【後編】 〜土曜日〜
翌日の土曜日、私は朝から隣町のコンビニへ行くため一人で出かけていた。
目的は3日前にコンビニ強盗と出くわしたせいで引けなかった「魔法少女マリィ」のキャラクターくじ。
流石にあのコンビニへもう一度行くのは気まずいため、隣町のコンビニへ行くことにしたのだ。
コンビニ強盗に出くわしたのは水曜日。それから私は木曜・金曜といつも通りの学園生活を過ごしていた。つまり、セリちゃんとは一言も話をしていない。
逆にシュシュちゃんは、昨日の休み時間やお昼休憩、放課後にも話しかけてきた。
シュシュちゃん曰く、セリちゃんは愛想がなくて、ケチで、家にも入れてくれない冷たい奴だそう。
確かにセリちゃんに愛想はない。でも、仲が良かった幼い頃、セリちゃんは私が好きなおやつを多くくれたり、魔法少女マリィごっこではいつもマリィ役を譲ってくれていた。仲良しの友達には優しいし、ケチなんてことはないし、シュシュちゃんを家に上げないのはおそらくセリちゃんの家は犬を飼っているからだ。
猫を飼っている私の家もシュシュちゃんを入れることはできないのでわかる。
シュシュちゃんは愚痴っていたが、ただ単にシュシュちゃんとセリちゃんの相性が悪いだけだ。
そんなシュシュちゃんが休み時間のたびに私の元へ来ていた目的は、ノルマ達成のための話し合いではなく、明らかに私のおやつだった。現に、私が密かに学校へストックしていたおやつは、昨日1日でシュシュちゃんに全部食べられてしまったし、ノルマ達成のための案は何も出てこなかった。
私は隣町のコンビニへの道を歩きながら、ノルマを達成するにはどうしたら良いのかを考えていた。
「おい、ハルキュ!こっちこいキュ!」
声がした方を向くと、今は使われていない工場の跡地の中からシュシュちゃんが手招きしている。
「ちょうど良かったキュ。呼びに行く手間が省けたキュ。セリの夢を叶える良い方法が思いついたから、早くこっち来るキュ」
シュシュちゃんの口角がキュッと上がっている。チンチラの姿でも機嫌がとてもいいことがわかる。
工場跡地の入り口は有刺鉄線が張られているため簡単に中に入ることはできない。
私はキョロキョロと周囲を確認し、人がいないことを確認してから、恐る恐る有刺鉄線が緩まっている所から工場跡地へと入っていった。
普段の私なら、私有地に勝手に入るなどあり得ない。そもそもなぜ工場跡地へ入る必要があるというのか。
チンチラが言葉を話して空を飛んだり、セリちゃんが魔法少女に変身したりと、ここ数日の不思議なことの連続で私は感覚が麻痺してしまっていたのだ。
「シュシュちゃん、良い方法って何?」
「シュシュ様と呼べって言ってるだろキュ。俺様は王子なんだからなキュ。……とりあえず、これキュ」
先ほどまで歩いていた道路が見えない奥まで侵入したところで、シュシュちゃんはどこからともなく紙を取り出し私へ差し出した。
シュシュちゃんから渡された紙には茶色に近い濃い赤で複雑な模様が描かれている。どう見ても血で描かれた魔法陣だ。
おどろおどろしい怪しい雰囲気に、何も考えずにサラッと受け取ってしまったことを後悔する。今すぐにでも手放したい。
「ハルは気付いてるかキュ?セリが魔法少女に変身する時って、ハルがピンチな時だけなんだキュ……」
シュシュちゃんの小さな手から私に向かって光が放たれたと同時に、私は全身から力が抜けてその場に膝をついてしまった。
シュシュちゃんから渡された紙は私の手から滑り落ち、丸い模様の中心から強風が起きて竜巻のように渦巻いている。
しばらくして風が治ると、地面に落ちた紙の上に浮かび上がっている妖艶な美女……。
美女は椅子に座っているかのように足を組んだ状態で宙に浮き、長い銀色の髪は水中を漂うようにゆらゆらと揺れている。
美しく波打つ銀色の髪に鮮やかな赤い瞳、こめかみからは黒い巻き角が生え、胸元まで大きく開いたVネックの黒いドレスはロング寸なのに深くスリットが入っている。
