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うろんな魔法少女よ、世界を救え  作者: くびのほきょう


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1/3

【前編】 〜水曜日〜






-----『私は魔法少女マリィ!愛と魔法で世界を救ってみせる!』-----






「……ハルちゃん、また魔法少女マリィ見てるの?」


「うんっ!ハルね、おっきくなったらマリィになりたいんだ!」


「ハルちゃんがなるなら、私も……」


「やったぁ!セリちゃんとおそろだ!……じゃぁ、ハルはハリィで、セリちゃんはセリィ!」


「わかった。私、大きくなったら魔法少女セリィになって、魔法少女ハリィと一緒に”愛と魔法で世界を救ってみせる!”だね……」


「うんっ!ハルとセリちゃん、おっきくなってもいっしょ!」


「ハルちゃんと私、大きくなっても一緒。ずっと、一緒……」




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「金を出せ!」




その時、私、田嶋波瑠タジマハルは、コンビニでレジの順番待ちをしていた。



レジに並ぶ私の手には『うろんな魔法少女マリィ』のキャラクターくじを引くための紙だけ。

『うろんな魔法少女マリィ』とは私が6歳だった時に放送していたアニメのことで、”⚪︎⚪︎な魔法少女”シリーズの"初代"として10年経った今でも根強い人気がある。今日はその『うろんな魔法少女マリィ』のキャラクターくじの発売日で、私はB賞、マリィの相棒・チュチュの等身大ぬいぐるみがどうしても欲しかった。


チュチュは魔法の国の妖精で、白くてふわふわな毛、大きな耳と尻尾につぶらな赤い瞳、チンチラによく似た姿に羽が生えた可愛いマスコットキャラ。魔法の国からたった1匹で日本へ来た、かわいそうでかわいい健気な妖精なのだ。


そんなチュチュの等身大ぬいぐるみ。魔法少女マリィ好きなら誰しも欲しいに決まっている。

心の中の6歳の私は『毎晩抱きしめて寝る!』と叫んでいて、それを16歳の私が必死に押さえ込んでいる状態。けれど、その16歳の私も『毎食ぬい撮りしたい!』と思っているので大概だ。

必ずチュチュのぬいぐるみを手にいれるという目的に向け、貰ったばかりの今月のお小遣い全てを軍資金にして通学路にあるコンビニへと来ていた。


この春に花の女子高生となった齢16にもなって、幼児向けアニメのぬいぐるみが欲しいなど、正直、恥ずかしいと思わなくも無い。

もしも、クラスのカースト頂点・一軍グループにチュチュのぬいぐるみを手にしているところが見つかったら、まるで汚物を見るような冷ややかな目で蔑まれてしまうに決まっている。そんな想像だけで自然と私の身体は震える。


……でも、見つからなければ大丈夫!


元より、三軍陰キャの私と一軍との交流などほぼほぼないのだ。私の数少ない友達は皆同じ三軍。全員が何かしらのオタクゆえ、いまだに幼児向けアニメが好きなことをバカにする者などいない。

そして、私達三軍女子はなるべく一般人の視界に入らないように、邪魔にならないようにと、日々、教室の隅で息を潜めるように大人しく過ごしてる。ビジュ強コミュ強メン強なカーストトップの方々と関わりなどあるわけがない。


たとえ、私が怖がっている華やかで目立つ一軍女子のグループの中に、かつての幼馴染がいるとしても、今は疎遠になってしまっているのだから関係ない……。


魔法少女マリィから卒業できていないことをこんな風に心の中で正当化しながら、私はコンビニのレジの列に並び、くじの紙をおデコに宛てがい、目を閉じ、「B賞のチュチュが当たりますように」と神頼みしていた。高校受験の結果待ちの時よりもずっと真剣で必死だった。


まさか、そんな私のいるコンビニへ大きなサバイバルナイフを持った男が入ってきて、レジの店員にナイフを突きつけ、他の客は店外へ逃げていたなんて、誰が想像できるというのか。いや、無理だろう。


このようにして、チュチュのぬいぐるみが当たるようにと強く願うあまりに周囲の騒動に気付いていなかった私は、コンビニ強盗から逃げ遅れてしまったのだ……。




「金を出せ!」


……カネ ヲ ダセ? へ? ん???


