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13話 共に食う

「にしても……ちょっと疲れたな」

「ごめん」

「いやそんなに謝らなくても――」

「ありがと」

「……ああ」



 外のゴブリンたちを一掃し、女性を助け終えると俺は息を吐き出しながらその場に腰を下ろした。


 そんな俺の姿を心配してくれたのか、ゴブリンはとてとてと歩いてくると、申し訳なさそうに言葉を紡いだ。


 ゴブリンと会話なんておかしいと思っていたけど、案外なんとかなるもんだな。




 そんでこのまま残り……46匹、か。



 攻撃手段を手に入れられたことと、覗き穴という間違いなく有利に働いてくれるそれを手に入れたことは良かったけど、このクエスト以外、もっと難易度の高いお題をクリアすることも考えていくと、やっぱりここから出ても大丈夫な、真正面から向かい合えるだけの戦闘力は必要。


 しかも時間制限付きだから効率のいいレベルアップが急務で……今みたいな状況をひたすらに待ち続けてコツコツコツコツってわけにもいかない。



 だとすれば……。



『――ゴブリン4匹討伐、残り46匹。アイテムを4つ取得。経験値取得保留中』



 今後の展開について頭を悩ませていると、アナさんが本職である情報の伝達を始めた。


 普段の会話のテンションがあんなだから、唐突に仕事モードになられると驚くし、ちょっと面白い。

 感覚としては母親が電話の時だけ声を高くしているのを聞いてしまった時に似てる。


 と、こんなこと思ってるとまた何か言われかねないか……。



「アナさん、連絡ありがとうございま――」

『ゴブリンの拠点【処理部屋①】に配置される個体の排除に成功。一時占拠に成功。完全に占拠できたわけではありませんが、拠点ポイントが一部付与されました。所持ポイント10』



 アナさんの機嫌をとるため、急いで俺を言おうとすると、それを遮りながらもアナさんは今の戦闘によって起きた変化を知らせてくれた。


 そしてその内容は意外なもので、俺はつい目を見開いてしまう。

 こりゃ疲れただなんだで座りっぱなしでいられないかも。



『どう? 折角勝ったのに浮かない顔してたけど……これで少しは元気が出るんじゃない?』



 その姿は見えないものの、どや顔で俺の前に立つアナさんが容易に想像できる。


 確かにこの情報は凄く俺を前向きにしてくれる、けど……。



「俺よりもアナさんの方が元気、嬉しいんじゃないですか?」

『私は……当然嬉しいわよ。だって自分がサポートしてる対象がまた一歩最下層に近づくって言うんですもの。それよりこんなときくらい竜瀬、あんたは他人を気にしないで喜びなさい。そうじゃないと、大勝利なのに仲間も喜べないでしょ? ……。まあ、そんな気遣い屋さんなところも嫌いじゃないんだけど』

「仲間……あっ」

からさ


 慌ててゴブリンに視線を移す。

 するとゴブリンもその場に座って困ったような顔を浮かべていた。


 何を考えているのか全部を理解してやれないが、居心地が悪そうなのは分かる。



「……拠点ポイント、いやまずは飯だ飯! 戦ったら腹が減ったからな! えっとマップに敵の気配もないし……なあちょっと料理手伝ってくれるか? この尻尾もなんか食べりゃすぐ治るからさ」

「……。うん!!」



 そう言って俺たちは調理台へと向かった。


 そして腐ってしまう前にドロップ品であるゴブリンの耳を取り出す。

 あ、これってこいつ、ゴブリンにも共食いさせることになるけど……それって倫理観的に大丈夫なのかな?



「あ、あのさ、今ある食材なんだけど……ゴブリンってゴブリン食べても大丈夫だったりする?」

「ん? もんすたーはもんすたー、たべるのふつう。でも、おなじのははじめて」

「そ、そうか……じゃあ、一応日だけは通そうか」

「うん!」



 共食いさせてしまうことに戸惑いを感じているのが馬鹿に想えるくらいゴブリンは元気に返事をしてくれると、俺の取り出したゴブリンの耳をナイフで切り分け、突き刺して焚火まで歩いて行った。


 その手際の良さから、こいつが普段からこういう料理をする役割をしていたんだろうなってのがなんとなく伝わる。

 そんな奴がまるで気にしてないんだから俺もう気にするのは止めよ。



 それよりも今はこれが食べたくて食べたくてしょうがないんだよ。



 ゴブリンの真似をして俺も調理台に置いてあった大き目のナイフに肉を指して焼く。

 スキルの効果を考えて、全個体分の耳を切り分けたあと焼かれるそれらから垂れる少量の脂。


 血抜きとかそういった処理はしてなかったけど、アイテムとして収納される際に少し加工がなされているのか、まるで洗った後のような美しい肉の表面にはちょうどいい焦げ目がつく。