そんな、艶やかな姿にも関わらず、美女は右手に羽ペン、左手に洋紙を持ち、その指先はインクで汚れていて、分厚い黒縁メガネをかけている。なんともチグハグな印象だ。
「シュバルちゃん?ママ、今、お仕事中なのよ。遊ぶなら時間を考えてちょうだい。って、あら?首輪はどうしたの?」
シュバルとはきっとシュシュちゃんのことだろう。つまり、自分を”ママ”と言ったこの妖艶な美女は、シュシュちゃんの母親のようだ。
「オカンは黙ってろキュ!おいセリ、どうせハルをストーカーしてるんだろキュ!このババアは魔族の国の女王、つまり魔王キュ。召喚にはハルの魔力を使ってるから、早くこの魔王を倒さないとハルは魔力が尽きて死ぬキュ」
シュシュちゃんの母親は魔族の国の女王らしい。シュシュちゃんの言う通り魔王と言ってもおかしくないだろう。
『うろんな魔法少女マリィ』のラスボスは魔王だった。つまり、魔王であるシュシュちゃんの母親を倒せば、セリちゃんのノルマは達成される可能性が高い。そもそも、シュシュちゃんの姿を変え、魔法を使えなくしているのは魔王なのだから、その魔王が倒されたらノルマも何もない。
もしも、それに失敗してセリちゃんか私、どちらかが死んだとしたらノルマはどうなるのだろうか……。ノルマは強制終了し、また封印状態に戻るのならば、シュシュちゃんはまた首輪を切ってくれる人を探し出し新たなノルマをこなせばいいだけだろう。
自分の母親が倒されても何も感じないことが前提の考えだが、この作戦が成功しても、失敗しても、どちらに転んでもシュシュちゃんに損はない。
シュシュちゃんは自分の母親のことも、首輪を切った私のことも、巻き込まれて魔法少女をやることになってしまったセリちゃんのことも、自分の目的のためならば傷ついて構わないと思っている。正しく魔族だ。
私は膝をついてしまってから、立ち上がりたくても身体に力が入らない。ひどい疲労感に、『ハルは魔力が尽きて死ぬ』と言っていたシュシュちゃんの言葉が真実なのだと嫌でも理解してしまう。
頭が鉛のように重くなり、ボーッとしてきた。膝立ちすら辛く顔面から倒れ込みそうになった私の目に、たくさんのピンク色が飛び込んできた。
……優しくて甘い、セリちゃんの香り。
私が倒れ込んだのは硬い地面ではなく、柔らかい魔法少女セリィの身体だった。いや、セリちゃんが私を抱きしめて支えてくれたと言った方がいいだろう。
セリちゃんが握ってくれた手から体温が上がって身体を満たしていく。セリちゃんの魔力を私に流してくれているのだ。
すぐに先ほどまでのひどい疲労感はなくなったが、まだフラついて立ち上がることはできない。
「……ありがとう」
「私は魔法少女セリィ。愛と魔法で世界を救ってみせる……」
セリちゃんが発するのはいつものキメゼリフ。そういえば、魔法少女に変身したセリちゃんは、この台詞しか話していない気がする。
「キャーーーー!」
セリちゃんのキメゼリフを聞いたシュシュちゃんのママこと魔王の悲鳴にびっくりしてしまう。
「オカン、うるさいキュ」
「これって、これって、『うろんな魔法少女マリィ』じゃない!?いや、マリィより少し長身ね。でもいい!全然いいわ!ちょっとカッコいい感じのマリィもいい!シュバルちゃんをチュチュそっくりにしたら、まさか3次元の魔法少女マリィを見れるなんて!いいもの見れてラッキー!」
魔王は手に持っていた書類をくしゃくしゃにしながらセリちゃんを見つめて興奮している。もしかしなくても、『うろんな魔法少女マリィ』のファンなのだろう。
シュシュちゃんが壊してしまったという”オカンのコレクション”が気になってしまうが、セリちゃんへ好意的なこの感じならノルマを解き、セリちゃんと私を解放してくれるかもしれない。
「ははーん。この地味メガネちゃんがリヒトくん役ってことね。うーん、私的に女の子でもありね。眼鏡を取ったら可愛い顔をしてそうだし、可哀想可愛いリヒトくんっぽいっていったらぽいかしら。……あなた、名前は?」