耳を擘く強盗の怒鳴り声でやっと非常事態を察した私は、おデコにあてていたキャラクターくじの紙をそうっと下ろし、恐る恐る閉じていた目を開いた……。


レジから数歩離れただけ、レジ待ちを誘導する床に貼られたシールの上に立っていた私のすぐ目の前には、黒いパーカーのフードを深く被ってサバイバルナイフを手に持つおじさんと、怯えながらレジの現金を渡しているおじさん。その名札には”店長”と書いてある。


さっきまで数人はいたはずの客は皆逃げた後で、コンビニ店内には幼児体型に長いスカートで適当に一つ結びにした黒髪に分厚いメガネというどこからどう見てもカースト下位の陰キャな女子高生の私と、体格が良く全身黒ずくめでコンビニ強盗中のおじさんと、とても小さくてかわいそうなコンビニ店長のおじさん、そんな3人しかいない。


「もっとあるだろ!」


「あ、あ、ありません!本っ当にないんですぅ」


店長が差し出したレジ内の現金は強盗が想定していたよりずっと少なかったのようだ。昨今増えていると聞くキャッシュレス決済のせいかもしれない。

まるで濡れた犬のように、ペショっと泣きそうになっている店長に思わず同情してしまう。


怒り狂う強盗はくるりと体の向きを変え店内を見渡し、一人だけ逃げ遅れていた私を見つけてしまった。


「おい!お前!有り金出せ!」


サバイバルナイフの切っ先は、今は、私の目と鼻の先にある。


……このギザギザの刃先が少しでも触れたら、絶対に痛い。どうしよう。怖い。


まるで水を浴びせられたように恐怖が襲ってくる。

先程までの、コンビニ店長を犬に例えて同情していたような、ほんの少しの心の余裕は吹き飛んでしまった。


テレビの中でいつも凶悪なモンスターと戦っている魔法少女マリィ。

私は小さい頃からそんな魔法少女マリィを見続け、その勇敢な姿に憧れていたのに、モンスターどころか人間のおじさんを怖がり、抵抗する勇気も気力も出てこない自分にがっかりしてしまう。


恐怖に震える手で財布を取り出そうとカバンを探っているのだが、出てくるのは食べかけで放置してたグミの袋、駅前で貰ったポケットティッシュ、クシャクシャになったビニール袋、使わなかった紙おしぼり、数枚残して乾ききった汗拭きシート、匂いが気に入らなくて減らないハンドクリームなど、余計なものばかり。

それらをポイポイと投げ捨てながらカバンの奥を探るが、財布は中々出てこない。


私のカバンの中はいつから入っているか分からないゴミのような物のせいでぐちゃぐちゃで、財布やカギといった重要な物はいつも迷子になってしまうのだ。


ダサいからと生徒皆から嫌われ、服装検査の時しか使われない学校指定のカバン。私はそんな指定カバンを普通に愛用している。

それはオシャレに興味が無いため必要な機能さえあれば何でも構わない上、他のカバンを用意するのがめんどくさいからという理由で、決して、校則を守ろうという崇高な意志から指定カバンを使っている訳ではない。


でも、学校指定のカバンを使うということは、傍目には真面目な生徒に見えてしまうし、カバンの中身は勉強道具が整然と入っているように思われるのだ。

特にも私は校則を守った長いスカート、染めてない真っ黒な髪を低い位置で一つに結び、分厚いメガネをかけている。この見た目と控えめな性格のせいで、真面目だと思われてしまう。


だが、言わせてほしい。校則を守った地味な格好をしていたとしても真面目とは限らないのだ。

”人見知りが激しく内向的な性格”と、”ズボラで怠慢”は両立できる。私が証人になる。


強盗のおじさんには期待を裏切り申し訳ないとしか言えない。


「おい!早くしろ!」


私がなかなか財布を取り出せないことに痺れを切らした強盗の咆哮に体がビクリと震え、益々焦ってしまう。強盗がイライラし始めているのが分かる……。


「もういい!カバンごとよこせ!」


我慢の限界に達した強盗は、手にサバイバルナイフを持ったまま、カバンを奪おうと私に襲いかかってきた。


……刺さる!


