(第1話 大雨のあと 7月17日)
チュートリアル編
長く続いた梅雨もやっと明けた。末期の大雨は、西日本各地に崖崩れなど大きな傷跡を残し、前線は日本海に消えていった。16時までの勤務を終え、マンションに帰り着くとジョギングウェアに着替え、一週間ぶりの城跡公園に向かう。鎌倉~室町時代の山城跡の公園は、標高100m、遊歩道は、男坂の1000mの階段坂と女坂の1400mのなだらかな九十九折りの坂道がある。その日の気分で散歩しているが、夏の日差しの中、汗をかきたくて男坂を上っていく。6合目の折り返しは少し広場となっており木々の隙間から市街地が見下ろせる。山肌を見ると、少し崩れており昔の防空壕の跡か空洞が見える。
空洞に近づき好奇心で覗き込むと、足場がもろくなっていたのか砂利や縁石と一緒に空洞に滑り落ちた。2mほどの落下地点から上を見上げると太陽に霞がかかっている。何か膜でもあるのか輪郭もにじんでいる。
尻をはたきながら立ち上がると一緒に落ちた縁石を踏みつけた。なにか踏みつぶしたような感触を得ると同時に、頭の中に「チュートリアルダンジョン第1階層クリアー、レベル1獲得、初級魔法、アイテムボックス、深層記録アクセス権を獲得しました。」と響いた。
周りを見渡すと空洞は炭鉱跡のようで、奥には地下への階段も見えた。足元を見ると、縁石の周りにゼリー状のものがつぶれており縁石が少し浮かんでいた。縁石を持ち上げるとビー玉大の虹色の石と30センチのダガーナイフが落ちている。ポケットから大きめのハンドタオルを取り出し虹色石とナイフを取り上げた。アナウンスを思い出し、首をかしげながらアイテムボックスと念じるとタオルごと手から消えた。頭の中にはアイテムボックス一覧としてハンドタオル・毒蛇のダガーナイフ・ラージスライムの魔石と表示されている。 空洞に落ちた時、頭を打って気を失い、今は夢の中かと思いつつ腕をつねると普通に痛い。 ステータスオープンとつぶやくと案の定ステータスが表示される。
ステータス ニシ ヒロシ 年齢64 レベル1
HP 20 MP 10
スキル 初級魔法・アイテムボックス・記録アクセス
ライトノベル愛読者の私にはお馴染みの表現、思わず笑みがこぼれる。空洞を進み、下を覗くと薄明りのもと階段が続いている。まずは現状認識と崩れた崖をよじ登る。数分のチャレンジで、何かの膜をくぐり広場に戻る。頭の中に「チュートリアルダンジョンを隠蔽しますか?」のアナウンスが響く。イエスと答えると何事もなかったような緑の山肌に戻っている。
周りを見渡し、早速の現状確認、ダガーナイフの出し入れ、ライト・クリーンの詠唱、お決まりのMP枯渇。けだるさが解消したところで帰宅。
シャワーを浴び、簡単な食事と缶ビールで夕餉を済ます。
用もなくステータスを確認しては頬が緩みっぱなしの夜であった。
初級魔法(ライト・クリーンまで確認)
アイテムボックス(50×50×50cmまで収納可)
記録アクセス(確認できず)