4.異世界
歩き始めてどれほど経っただろうか。
もう数時間は経った気がする。
「そういえば、サトルは転生者だよね」
……え? なんでバレてるの?
ボロが出てたかな……いや、出てないな。
リリースに住まいを頼むときも
「俺、旅に出てるから」
と、最強なやつが発しているように言ったよな。
バレる要因なんか一つもなかったぞ。
「俺は旅に出てるんだよ。転生者なんかじゃないぞ」
「前世の言語を話しているのに転生者じゃないの?」
よく考えれば、異世界にも言語がある。
もちろん、前世の言語は伝わるはずがない。
最初の最初からボロが出ていたのか。
……なんでリリースは前世の言語であることを知っているんだ?
もしや、リリースも転生者と……それしかないな。
「リリースは転生者?」
「もちろん」
異世界で最初に出会った相手が、俺と同じ転生者だった。
ビックリ仰天な展開だな。
「リリースは異世界に来て何年なの?」
「15年だよ」
「年齢と転生した年が一緒なんだ」
「私の転生は赤ちゃん状態からの始まりだったから」
オギャオギャ、バブバブ、ピエンピエーンスタートか。
「前世は何歳だったの?」
「今世と同じだよ」
前世は15歳だったということか。
……つまり、前世と今世の年齢を足すと30歳。三十路ということか。
「つまり、三十路なんだ
「私は決して三十路じゃないよ」
リリースは睨むような目で俺を見た。
すいません。少々ボケただけです。
でも、三十路だってまだまだ若造だぞ。
だから睨む必要はないような……
俺と比較したら若くないが……
「異世界ってどんな世界なの?」
「異世界は普通に異世界だね」
のどかな畑が広がっている。
そんな畑の近くで何軒か家が建っている。
畑の横には透き通る水が流れる池がある。
まるで中世ヨーロッパのような光景。というのが、俺の想像上の異世界。
異世界と言われて、草原しかないような世界は想像できないぞ。
「リリースにとって異世界ってどんな景色?」
「中世ヨーロッパのような景色」
「この景色を見て、中世ヨーロッパ見える?」
「中世ヨーロッパにもこんな景色はあったんじゃないかな」
中世ヨーロッパの括りが広すぎるよ。
この景色なら、恐竜がいた時代でも見れるよ。
「中世ヨーロッパって何だろう……」
「私の住んでいる建物も、中世ヨーロッパ風だよ」
中世ヨーロッパ風か……
きっと、遥か古代の住宅なんだろうな。
――――
「そういえば、異世界の言語って理解できるの?」
「勉強したら理解できるよ」
異世界語も外国語と同様の形なんだな。
まぁ、異世界語はアラビア語レベルのハードな言語だろうが……
「どれくらいで理解できるの?」
「私が教えれば、一ヶ月で完璧になれるね」
い、一ヶ月?
「一ヶ月はさすがに無理でしょ」
「この世に無理なものはない」
俺ご落とし穴に落ちた際、
「無理なものは無理」
と言っている人がいたが、誰だったかな?
「本当?」
「本当」
リリースは真剣な眼差しで俺を見つめた。
本当なのか……
「なら、異世界語教えてほしいな」
「え! 本当!」
リリースは目を輝かせ、俺に飛びつき首を引っ掻いた。
出血はしてないが痛い。
「痛いよ」
「本当! 本当だよね?」
「ほ、本当だよ」
勢いがすごい。
まるで、目の前にどデカいパフェが正体を表した際の女子のようだ。
若干、騒々しいと思う。
「一旦落ち着こう」
「落ち着いてるよ!」
リリースは何度も何度も飛び跳ねる。
この状況で落ち着いてると?
俺には落ち着いているとは思えない。
「落ち着いてないでしょ」
「興奮はしているけど、落ち着いてはいる」
興奮をしていたら落ち着いてないんだよ。
「深呼吸して」
「分かった」
リリースは深呼吸した。
「嬉しい!」
リリースは飛び跳ねるのをやめた。
少々、効果はあったようだ。
「そんな喜ぶことかな……」
「だって、異世界初の友達と勉強会ができるんだよ?」
「異世界初ってどういうこと?」
「そのままの意味だよ」
そのままの意味ということは、15年間、友達がいなかったということか。
俺でもさすがに一人はできたよ。
幼馴染のことだが。
「友達作りって大変だね」
俺は他人事のように言った。
だが、仕方ない。
他人事のように言わないと、俺も友達ゼロと思われるから。
幼馴染はいたから。
幼馴染は友達30人分。
「大変どころじゃないよ。人と一切会わないからさ」
そうか。って人と一切会わない?
あ、隣家まで20時間かかるんだったな。