そのナイフの切っ先が当たる直前、思わず、私は首をすくめて目を閉じた。


が、どれだけ待ってもナイフが刺さる感触どころか、カバンが奪われることもない……。私は恐る恐る目を開くと多種多様なピンク色が目に飛び込んできた。

思わず『ピンクって200色あんねん、てやつ?』と、軽く現実逃避してしまう。


私と強盗の間にはピンク色の服を着た女の子が立っていた。


フリフリのミニスカートはふんわりとボリュームのあるパニエで膨らみ、ブーツの足首・ウエストマーク・首元・髪留めにと要所要所にピンク色のリボンであしらわれている。私の目前にある華奢な背中からは白く光る翼が生えていて、高い位置で二つに結われているツインテールは輝くピンク色、二の腕までの長い手袋を付けたすらっと長い手にはハートの形のピンククリスタルがついた長いステッキを持っている。


その後ろ姿は、どう見ても、私の大好きな”うろんな魔法少女マリィ”そのものだった。


突然現れ魔法少女マリィのコスプレをした少女は、手に持っているステッキで強盗のサバイバルナイフを受け止めていた。


「セリィ、物理じゃなくて魔法を使ってそいつを倒すんだっキュ!」


幼い少年のような叫び声がした方を見ると、灰色のチンチラが背中から生えた翼を羽ばたき浮いている。


……この前のチンチラちゃん!?


ちょうど1週間前、私は寝坊して走っていた通学路に落ちていた灰色の毛玉を蹴ってしまった。遅刻を覚悟し、その毛玉を抱き上げると、それは灰色のチンチラで、その首には黒い首輪が食い込んでいた。緩めてあげようにも金具はビクともしない。


チンチラは自分が蹴り上げてしまったこと以前に、その首輪のせいで首が締まり弱っているように見える。

首輪のサイズを調整してあげないような心無い飼い主から命からがら逃げ出したのだろうと思い、通学カバンからハサミを探し出し、その首輪を切って上げたのだ。


黒い首輪が外れたと同時、チンチラの小さな背中から毛色と同じ灰色の羽が生えた。

突然の出来事に驚いているうちに、チンチラは羽を羽ばたかせ、あっという間に私の手から飛んで行ってしまったのだ。


普通、チンチラに羽はない。空を飛ぶなどありえない。

私は寝ぼけていて白昼夢でも見たのだ。1週間前の摩訶不思議な出来事は夢だったのだと、無理やり自分を納得させていた。


でも、今、ここコンビニにいる灰色のチンチラは確かに背中から生えた羽を羽ばたかせ空中に浮いている。あれは夢ではなかったのだ。

しかも、語尾に”キュ”と付けた流暢な日本語を話している。夢だと思っていた1週間前よりひどい。


先週は気づかなかったが、ふわふわな毛に大きな耳、尻尾につぶらな赤い瞳で、背中に羽を生やしたその姿は、魔法少女マリィ内のマスコットキャラ”チュチュ”にそっくりだ。

空を飛ぶのも、語尾に”キュ”と付くのもチュチュと全く同じ。違うのは、毛色が真っ白なチュチュに対して灰色なことだけ……。


私が空を飛ぶチンチラについて思考の渦へと溺れていた刹那、魔法少女マリィのコスプレをした少女はハート型のクリスタルが付いた杖で受け止めた強盗のナイフを力任せに押し返し、強盗のお腹を蹴り上げていた。


「私は魔法少女セリィ。……愛と魔法で世界を救ってみせる!」


魔法少女は”マリィ”ではなく、”セリィ”と名乗った。そして、マリィの決め台詞『愛と魔法で世界を救ってみせる!』と叫んだが、その声はどこか聞き覚えのある気がして私の心は騒つく。

私はようやく緊張を解き、レジから離れたところへ逃げてその魔法少女セリィを正面から見た。


……セリちゃん!?