こちらを見てきた魔王に、私は自分を指さすと頷かれてしまった。同じ魔法少女マリィファンの魔王に、マリィの幼馴染リヒトくんっぽいと言われ気を良くしてしまった私は、この状況を深く考えることなく、名乗り上げる。
「田嶋波瑠です」
本名はシュバルだったのに、私へは”シュシュ”と名乗っていたシュシュちゃん。シュシュちゃんに名乗られた時は、ファンタジーでよくある”真名”云々について考えていたというのに。
安易にフルネームを名乗ってしまった。
「おいっ、何、素直に名前を教えてるんだキュ!アホかキュ!」
シュシュちゃんが叫んだと同時に、魔王の手から大きな煙が上がった。モクモクと大きくなっていくその煙を背に、魔王は妖艶な笑みを魅せた。
「タジマ……タジマハルちゃん、あなたには特に恨みはないけど、ごめんなさいね。シュバルちゃん、魔法少女マリィごっこもいいけど、ママは今繁忙期なの。魔法少女シーリーズの動画を見る時間も取れないくらい忙しいんだからね。ママの身代わりと遊んでちょうだい」
「逃げんな、クソババア!」
煙はだんだんと魔王と同じ形へと変わっていく。
「ババアだなんて、末っ子だからって甘やかしすぎたかしら……。あと、子供からの遊びの要望を無視したなんて嫌味な部下に知られたら、女王と言えどネグレクトだって陰口言われちゃうのよ。やめてね?髪の毛一本分の魔力だけど、実力は私と同じな身代わり魔法よ。ハルちゃんが死ぬかその魔力が尽きるまでハルちゃんを攻撃し続けるから、魔法少女セリィは頑張って倒してね!……じゃ!」
こちらへ手を振った魔王は、出てきた時と同じ、床に落ちていた紙の中へと吸い込まれていった。
その途端、私の身体から疲労感がなくなり、スッと元に戻ったのがわかる。セリちゃんから支えてもらっていた状態から、自分の足で立ち上がることができるまで回復したが、私にはそれを喜ぶ暇はなかった。
”身代わり魔法”と呼ばれていた煙が、消えた魔王の姿そっくりに変わり、私に向かって飛びかかってきたからだ。
その手にはいつの間にか刺々がたくさんついたおどろおどろしい鉄棍が握られていて、重そうなモーションで私の頭上めがけて振りかぶってきた。
鈍臭く逃げ遅れた私が無事だったのは、セリちゃんがピンク色のステッキでその鉄棍を受け止めてくれたからだ。セリちゃんは素早く魔王擬きの鉄棍を体の横へいなすと、柔道の構えで次の攻撃へ備えている。
魔王擬きの攻撃が魔法ではなく物理だったことは不幸中の幸いだろうか。『魔力が尽きるまで』と言っていたので、余計な魔力を使わないように魔法を使わないだけかもしれないので油断はできない。
物理攻撃と言っても、魔王擬きはセリちゃんを圧倒するフィジカル攻撃を繰り返している。セリちゃんが間一髪で避けた攻撃が工場の壁に当たり、大きな穴を開けてしまった。
あんな強い攻撃を、セリちゃんは受け止めている。
だんだんとセリちゃんが押されている姿に、何も出来ない自分が情けない。このままでは、セリちゃんが怪我をしてしまう。
私が見守る中、セリちゃんは鉄棍の攻撃を抑えきれずに吹き飛ばされてしまった。
「セリィ!」
倒れたセリちゃんへ駆けつけようとした私の方を、瞬時に魔王擬きが見てきた。
魔王は私が死ぬか、魔力が尽きるまで私を攻撃し続けると言っていたではないか。魔王擬きのターゲットは私なのだ。
そもそも、この状況になったのは私がシュシュちゃんの首輪を切ってしまったせい。セリちゃんは巻き込まれてしまっただけ。
ここでセリちゃんに駆けつけたら、セリちゃんはまた私を守ろうとしてしまう。
私を攻撃しようとした魔王擬きとまた戦い出したセリちゃんの姿を見て、私は戦うセリちゃんたちと反対方向へと走り出した。
……私が死ねば、この魔王擬きは消えるし、セリちゃんが怪我をすることもない。でも、ただで死んでたまるか!
