できるものが増えていた。

 その1つがこの共有出口。


 分かりやすく説明するならこの出入口は指定した、指定できた場所と場所とをつなぐ扉となることができるってもの……つまりはポイントで買える『天狗●抜け穴』みたいなもんだ。


 これのおかげで拠点①と②を簡単に行き来できるようになって、道中の危険を回避できるようになった。

 だから、臆病な俺でも一歩でも二歩でも出歩けるってわけ。


 それに、今みたいな状況陥ってもこうしてポイントを余らせておけばすぐに逃げられるし……有利に立てる。


 レベルが上がったからってゴブリン軍曹と対峙するのは正直まだリスクが高い。


 勿体なく思わなくはないけど、ここはポイントの使いどころってわけさ。



「相手はゴブリン軍曹。狡猾で強力な腕力……だけど『がうがう』を捉えられる程の速さは多分ない。それに……」



「――おい! 軍曹だかなんだか知らないけど、そんなたるんだ腹で戦おうなんてお笑い種じゃない? あ、そうか私が可愛い女の子だからって気を使ってギャグを用意してくれたんだ! ありがとう! でも、その出べそは汚いだけだからしまって欲しいかな、なんか……ちょっと匂うよ」

「うがぁあぁああぁぁあぁあああぁぁあぁあっ!!!」



 この数日で鍛えられたリンの煽りスキル、スキルっていってもステータスに現れるような大層なもんじゃないけど……まあとにかくこれの前にいくら軍曹と言えどゴブリン程度の狡猾さは全て無に還る。



 これが敵だったとしたら……どんな仕事も笑って受ける菩薩の君とうたわれた俺でさえもイラっとしちゃうね。

 それでもっていいように誘導されて……頭を撃ち抜かれる、と……。



 出入口が共有されたことで覗き穴もどの拠点を見たいか念じるだけで切り替えができるようになっていた。


 だからこうして戻ってきてもリンが戦っている様子を見ることもできれば音を聞くこともできる、そして……当然グロウショットによる攻撃を届かせることも。



「にひっ」



 覗き穴の位置を把握することができるリンは、誘導ができたと判断してこちらに合図を送ってくれる。


 そうしてゴブリン軍曹が直線状に現れるちょうどを狙って俺は装填した石を放つ。



 真っ直ぐ放たれたそれは風を切る音を立て、吸い込まれるように米噛みにゴール。


 ゴブリン軍曹の巨体は揺れてその場に膝を落とす。



「よし、効く」



 ダメージを確認しながら俺は急いで違う覗き穴へと向かう。

 というのも、もし一発仕留められなかったとき、その時はこちらの場所を悟られないために他の場所から狙撃することが事前の作戦に組み込まれているから。


 この戦法で狩りをするって決まってからリンにはちゃんと覚えられるよういっぱい年勉強してもらったっけ。


 人間に近い見た目をしていることもあってか、リンの奴案外物覚えがいいんだよな。

 狡猾なのはゴブリン軍曹だけど、頭がいいのは間違いなくリン。


 本当にゴブリン勝手疑うこともしばしばあったくらいで……こっちの立場がなくなるんじゃないかってちょっと焦ったのはここだけの話。



「うがああっぁぁああっ!!」



 リンの煽りと今の一発で我を忘れて暴れるゴブリン軍曹。


 武器を覗き穴のある方向へぶん投げたかと思えば、頭にかぶっていた兜のような装備も地面に叩きつけてくれる。


 そのお蔭でもう狙いやすいのなんのって……。

 これなら外すリスクも少ないし、特別な弾を使ってもいいかな。



 ――バキ。



「『弾変換』」



 俺は自分の鋭い犬歯、その1本をモンスターの馬鹿力で引き抜くとグロウショットに装填。


 すると犬歯は銃弾のような姿に形を変え、血のように赤い紋様を刻んだ。



「鹿の角みたいに生え変わるからできる芸当……とはいえ、痛い思いしてるんだから当たってくれよ。下の歯までくれてやるのは勘弁だか、らっ!」



 願いとぼやきを込めると、俺は十分に引っ張ったグロウショットのゴムから手を離した。

お読みいただきありがとうございます。

モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。

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