彼女は、三軍隠キャの私と疎遠になってしまったかつての幼馴染、華やかで目立つ一軍女子の甲斐芹カイセリに間違いない。

サラサラなワンレンボブにすらっとした高身長、無口無表情な顔整いで、ミステリアスクールビューティーとして男女問わず皆の憧れなセリちゃん。


そんなセリちゃんは家が近所で、同い年で、母親同士も仲良しだった。生まれた時から一緒に育ち、お互いが1番の仲良しだった私とセリちゃん。

それが今ではまるで袂を分かつことになったような現状だが、2人の間に何か決定的なことがあったわけではない。

小学校高学年の頃、セリちゃんと私は所属するグループが違ってしまった。ただそれだけ。持ち前のポテンシャルにより私は三軍、セリちゃんは一軍となり、三軍の私はセリちゃんの周囲の人たちに気後れしてしまい、自然と置いているうち、全く話さないどころか目すら合わない今の関係になってしまった。


そのセリちゃんが、マリィのコスプレをしてコンビニ強盗と戦っている。


しっとりと艶のある美しい黒い髪は天使の輪をそのままに鮮やかなピンク色へ変わり、緑がかった薄茶色のヘーゼルアイは燃えるような赤い瞳に変わってしまっている。それでも、私には彼女がセリちゃんだと分かる。間違いようがない。


思わず仲が良かった頃のように名前を呼びそうになるが、あのクールなセリちゃんが魔法少女マリィのコスプレをして、しかも魔法少女セリィと名乗っていた。それなのにかつての幼馴染にすぐに正体を見破られてしまったら嫌な気持ちになるだろう。


セリちゃんは足を開き、膝を軽く曲げ、腰を落とし、重心低く右足を踏み出す体制で強盗を睨んでいる。


セリちゃんの両親はセリちゃんが美しすぎることを憂い、幼い頃から護身術のために柔道を習わせていたが、その柔道の構えに間違いない。私たちが小一の時に遭遇した変質者に対して構えていた姿にそっくりで頼もしい。

ピンク色で可愛い魔法少女マリィの服ですると違和感がすごいというだけで、とても勇ましくてかっこいいと思う。


……でも、右手に持っている魔法のステッキがとても邪魔そう。


「だぁかぁらぁ、魔法を使ってそいつを倒せば早いって言ってるキュ!」


チュチュにそっくりな灰色のチンチラの叫びも無視し、柔道の構えのまま強盗と睨み合っているセリちゃん。

セリちゃんは決して悪意があってシカトしたのではない。用がないと喋らない無口な質だからしょうがない。


セリちゃんと同じ高校へ入学してから3ヶ月が経った。

有り余る美貌とこの口数少ない凛とした雰囲気のおかげで、セリちゃんは今や学校いちのクールビューティーとして崇められている。男子だけでなく女子からも羨望の眼差しで見つめられているのだ。

あの華やかな一軍女子グループの面々にメンカラを設定するとしたら、セリちゃんは落ち着いた濃い青になるだろう。もしくは紫や黒かもしれない。間違ってもピンクや赤ではない。

普段、セリちゃんのことをクールビューティーと崇めている人たちが、全身ピンク色の魔法少女マリィの格好をしている今のセリちゃんの姿を見たら、解釈違いで倒れてしまう可能性が否めない。


皆はクールビューティーと言っているけれど、実はセリちゃんの無口はただの省エネで、そして、存外に頑固なことを私は知っている。

普段の凜としたセリちゃんもかっこよくて可愛いけれど、マリィの格好をした今のセリちゃんも、とても素敵でかっこいいと、私は思う。


……………ピーポーピーポー……………


遠くから響いてきたパトカーのサイレンの音に強盗が気を取られた隙をセリちゃんは見逃さなかった。


「セリィ・キック!」


まるでマリィが必殺技を繰り出す時のように、高らかに声を上げながら蹴りを繰り出し強盗の足を払い、強盗を横へなぎ倒したセリちゃん。”キック”と言っていたが、その動きを言い表すなら”セリィ・足払い”の方が的確な気もするが、キックの方が語感が良いのでOKだろう。

セリちゃんは倒れ込んだ強盗の頭へステッキを振りかざして物理攻撃で追撃し、強盗が失神したのを確認した。


そして、そこで、私の視界が切り替わった。


先ほどまでコンビニ店内で強盗とセリちゃんの攻防を見ていたはずなのに、今目の前にあるのは滑り台。

周囲を見渡せばここはコンビニのすぐ近くにある公園で、私はなぜかセリちゃんに横抱きに抱えられている!


