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魔王さま!勇者一行、城内に侵入しました。

作者: 森乃来真

「魔王さま!勇者一行、城内に侵入しました」


 魔王の間に大慌てで走り込んで大声で報告するのは、魔王城で伝令係をしているサイクロプスのヒトメだ。


 王座に座って報告を受けた魔王サマンは愕然とした表情を浮かべて一瞬時が止まったように固まった。そして時が戻ったと同時に声を張り上げた。


「もー、だから人間に手を出すなってあれほど言ったのに。おいっ、元凶のザバンを呼んでこい!!」


 魔王サマンの命令を受けたヒトメは淀んだ口調でボソボソと答える。


「誠に申し上げにくいのですが、四天王ザバン様は城門前にて勇者一行に倒されました」


「おいー。あいつには責任とってもらわなきゃ困るよー。えっ?なんで?あいつ前に意気揚々と『勇者?ハッハッハ、勇者なんてものはアリに羽が生えた羽アリのようなもの。羽があろうがアリに過ぎぬ。軽く滅してくれる』なんて言ってなかった?なのになんでそんな早々に自分が滅せられてんだよ」


 玉座から立ち上がった魔王は頭を抱えて床に膝を突く。その様子を伺うヒトメはオドオドしなが何も出来ずにただただ立ち尽くす。


「あっ。そうだ、他の四天王向かせよう。ドボンにグランにバダンを至急勇者討伐に向かわせよう。だってあいつらもザバンの蛮行止めてなかったわけだし連帯責任でしょ?特にドボンなんて『このまま人類を追い詰めればお主が四天王筆頭になってしまうな』なんてザバンのこと調子付かせてたし。まずはドボンを向かわせろ」


「あの。…………————した」


 顔を逸らして呟くヒトメ。耳に届かぬ声に魔王は「あっ?何て言ってんだ?ハッキリと喋れ」と耳を傾け問いかける。


「あの。ドボン様は城門前でザバン様が討たれるのを目撃した後すぐに、そ、早退されました」


「……は?なんで?」


「で、ですからその。急に腹痛を起こされたとのことで今日は帰ると申されまして。帰られました」


「だーかーらー、何でこの状況で帰らせたのかを聞いてんだよこっちはー!!」


「何でも何も私が四天王の方々にどうこう言えるわけがないじゃないですか。だって私はただの伝令係なんですよ⁈ それにこれまでも誰かが何か進言しても魔王さま含め四天王の方々は『力無き者に語る資格なし』って一蹴なさってきたじゃないですか!」


「あーもーわかったよ。そうだよ認めるよ。だってそう言わないと魔族の秩序なんて守れるはずないじゃん。だって強さで魔王を決めるんだぞ?魔族は。なのにさぁ『みんな意見を出し合おう。我はみんなの話を聞く。そんな魔王になるから』なんて言ってみろお前らきっと『あっ。こいつダメだ』ってなるの目に見えてるだろ。そしたらお前ら寄ってたかって反旗を翻すじゃん。えっ?我にそうして死んで欲しかったってこと?えっ?そういうこと?」


 真顔で問い詰める様にヒトメに言い寄る魔王。ヒトメたじろいで顔を伏せる。


「もう誰でもいいよ。いっそのことグランとバダン2人とも送り込んでしまえ。流石に2人揃ってならそう易々とやられはしないだろ?何せ我が魔王になる以前はあの者たちも魔王候補に数えられていたぐらいだしな。そうだそうしよう、2人一緒に向かわせろ」


「あっ」


「あっ。って……なに?」


 ヒトメが恐る恐る答える。


「今ちょうどテレパシーで報告が上がりまして……」


「えっ?なに?早く言って」


「たった今、中央回廊広間にてグラン様、バダン様……お二人揃って討ち倒されたと」


「えっと……、2人とも?」


「はい。お2人ともです。それから補足ですが瞬殺だったそうです」


「あっ、そうなんだ。あの2人を揃って。それも瞬殺で。……えっと、しかも中央回廊広間ってことはこの部屋のすぐ外だよね?」


「はい。すぐそこです」


「おいーーーー!!!」


 魔王は床を何度も殴りつけ最後には床に大の字で寝転んだ。


「もういい、もういいよ!我、魔王やめる!てか辞めた!」


「魔王さま子供じゃないんですから覚悟決めてください」


「何でだよ⁈嫌だよ!だって悪いのザバンじゃん!!何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。嫌だ嫌だ嫌だ」


 子供の様に寝転んだまま手足をバダバタさせる魔王。ヒトメはため息を吐くとポツリと呟く。


「その姿、後世まで語り継がれちゃいますね」


 それを聞いた魔王の動きがピタリと止まった。


「……語られるの?」


「語られますね。勇者一行にはことの顛末を報告する義務があるでしょうから。このままだと癇癪起こした魔王としてある意味で伝説になっちゃいますね」


「えっ?それは流石に嫌だな……。でもあいつら我の事倒したら次は魔族滅ぼすだろうし別に問題ないか」


「いえ。残念ながらこれまで幾度も歴代の勇者と魔王は勝った負けたを繰り返してきましたが、どちらの種族も健在な事を考えると滅ぶことはないかと」


「もーっ。それって華々しく散るしか選択肢ないよね⁈癇癪の魔王として散って語り継がれるか、凛々しく散るかの2択?どっちにしろ我散っちゃってるよね?ある意味1択じゃね?語られ方が違うだけで散るのは確定要素じゃねぇか!理不尽すぎるだろ!!」


「何を言ってるんですか。貴方は我ら魔の者の王、魔王さまなのですよ?あなた様にかかればたかだか人間の勇者風情など一捻りです。さぁっそのお力を存分にお振いください」


「人ごとだと思って適当言いやがってこの野郎!お前勇者舐めてるだろ⁈奴らは神やら女神やらに加護やら能力やら異常な力貰ってるんだぞ?更にそんな奴が神々しく輝く聖剣なんてぶっ飛び道具携えてるんだ!お前にはそのヤバさがわからないのか?」


「私如きには認知できない領域の話。されど私はあなた様、魔王さまを信じております(笑)」


「お前今小馬鹿に——」


「奴らが来ました!私は陰から魔王さまの勇姿を拝見させていただきます。それでは!!」


 ヒトメはそれだけ言い残して足早に部屋の隅に置かれた魔王の銅像の陰に身を隠した。そして身を隠したのと同時に重さ数トンはあろう巨大扉が勢いよく開かれた。


「私は勇者ヒーロ!魔王サマン貴様を倒しに来た!いざ尋常に勝負!!!」


 立ち尽くす魔王は一瞬の間を空けたのち声高らかに笑う。


「グハハハハー!よくぞここまで辿り着いたものだな人間よ!ここまで来た褒美だ!!我が相手をしてやろう、さぁ来い勇者とやらよ!!!」


「望むところだ魔王サマン!この聖なる剣の刃を受けよー!!喰らえ!!!ゴッドライトニングッ!!!!!」


 神々しい光が玉座の間を包み込む。そしてその光はそれを迎え撃つ魔王サマンの頬を伝う何かをこれまた神々しく照らし光り輝かせた。

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