花咲く森のおしゃれせんそう
きょうもどうぶつの森はにぎやかです
いろんなどうぶつたちが、それぞれの生活を送っています
キラキラと薫るジンチョウゲの花が、そこかしこの低い木の上で手を振っています
それに手を振り返すように、高い木の上からは桜の花びらがふるふると降り注いでいます
どうぶつたちに春が来たことを喜ばせるように、やわらかな色の花が森に咲き乱れていました
「やあ、リスさんたち。今は木の実はないよ。代わりにかわいい花でその頭を飾ってあげよう」
どんぐりの木はそういうと、駆け登ってきた三匹の小リスたちに、緑色の花びらをふりかけました
リスたちはみんなきれいな薄緑色のかんむりをかぶって、嬉しそうに木を駆け降りていきます
「みて! みて! ぼくたちグリーンなリスになったよ」
下にいた白いイタチに自慢すると、
「ぼくもしてもらおうっと」
イタチはわくわくするような動きで、隣にあった桜の木を登っていきました
「かわいいピンク色にしてもらうんだ」
桜の木の上には、先にフクロウがきて、とまっていました
フクロウには羽根があるので、空から飛んできたのです
「あっ。ぼくが先だよ!」
イタチはびっくりして叫びました
「ぼくが先にのぼりはじめたんだから。ぼくが先! ズルしちゃ、だめ!」
「ふっほ。くやしいなら、羽根をはやしてみな」
フクロウはそういうと、たくましいその羽根をひろげました
フクロウの胸はあっというまに桜の花びらをまとい、おしゃれなピンク色になりました
ひろげたフクロウの羽根は、桜の葉っぱに彩られ、目にあざやかな緑色になりました
「うわあっ!」
イタチは先にフクロウにおしゃれをとられたことが悔しくて、木の上から落ちていきます
イタチは登るのはじょうずだけれど、降りることはドへたくそなのです
そこへ通りかかった二匹のねこが、優しくイタチを見上げました
二匹は腕を取り合うと、それをハンモックみたいにして、イタチをふわりと受けとめました
「あぶないよ、イタチさん」
「高いところには気をつけて」
「あ、ありがとう」
イタチは二匹にお礼をいうと、悔しそうに泣きながら、走っていきました
すたたたーっ
それを見送りながら、二匹のねこが感心します
「速いね」
「イタチさんは足が速いんだね」
それを聞いて、木の上からフクロウが笑います
「ふっほっほ。いくら足が速くても、空も飛べないやつはだめだ」
「あっ。フクロウさん」
二匹のねこが見上げました
「フクロウさんはいいな。空を飛べるなんて」
しかもとてもおしゃれでした
桜の花びらと葉っぱを身にまとったフクロウは、ずんぐりむっくりした体をしてるのに、軽やかな春のファッションにとてもかっこよく見えました
「おまえたち、ねこには何ができるんだ? ふほっほ」
フクロウにそう聞かれ、ねこたちは少し考えこんでから、答えました
「夜でもよく目が見えるよ」
「それはわたしもそうだ」
フクロウが勝ち誇ったようにいいます
「おまえたち以上によく見えるぞ」
「そのかわり、昼間は目が見えないんだよね?」
「見えないんじゃないよ。見えすぎて、まぶしいだけだよ。だからこうしてよく目を細めてるんだ」
「じゃ、ぼくたちがフクロウさんに勝てるところなんて、ないや」
「いや、それじゃ悔しいよ。せめて、おしゃれでフクロウさんに勝ってやろうよ」
二匹のねこはコソコソ話で相談すると、にこっと笑って桜の木を見上げました
「桜さん、桜さん」
「ぼくたちにも羽根を生やして」
「かわいい花びらの、羽根を生やしてよ」
「おしゃれな、おしゃれな、羽根をちょうだい」
「羽根の生えたねこか。素敵だね」
桜の木はふふっと笑うと、
「よし。わたしの花と枝で、かっこいい羽根を生やしてあげよう」
そういって、二匹のねこの背中に翼をプレゼントしました
「わあっ!」
「見て! 見て!」
二匹のねこは、背中に生えたおしゃれな翼を、フクロウに見せびらかします
「ふほほ!」
フクロウは笑いました
「なんだよそれ。おしゃれだけど、その羽根で空を飛べるのかい? 飛んでみな?」
「よしっ」
二匹のねこは、翼を動かしました
「うーん……。でも、飛べないや」
「ふほほほほ!」
フクロウが大声で笑います
「なんだよ、それ。見た目だけの羽根なんて、おしゃれだけど、ただのファッションじゃないか!」
「そうだね」
「ぼくら、見た目ばっかりだ」
ねこたちはそういいましたが、気分は上がっていました
見た目がかっこよくなると、中身までよくなった気になるものです
「綺麗だよ、ねこさんたち」
桜の木も二匹のねこを褒めました
「ファンタジー小説の主人公みたいだ」
「ほほほ! でも、飛べないやつはだめ!」
フクロウは木の上で、大はしゃぎです
「悔しければここまで来てみろよ!」
「飛べるなんてフクロウさん、すごいや」
「ぼくたちの負けだね」
素直にそういうと、二匹のねこは桜の木にキスをして、通りすぎていきました
背中の綺麗な羽根をパタパタと動かして、妖精みたいな足どりで、しっぽも黄色い花に飾られて、ファッションモデルみたいに消えていきました
「ふー……ほっ」
頭を真後ろまで回転させてねこたちを見送ると、木の上でフクロウが安心した声を出します
「よかった。ねこに空を飛ばれたら、わたしにはとてもかなわないところだ」
フクロウは、知っていたのです
ねこはとっても強くて、戦ったら絶対にフクロウには勝てない相手だということを
「みんなちがって、みんないいんだよ」
そんなフクロウに、桜の木がにっこり話しかけました
「だから、あかるく、みんな、おしゃれでせんそうしなさいな」
※幻邏さまより新たにこの話のためのイラストをプレゼントしていただきました。感激!