「おい、なんでこっちに向かって逃げてくるんだキュ」
逃げてるのではない。死ぬのなら、せめて、諸悪の根源であるシュシュちゃんを道連れにしようと思っただけだ。
傍観していたシュシュちゃんを目掛けて走る私の、そんな思惑に気付いたのだろう。慌てて私から逃げ出したシュシュちゃんを、必死になって追いかける。
火事場の馬鹿力と言うべきか、普段の私からは考えられない動きで追跡する。空を飛んで逃げるシュシュちゃんを、階段の手すりから飛び降りて抱きつき、捕まえることに成功した。
「はーなーせーキュ!なんで、お前には魔法攻撃が効かないんだキュ!最悪だキュ!」
どうにか逃げようと小さくなる魔法で小さくなって抵抗を続けているが、私はハムスターより小さくなったシュシュちゃんをきつく握りしめて離さない。
シュシュちゃんは私へ魔法攻撃を放っていたらしいが、感じることはなかった。もしかしたら封印を解いたのも関係しているのかもしれない。
そこへ、セリちゃんを振り払った魔王擬きが私の方へと距離を縮めてきた。
私は抵抗せずにその場で目を瞑り、魔王擬きが振り上げた鉄棍の攻撃を待ちながら、心の中で謝る。
……お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください!あと、セリちゃんも、一生懸命守ってくれてたのにごめんね。こんなことになるなら、勇気を出してセリちゃんに話しかけてればよかった……。
お父さんは命を粗末にしたことを怒って許してくれないかもしれない。お母さんは悲しんでもセリちゃんを守ろうとした私の選択を許してくれる気がする。
セリちゃんはどう思うのだろうかと、私が考えていても、魔王擬きからの攻撃の衝撃はこない。
恐る恐る目を開けると、私の周りにできた光の壁によって鉄棍がせき止めれていた。
そうだ、シュシュちゃんはセリちゃんが魔法を使った時に魔力をちょろまかして、その魔力なら自由に使えると言っていた。魔王を召喚したのも、このバリアのような光の壁も、その魔力を使っているのだ。
「おい、セリィキュ!この身代わり魔法は魔力を使わせて消すのが1番早いキュ!魔法攻撃をして、防御に魔力を使わせるキュ!……ハルが死ねばノルマはリセットするかと思ったのに、これじゃぁ俺様まで死んでしまうキュ」
そうじゃない。もっと具体的に指示してあげないとダメだ。どんな魔法が使えるかなんて、私みたいにファンタジーものを嗜んでるオタクでない限り簡単に想像できない。
「セリィ!『マリィ・マジカル・シャワー』だよ!」
これは魔法少女マリィの必殺技、ステッキについたピンククリスタルから敵に向かってたくさんの光の玉が飛び出す攻撃魔法。一緒に魔法少女マリィを見ていたセリちゃんにも分かる魔法だ。
セリちゃんは私の元へと来て、私の手からシュシュちゃんを取り上げて地面に押し付け、逃げないように右足で踏みつけた。そして、
「一緒」
そう言って、私の右手を取り、私とセリちゃんは2人でステッキを持った。私たちは2人で声を合わせる。
「「セリィ・マジカル・シャワー!!!!!」」
無数の光の玉がピンククリスタルから出て、魔王擬き目掛けて飛んで行く。ステッキから出続けている光の玉は、魔王擬きの周りに出来た光の壁をどんどんどんどんと押していき、とうとう破ってしまった。
「すっげキュ。あいつが魔力切れになる前に、倒しちゃったキュ」
光の玉が消えると、魔王擬きも消えていなくなっていた。
「私は魔法少女セリィ。愛と魔法で世界を救ってみせる」
セリちゃんは私を見て微笑みながら、キメ台詞を呟いた……。
ーーーーー
これだけ大変な思いをして魔王のコピーを倒したというのに、セリちゃんはまだ魔法少女の姿のままだし、シュシュちゃんもチンチラの姿のまま。まだノルマ達成にはなっていないようだ。
もしかして、シュシュちゃんの母親である魔王を倒すまで、ノルマは達成しないのだろうか。
髪の毛一本分の魔力でこれだけ苦戦したのだ。本体を倒すなど、シュシュちゃんの協力を得たとしても不可能な気がしてしまう。戦って倒すのではなく、話し合いで解決する方法を模索するべきだろうか。
先ほど感じた倫理観の違いから、話し合いも戦いと同じくらい難しい予感がしてしまう。
「ハァ……キュ。せっかく貯めた魔力を使ったのに、オカンは魔界に帰ってノルマも達成されず、結局このままキュ。最後の魔法攻撃で使った分の魔力はチョロまかせたから、プラマイゼロかキュ」