「えっ?えぇ!?えぇぇ!?」


驚く私をそっと公園の地面に下ろしたセリちゃんは、まるで警備員がボディチェックをするように私の体を確認し、呆然としている私のズレた眼鏡をまっすぐにかけ直し、学校指定のカバンをそっと持たせた後に消えてしまった。セリちゃんの足元から大量のハートのエフェクトのような光が発光したかと思った途端、文字通り消えていなくなってしまったのだ。


「……セリちゃん?」


いつぶりだろうか。もしかしたら4、5年ぶりくらいにセリちゃんの名を呼んでみたのだが、消えてしまったセリちゃんからの返事はもちろんなかった。


信じられないことの連続で頭が働かない私は、道路を挟んだ向こう側にある、ちょっと前までいたはずのコンビニの方へ顔を向けたのだが、ちょうどパトカーが到着して警官が店内へ入っている。

そのままボーッと眺めていると、ガラス越しに見える店内では警官が床に転がっていた強盗の手に手錠をかけ、コンビニ店長が身振り手振り一生懸命小さな体を動かして警官と話している。状況を説明できる者としてコンビニへ戻るべきだろうか、そう思い歩き出そうとした私の背中へ声がかかった。


「おい、タジマハル、キュ。お前のせいでめちゃくちゃだキュ。責任とれキュ」


声がした方を振り返ると、灰色のチンチラが赤い瞳でこちらを睨んでいた。先ほどセリィちゃんと一緒にいたチンチラで、1週間前に蹴飛ばし首輪を切ってあげたチンチラだ。


語尾に”キュ”が付くのはマリィのマスコットチュチュと同じだが、こちらの付け方は幾分か態とらしい。私が原因で怒っているようだがその理由はわからない。

そもそも、セリちゃんがマリィのコスプレをしていたり、突然現れて突然消えたり、コンビニの外へ高速移動したり、チンチラが空を飛んで日本語を話していたりと、不思議がいっぱいで何から聞いていいかわからない。


あと、チンチラとはいえ、言語でコミュニケーションが取れる時点で人見知りを発動してしまっている自分が情けない。頭に浮かんだたくさんの疑問を問いただしたいのだが、それが難しいのだ。

チンチラにまで発揮されてしまった私のコミュ障具合を舐めないでいただきたい。


「封印を解いてくれたのは感謝してるキュ。でも、そのせいで付いたお前の願いを叶えるノルマに困ってるんだキュ。お前の願いは『セリちゃんの夢が叶いますように』で、その”セリの夢”は『魔法少女になる』だったキュ。おかげで俺はその魔法少女の相棒に配役されてしまったキュ。使える能力はクソザコ、強制的に語尾に”キュ”が付くふざけた仕様キュ。最悪だキュ。セリに魔法少女に変身しろって言っても言うこと聞きやしねーキュ。あいつ顔は良いくせに愛想はなくて俺を無視するしクソ頑固だし、やっと変身したと思ったのに強盗を倒しても”夢が叶った”扱いにはならないし、最悪だキュ」


ブツブツと愚痴っている内容で大まかなことは分かった気がする。

要するに、あの首輪は封印になっていて、その首輪を切った私の願いを叶えないといけなくなってしまったようだ。私の願いは『セリちゃんの夢が叶いますように』で、ドミノ倒しのように叶ったセリちゃんの夢は『魔法少女になる』だった。魔法少女に変身して強盗を倒してもセリちゃんの夢が叶った扱いにならなくて困っているということだろう。

あまり親切ではない説明だったが、この歳になるまで吸収した様々なフィクションの知識たちが補完してくれたことに感謝してほしい。


とってもファンタジーすぎて信じられないのだが、実際に目の前のチンチラは空を飛び言葉を話しているし、魔法少女に変身したセリちゃんと一緒にコンビニから公園まで瞬間移動してしまったので信じるしかない。


