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15話【後半別視点】眷属

『――名前をあんたがつけちゃうと多分……』

「リン! いい!! 可愛い!! あーがとっ!!」



 少し焦った声のアナさんを無視して喜びの舞を踊り始めるリン。


 早く拠点に戻らせたかったから名前を付けたってのに……まったく逆効果じゃないか。


 まぁ喜ばれるのは悪い気がしないし、この様子からしてアナさんがなにか危惧しているようなことも――



【ゴブリン:リン(眷属候補)】



「ん? なにこれ?」



 微笑ましい光景にこっちまで笑顔になってしまいそうだ、なんて思ってるとリンの頭上にいあっまで見たことのない表記が。


 眷属候補って……これ、俺もテイムできた? テイマーになったってこと?



『はぁ、やっぱり。残念だけど眷属になるのとテイムするのは違うわ』

「その、それって悪いことなんですか?」



 深いため息を漏らすアナさんに恐る恐る質問をしてみる。

 怒ってはいなそうだけど、おっかないことはおっかない。



『テイムは対象を奴隷とする、つまりは無理矢理言うことを利かせることのできるスキル。でもこの眷属っていうのはなんというかそんな便利なものじゃないの』

「裏切ったりもする、と?」

『その可能性はほとんどないと思うわ。眷属になるってことは相手の意思も影響しているから』

「じゃあデメリットって特にないんじゃないですか? その、メリットも良く分からないんですけど」

『メリットは呼び出しと、連絡が可能になること、眷属の取得したアイテムを自分で取得したものとして入手できるようになること……』

「おお! それじゃあ俺が無理矢理全然に出て戦わなくても食材が――」

『デメリットは眷属の世話。眷属が体調を崩せばあんたも状態異常になるし、興奮したり、お腹が空いたりもする。だから世話を怠れば怠るほど自分に返ってきちゃうの。それに……ペナルティだってあるのよ』

「ペナルティですか……」



 ゲームなんかの定番だと経験値の減少、レベルの減少、アイテムの消失ってとこだろうか?

 だとすれば、戦闘が無くても常に冷や冷やもので嫌ではあるけど……それを補うくらいのメリットのようにも感じるんだけどな。



『ええ。それでその内容は『やり直し』。全部の記憶を失ってあんたはこのダンジョンのどこかで目覚めて……私じゃない誰かのサポートで、新しいステータスで、新しい記憶で目覚めることになるわ。眷属にとって、最も相応しい姿となるために』

「お、おっも……」



 想像の名斜め上ではなくてしっかり上を行った内容に、つい狼狽えてしまう。


 今だってかなりしんどいのにそれ以上の状況、状態でリスタートなんて地獄もいいところだ。

 しかもこの言い方、感じだと失敗しても何度も何度も繰り返すはめになるってことか。


 ……あんまり想像したくないけど、それってつまり死にたいって思っても死ねないってことでもあるのかな?



『当然死ねないわ。眷属を持つものは偽物であっても神として崇め称えられるんだから』

「まじ、ですか……。あ、ははは……これじゃあ本当にもう人間て感じじゃないですね」

『そうね……』



 俺が精一杯の冗談で場を和ませようとすると、アナさんの声のトーンは余計に下がってしまった。


 明るい性格に似合わず、次に謝罪の言葉を述べられそうな暗い雰囲気にこっちの気まで滅入りそうになる。


 まだダンジョン2日目だって言うのに、こりゃないよ。



「あのアナさん、でもダンジョンの最下層に到達すればそんなことも解決できるんですよね? なら、そんなに悲観しなくても大丈夫ですよ。俺ここからギア入れて頑張りますし、これでも世話をするのは苦手じゃないですから――」



『――あんたが苦手じゃなくても!! 私には負担なんじゃい!! いいのよ、別にあんたが死ねなくなるのは! むしろその方が都合がいいとさえ思うわ! でも、これから2人分のサポートをしないといけないのよ私は! 眷属ってつまりあなた自身みたいなものだから! でもね……このゴブリンはあんた……竜瀬じゃないわけで、理解だって遅いの! あーあ、中途半端に言語使えるようになったせいでサポートの義務からは外れるシステムも適用されないじゃない!!』



 ……って、俺の心配してたんじゃないのかい!! 仕事増やされてイライラしてただけかよ!!

 気を使って話してた時間返してよ、もう。



『いやそういうけどね……。はぁ……もうため息止まんないわ。それにそんな仕事が増えるってことはそのあの――』



 2人でお世話してあげましょう。俺ができることは全部するので、妹……娘みたいなもんだと思って!



『娘って……。竜瀬……でもね――』



 はい、というわけで俺は今からリンに軽くお説教します。

 だからアナさんはサポートするための情報調達とか諸々頑張ってください。


 やることを分け合えばこんなの苦どころか、楽しくさえなります! 俺とアナさんならきっと!

 これ、俺の全力のポジティブですから、これ以上はできませんから、だから一緒に頑張りましょう!



『……これはこれで悪くないのかも。ううん、嫌いじゃないかもこの感じ』



 はぁ……なんとか収まった。

 あんなに無理に元気に会話したのなんて何年ぶりだったかな?


