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薮鴉の森  作者: sakura
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小豆 洗い

 「ねえ、サトル君、サトル君はサトル君だよね?」

 「…カナちゃんは、カナちゃんだよね?」

 何だろ、この会話は?

 実に要領を得ないけど、取り敢えず、カナちゃんから謎な質問されたので、鸚鵡返ししてみた。


 「アキラちゃんやカケルちゃんがね、本当はサトルちゃんじゃないかって言うの。」


 芸能界に彗星の如く現れた期待のアイドルユニット「unbalance」は、順調な滑り出しを見せ、新人アイドルの中では、TOPではないものの次席、三席程度の位置をキープしている。…吃驚だよ。

 しばらくの間、バラバラで活動して来た僕たち「unbalance」のメンバーも、初顔合わせ済みである。

 ところが同じメンバーなのに、一緒に活動するのが少ないのだ。これが通常なのかなと思ったりもしたが、マネージャーに聞いたら、やはり違うらしい。社長の発案で個別でも仕事の取れるよう育ててみようという試みらしい…気まぐれですか?そんな社長の方針で同じメンバーなのに、僕らは、あまり会うことがない。それでも公用携帯端末を持たせてもらい、仲間感で情報を共有している。仲は悪く無い…この適度な距離感が僕にも合っているかも。


 サトルとは、僕のことです。そしてカナちゃんは、僕が所属する「unbalance」のメンバーで職場の同僚でありまする。カナちゃんとは割と一緒に働くことが多くて、その分だけ気安い間柄となっている気がする…少なくとも仲は悪く無い。

 ここで、先程の質問の意味を振り返る。

 …君とちゃんの違い?

 …

 思考錯誤しつつ最終的に可能性のある解答を導きだしたが、…信じられない。

 多分、間違いだろうが、一応聞いてみることにした。

 

 因みに、この会話中にも撮影は続いている。

 今日、僕らは映画の撮影に来ている。

 この映画脚本の「アールグレイの日常」の日常シーンは、活劇が少なく、登場人物も極端に少ない。

 僕らは、勉強のためエキストラでの参加で、今、出待ちであるから暇なのだ。

 もちろん、会話しながらも、主人公の役者さんの演技は、見続けている。

 眼前では、綺麗で可愛いのに凛々しい役者さんが、普通感を醸し出しながら、日常シーンを演技している。

 おお…なんかもう凄い。僕の家にも古いテレビが稼働していて、番組を映してくれている。

 テレビの中の光景を直接見れるなんて、ちょっと感動です。芸能界に入って良かった…。最もエキストラなら参加できるけども、僕も一応は芸能人の枠内に入っているから最前列で演技を見せてくれた…特等席です。


 「ねぇ、カナちゃん、見当違いかもしれないけど…間違っているとは思うけど、一応聞いてみるね。」

 前置きが長いけど、今日の仕事は、出待ちの時間とほぼ等しい。僕らの役所は、街中の通りすがりの子供AとBですから。時間は幾らでもあるのだ。

 「もしかして、もしかしたら、僕ってアキラちゃんやカケルちゃんから女の子だって思われている?」

 …あり得ない。

 男の子と女の子では、骨格からして違うのに、間違うことなど、あり得ない。

 そして、僕らは思春期の入り始め…もはや匂いやら質感から身体の作りが分子レベルで違っているから、僕には、異星人レベルで違いを感じている今日この頃です。

 もし、カナちゃんが実は男の子で、拠所無い事情で女装していたと聞いたとしても、僕は確信を持って、カナちゃんは女の子だと断言できる。

 初めて会ったとき、挨拶で握手したので、分かっている。

 今も、隣りに居て超密着してるから、良い香りと、時折り触れる柔らかさが、女の子であるとわかる。

 でもそれって、カナちゃんも同じく感じてるから、僕が男の子だとは当然認識してるはず。


 「…うーん、そうね。まあ人それぞれだから、私は気にしてないわ。人には隠しておきたい、やんごとなき事情がある場合もあるし、別に男でも女でも良いじゃない!…私は理解ある女よ。サトルちゃんが自分のこと男の子だと自称してるなら、私はサトルちゃんを信じるわ。だって…友達だもの。」

 え??!

 「… … …。」

 思わず…絶句してしまいました。

 隣りのカナちゃん見ると、私は理解あるデキル女を醸し出した自信ある顔付きをしていました。

 謂わゆるドヤ顔です。


 ハッとして直ぐに、正面に顔の向きを戻したけれど、僕の頭の中は混乱の極みと化している。

 友達だって言われたのは嬉しい….カナちゃんは、見た目可愛いのに、時折りこのように、僕からしたら勇気ある断言して、ポカポカして暖かくなる様な、恥ずかしくなる様な言葉を贈ってくれる。

 しかし、…ちゃん付けって、どういうことだい?

 信じられるのは、嬉しいけど、何故にそんな言い回し?

 そう言えば、僕ら今回社長の紹介からか「unbalance」様として特別に控え室をもらえて着替えたけども、カナちゃんは、僕の前でも平然と着替えていて、僕の方が恥ずかしくなってコソコソ着替えてました。

 今までも、そうでした。

 てっきり忙しい芸能界では、気にしない風習だと思っていたけけど、もしかして…カナちゃん、僕のこと女の子だと勘違いしてない?いや…まさか。


 「だいたい、ユニット名のunbalanceからチーム内の男女比率をアンバランスにしようなんて、安直すぎるのよね。どうせ社長の発案でしょうけど…男女混合ユニットで男の子一人だけなんてハーレムじゃないの。…あり得ない。アイドルで、そんなのあり得ないわ。だいたい周りの女子と遜色ない同年代の男の子なんて、この世の中にいるわけないじゃないの!…でも、そんなタカラヅカ的な幻想感がうちのチームの人気の理由かもね。…ボンクラだと思ってたけど、なかなかやるわね、うちの社長。…でもサトルちゃんも苦労するわよね。なんなら私の前だけなら演技を解いてもいいわよ。だいたい男の子役ならカケルちゃんやアキラちゃんの方が、合ってるのに。でも…こんな可愛い子に男の子役をさせるだなんて、これはこれで萌えるじゃない。」


 あああ…どうしよう?


 いや…これは、なるようになるしかない。

 カナちゃんとは、結構頻繁に会うし、そのうち自然と分かるに違いない。


 僕は、この問題を保留とした。



 僕らの面前では、いつの間にか活劇パートに移り、金髪の男優さんが、主人公の女優さんに、ぶん殴られて、ワイヤーに釣られて、天井付近まで急速に釣り上げられていた。

 見た目、かなりのGが掛かっていて、痛々しい。


 …役者さんって、大変だなぁ。


 今回の仕事…社長の思惑では、僕らのプロ意識の醸成を図っているのかもしれないけど、今の僕では気分はギャラリーです。

 でも…僕も将来、アイドルから男として役者に転身するならば、あんな風に殴られなければならないのだろうか?


 それは、全く御免こうむりたいものだ。

 

 

 

 


 

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