私が解いてしまったという封印は誰が何のためにしたものなのだとか、ノルマをこなしたらどうなるとか、そもそも魔法についてとか、分からないことはまだ沢山ある。


……でも、とりあえず。


「あの、あなたのお名前は?」


「シュシュ様、とでも呼べキュ」


魔法少女マリィのマスコット・チュチュの名前に似ているが、本名だとしたら偶然が過ぎる。ファンタジーものの漫画やアニメではよく『真名』という概念がある。空飛ぶチンチラという摩訶不思議な”シュシュ”も、きっと偽名で真名を隠しているのだろう。


不良っぽい話し方が怖いが、”キュ”と着くことで緩和されている気がする。なによりも、見た目がチュチュにそっくりで可愛い。


オドオドしてしまうのは抑えられないが、私からシュシュちゃんへ話しかけてみた。


「なんか私のせいでご迷惑?をお掛けして、ごめんなさい。……今から私の願いを『キャラクターくじでチュチュのぬいぐるみを当てる』に変更するとかできないですか?」


「ここ日本だと、願いの設定条件は七夕になるんだキュ。お前が書いた最後の短冊が『セリちゃんの夢が叶いますように』で、その当時のセリの夢が『魔法少女になる』だったキュ。残念ながらもう変えられないキュ」


最後に書いた短冊は、たぶん、小学校4年生で参加した近所の商店街の七夕飾りだ。学校の仲良しグループがセリちゃんと違い始めた頃、クラスのカーストトップのボス女子に気に入られて行動を共にするようになったセリちゃんへ勝手に苦手意識を持ってしまい、私からセリちゃんと離れて行った時期。


それでもセリちゃんのことは大好きなままだったし、お母さんからセリちゃんが柔道の全国大会へ出ることを聞き、『セリちゃんの夢が叶いますように』と短冊に書いたのだ。その”夢”とは『柔道大会で優勝する』だと思っていたのだが、セリちゃんの夢は『魔法少女になる』だったようだ。


”うろんな魔法少女マリィ”が放送されていた幼稚園の頃、私ばかりがマリィに夢中になっていたと思っていたが、セリちゃんも少なくとも小4の歳まで魔法少女マリィが好きだったことが分かりとても嬉しい。


「魔法少女に変身するだけではノルマ達成にならなかったキュ。ってことは、”夢を叶えた”ってなるには、魔法少女の模倣先になった”魔法少女マリィ”とやらの目的と同じ可能性が高いキュ」


「マリィの目的は悪から世界を救うこと、ですかね……。決め台詞は『愛と魔法で世界を救ってみせる!』だし」


私の答えを聞いたシュシュちゃんはつぶらな目を丸く見開き口をポカンと開けて呆然としている。チンチラがする鳩が豆鉄砲食らったような顔は何とも言えず可愛らしい。


「”世界を救う”とか、いつまでかかるんだキュ。最悪だキュ……」


シュシュちゃんは小声でボソッと呟いたあと、さよならの挨拶もなく飛んで行ってしまった。私から聞きたいことは聞き出したのだろう。

あまり仲良くしてくれなさそうな感じが、まるで大好きなチュチュからそっけなくされたようで悲しくなってしまった。


その後、私は騒ぎのあったコンビニへ戻る勇気はなく、他のコンビニへ”うろんな魔法少女マリィ”のキャラクターくじを引きに行く元気もなく、真っ直ぐ家へと帰った。

帰宅途中、セリちゃんの家の前を通った際、幼い頃はよく遊びに行っていたセリちゃんの部屋の窓を見上げたが、まだ電灯は付いていなかった……。









前・中・後の全3話予定です。

二万字超えそうなので短編でのアップロードは諦めました。

異世界恋愛じゃないジャンルは初めて書くのでジャンルエラーじゃないか不安です……。

あとブロマンスの女版ってなんか名前あるんですかね。タグつけ難しい。

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― 新着の感想 ―
ブロマンスの女版…たしかに難しい! ブロマンス>ブラザーフット ですもんね… 百合もちょっと違うような…
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