 あれは確か……あー、なんか思い出そうと靄が掛かるみたいに考えられなくなる。


 もういいや、頑張ったばっかりなんだからそんな余計なこと考えるのは止め止め。

 今は拠点に戻ってまだ残ってるはずの拠点ポイントで『あれ』をもっと買うのが先決。


 だってなんだかんだ言って灯り犬っていう機動性十分の経験値量産機、もとい新しい仲間で出来たんだからさ。



 ふふふ、待ってろよゴブリン軍団。

 準備は整っちまったんだ、ここからは反逆のレベルアップタイムだ。




 ◇



「い、たた……」

「だ、大丈夫ですか?」

「はい。まだ傷は痛むけど普通に歩けますから」

「それにしても……ゴブリンですか」

「私もまさかゴブリン程度にやられるなんて思ってもみなかったです。でも、あれは小柄でも強力で……刃があんなに簡単に折れるなんて初めてでした。って、いててぇ……」

「あ、ほら無茶はなさらずに」



 命からがらダンジョンを出ることができた。

 身体の痛みと空腹、それにアイテムのほとんどを失って、自分でもよくここまで辿り着けた、って思う。



 C級2人とD級の私で3人のパーティーを組んで挑んだクエストはゴブリン10匹の討伐で、それはなんてことのない、日帰りで終わる簡単なもの……だったはずなのに。



「まさか、あんな個体がいただなんて……。私が、無理に進もうって言ったばっかりに……。私が……」

「探索に犠牲はつきもの。それにどの選択が正解だなんてそんなのは誰にも分りません。だからあなたは悪くない」

「う、うぅぅ……。ありがとうございます」



 ダンジョンから帰って来た私の瞳からは悲しみと安堵で大量の涙が零れた。


 まさか、まさか……帰ってこれたのが私だけだったなんて……。

 それに、こんな情けなく他の探索者に介抱されることになるだなんて思いもしなかった。


 恥ずかしいけど、涙が止められそうにない。



「それで、その……もう少し質問させてもらってもいいですか?」

「は、はい」



 目元をこすっていると、介抱してくれていた探索者が申し訳なさそうに問いかけてきた。


 白色の立派な鎧からしてきっと名だたる探索者なんだろうな、私みたいな新米と違ってきっと……。

 白色の鎧……白色の鎧……、そういえば当たり前のように接していたけど、この人のこれってどこかで見たことがある。



 でもあの人は今は活動を休止していて……ここにいるはずがないわ。



「その、あなたはどうやって外に? ゴブリンは1度捕まえた獲物を逃がしたり絶対にしないモンスター。それから逃げ出したとなればなにか異常があったと思うのですが」

「それは……その……実はあまり覚えてなくて」



 これは嘘じゃない。

 ゴブリンに叩かれ、犯されそうになって、恐怖でパニックになり、でも意識は朦朧としていて叫ぶこともできない状況。


 数十秒後には死んでいたっておかしくはない状況だったのに、いきなりそこにいたゴブリンたちは倒れて死んでしまった。

 まるで上級魔法でも使ったみたいに。


 しかも私の枷は急に壊れて……本当にあの時のことを思い出すと、今でも神様が助けてくれたとしか思えない。



「そうですか。すみませんね。嫌なことを思い出させてしまって」

「いえ、いいんです。私と同じような目に遭う人が増えないのであれば、情報の提供はいつでもさせていただきます」

「ありがとうございます。他の人たちもあなたのように間に合っていれば……」

「え?」

「いえ、何でもありません」



 白い鎧の探索者の視線、その先を見ると辺りには泣くこともしない眼の死んだ探索者たちがちらほらと横たわり、また一人また一人と運び込まれる。


 その数は10人。ドラゴンとか強大なモンスターの被害ならわかる数。だけど……。


 まさか……これ全部がゴブリンの被害者だっていうの?

 



「あの……これって」

「私も久しぶりにダンジョンに潜って気づいたんですが……どうやらゴブリンのやつらが後区や中区から漏れ出て巣を作っているらしいんですよ」

「え? でも私が向かった時には……」

「奴らは狡猾で利口だ。だから、まずは人にバレないようこっそりと生活場を作っていたのでしょう。それで、安全が確保できたと判断して人を襲い出した。おそらくは新しい区で頂点に立つため、積極的に性行為を繰り返して血族を増やそうとしているのでしょう」

「そして……その、別の被害者がいたお蔭で私は狙わずに帰ってこられたというわけですね」

「……おそらくは――」



「おい!! 被害者の中に話せる奴がいるって聞いてきたんだが!!」



「あの、それは私……だと思います」



 医療室に入ってきたのは大柄で荒々しい男。

 明らかに怒っているって顔で凄く怖い。


 でもここで応えないわけ方が怖いから勇気を振り絞って手をあげる。



「……大変だったな。俺は須崎。お前は?」

「私は柳……綾っていいます」

「そうか、早速で悪いがあんたにもついてきて欲しい」

「え? それはその……」

「こいつから話は聞いてるだろ? ゴブリンが他の区画まで漏れて出てきてやがる。だからその根源を、弱者を追い出してる張本人は早く殺さないといけねえ」

「張本人?」

「ゴブリンなのかそれとも……人なのか。ともかく不穏分子を処理しないと被害は広がるからな。安心しろ、柳さんの身の安全は約束する。なにしろ……」



 須崎さんは早々と用件を言い済ませると、白い鎧の人に視線を移した。


 やっぱりこの人って……。



「イージス。それがこいつの名前で、今回俺たちの護衛を引き受けてくれた探索者さ」

お読みいただきありがとうございます。

モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。

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