シュシュちゃんはいつの間にかセリちゃんの足から逃げ出し空を飛んでいた。
私のこともセリちゃんのことも危険に晒したというのに、罪悪感もなく、反省もしていない様子に、これからもまた同じようなことを起こす可能性を考えると憂鬱になってしまう。
でも、どうにかしてシュシュちゃんの魔法を使わせれば、セリちゃんのピンチを助けることができるかもしれない。いや、どうにかするしかない。
「魔法少女セリィ、今日はありがとう。セリィの愛と魔法のおかげで、私は生き延びれたよ」
これから私は、魔法少女セリィの正体がセリちゃんだと気づいていることを知られずに、どうにかして魔法少女セリィが怪我しないように守らないといけない。
そう。うろんな魔法少女マリィのリヒトくんのように、セリィのピンチを陰ながら助けるのだと、心に誓う。
「ハルちゃんは……私の、世界……」
セリちゃんが小声で何か囁いた後、セリちゃんの全身から光が漏れ出した。
溶け出すように漏れ出したキラキラとした光の粒は空の上へ上へと登っていく。
魔法少女セリィのフリフリピンクの衣装は黒いTシャツとカーゴパンツに、ピンク色の髪は黒髪に、赤い瞳は緑がかった薄茶色のヘーゼルアイに……
気づけば、魔法少女セリィはいつもの甲斐芹へと戻っていた。
私の目の前で変身を解いてしまったセリちゃん。
私はセリちゃんが魔法少女セリィだと知っているとバレたらセリちゃんの記憶が無くなってしまうと焦ったのだが、私の中からセリちゃんとの思い出は消えていない。
幼い頃一緒に遊んだことも、小学校高学年で疎遠になってしまったことも、魔法少女セリィとなってコンビニ強盗から助けてくれたことも全部、全部、覚えている。
「???」
逆に、セリちゃんはなぜかキョロキョロと周りを見渡し戸惑っている。
どういうことかとシュシュちゃんに聞こうと思ったのだが、先ほどまですぐ近くにいたはずのシュシュちゃんがいなくなっている。
……もしかして……
数年ぶりにセリちゃんに話しかけることに緊張し、私の胸は早鐘を打つ。でも、先ほどの死を覚悟した時に比べたらなんてことはない。
「っセ、セリちゃん!私、これから、隣町のコンビニに魔法少女マリィのキャラクターくじを引きに行くんだけど…………一緒に行く?」
そう言って私はセリちゃんに右手を差し出した。これは、幼い頃遊ぼうと誘った時によくしていた仕草だ。
「……うん!」
セリちゃんは私の右手を掴んだ。
緑がかった薄茶色のヘーゼルアイが涙で滲んで見えるのは気のせいではない。私もこみあげてくる涙を溢れる寸前で堪える。
コンビニへの道すがら、セリちゃんと私はいろんな話をした。
これまで疎遠になってしまっていた二人の時間を埋めるように夢中で話していたため、コンビニを2個も素通りして、遠くのコンビニへ行くことになってしまった。
相変わらずセリちゃんの言葉は少なく私ばかりが話していたけれど、少ない言葉ながらセリちゃんは気持ちを伝えてくれた。
「私が無口でつまらないから、ハルちゃんから嫌われたんだと思ってた……」
「つまらないなんてありえない!セリちゃんと一緒にいるだけで楽しいし嬉しいよ。私が意気地なしでごめんね」
私は正直にセリちゃんと仲良くすることに気後れしていたこと、自分勝手にまた話しかけたことを謝る。
セリちゃんの友達が怖いからとはいえ、どうして私は大好きなセリちゃんを避けていたのだろう。それで、セリちゃんが傷つくことまで想像できていなかった未熟な自分が許せない。
一方的に疎遠になったことをちゃんとセリちゃんに償って、また以前のようにセリちゃんと仲良くできたら良いなと思う。
セリちゃんは、シュシュちゃんのことも、魔法少女セリィに変身していたことも覚えていなかった……。
こうして、私とセリちゃんの平穏な日常は戻ってきたのだった。
ーーーーー
「あらシュバルちゃんおかえりなさい。封印は二重ロックになってたから、ノルマを達成したらママのところに転送されるようになってたのよ。ふふふ、残念でした。……次のお仕置きは、2代目マスコットキャラの姿にしようかしら」
ーーーーー
それから数ヶ月後、私は通学路に落ちている灰色の毛に赤い瞳のモルモットを蹴飛ばしてしまうのだが、それはまた別のお話。
end
セリの世界=ハルなので、ハルの命を救ったことを実感して”世界を救う”というノルマが達成しました。
つまり、百合で「You’re my world.」と言わせたかっただけの物語です。
最後までお読みいいただきありがとうございました。