 匂いにスパイスのような癖があるけど、嫌なものではない。

 これなら籠っても大丈夫。



 血の色が赤色ではないからどれだけ日に通せばいいのか、判断は難しかったが既にな迄いろんなものを食っているんだから問題ないと思って、俺はややせっかちかと思われるくらいの焼き時間で火から肉を上げた。



「いただきます」

「いああぎまず!!」



 そうして先に肉を焼いていたゴブリンと一緒に、決して立派とは言えないが大ぶりであるゴブリンの耳に齧り付く。


 塩も醤油も、ソースだってつけていない簡素な料理ではあるけど……どうしてこれがなかなか美味い。

 獣臭さは意外に少なくて、脂が甘く、軟骨のコリコリとした食感が楽しい。


 肉質はボソッとしているけど、脂がねっとりと纏わりついて喉が渇くようなぱさぱさ感は薄い。


 牛肉とか豚肉には遠く及ばずとも、今の俺にはこれでも十分に美味い。

 なんでもうまく感じられるようになったのはモンスターになったことによる唯一の恩恵なのかもしれない。



 ――ん、ぐ……ごり、こり。



 自分の口の形に慣れていないだけでなく、このバーベキューのような雰囲気が俺の食い方を汚く、大胆にさせる。

 人によっては怒ったりもするんだろうけど、今は、これはこうして食うのが一番美味いと断言できる。


 1つ、2つ、3つ、4つ……。


 ゴブリンの耳はあっという間に腹の中に消えて、俺たちを満たした。


 まったく、明らかに美味いとは思えないモンスターだっていうのに……もっとちゃんとした食材を口にしてしまったらどうなるんだよ、俺――



『通常の経験値の3倍、15×3で45。これを4匹分で180の経験値を取得。保留経験値はなくなったわ』

「そうですか……。やっぱりレベルアップってそんな簡単じゃないですね」



 口の中に残る肉の脂の味を噛みしめていると、アナさんが冷静な口調でレベルアップしていないことを教えてくれた。


 スキルのお蔭でレベルアップはしやすい状況にあるはずなのに、まだレベルアップなし。

 探索者は1レベルの差でもマウンティングすることが多々あるらしいけど、こうしてダンジョンにいるとその意味がよくわかるな。


 というか俺ってまだ倒してる数が少ないんだからそんなにバンバンレベルアップするのはおかしい、か――



『ううん、こんなに簡単にレベルを上げられる人間、モンスターはいないと思うわ』

「え? でも俺のレベル上がったてないんですよね?」

『ええ。あなたはね。……まさか共食いって、一緒に食事をしたモンスターにもその影響がいくようになっているのかしら。そんな説明は私でも読み取れていなかったのだけど……』



 俺はアナさんの言葉に合わせて、それを確かめるためにゴブリンを見た。



 ――【ゴブリンLv2】



 すると今まで表示されていなかったレベルの表記がそこにはあった。


 もしかして共食いって……共に食べるの意味も含まれているのか?



「ん? なんか身体、漲る」

『なるほどね、レベルアップでその人間性も向上していると……。言葉が前にもまして達者。この子は今私のサポートの範囲外だからステータスを覗けたりはしないけど……。スキルを多く取得しているようにもみえるわね。雰囲気がそんな感じだわ』

「それ、もしかしてまずかったりします?」



 ここまで仲間だと思ってきたけど、力をつけてやつが裏切るのはよくある展開。


 顔つきがより人らしくなって、強者の雰囲気も醸し出して……緩んでいた緊張感が走って戻ってくるみたいだ。



「これなら、私……多分――」

「ぶぉるるうるるるるぅぅううぅぅ……」



 嬉しそうな顔を浮かべると、その視線を俺に向けるゴブリン。


 なにかを伝えたいのか、近づくその足を見つつ俺hあ鼓動を高鳴らせていた。


 しかしそんな俺たちを邪魔するかのように外から嫌な声が聞こえてきた。



 さっきマップを確認した時はなにもいなかったはずなのに……。

 やつらどれだけ足が速いって言うんだ。



「灯り犬……数は2、か。いや、むしろこの状況はすごくいい、あいつらがここで仲間を呼んでくれればまたあの肉を……経験値を大量に獲得できる」

「呼ばせる……。うん、わかった!」

「ああ、それができれば……って、おい! おま、どこに!」



 ゴブリンは俺と向き合うのを止めてまた唐突に走り出した。

 まったく、手のかかるゴブリンだ。


 ま、あの覗き穴を使ったとしても何かできるってわけじゃないだろうから大丈夫だとは思うけど。



「……出入口。ポイント消費」

「……まじで?」



 ゴブリンは覗き穴から少し距離のある場所を選ぶとそこに触れ……そこに扉を顕現させた。


 しかもそれを豪快に開けて……灯り犬まで一直線。


 おいおいおい、あれと直接戦ってもし殺されたりでもしたら……それだけは絶対阻止しないといけない。



「くっ……」



 俺は焦りながらも石ころを拾い上げるとグロウショットに装填して、拠点を後にした。


 こうなったらもうどうにでもなれだ。

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