1 初スキル・遭遇
さて、探索するにあたって、まず手を付けるのは遺跡だろう。遺跡の周囲は大きな木がほとんど植生しておらず、代わりに雑草が生えている。しかしその更に外周は、高さ5、6mの青々とした木で埋め尽くされている。少し観察してみると、ちらほらと動く物体がある。つまり少なからず動物が居るのだ。私の所持品は制服のみで、とてもじゃないが森を歩ける装備ではない。
という事で、散らばる白い石材達の周りを歩いてみる。元は巨大な建造物だったのだろうか、幅3mもある長い柱が大量に積み重なっている。時にはヒビが入り、時には苔やツタで覆われていて、長い間放置されていたのが窺えた。最初に寝ていた場所は瓦礫の中心に位置している。
それから柱の隙間まで隈なく見てみたけれど、食料はおろか本棚らしき跡にも本一冊見つからなかった。まあ長年雨風に晒されてるから当たり前だけどさ。
残る選択肢は森の探索。と言っても丸腰の人間が動物に勝てる訳がないし、ましてやここは異世界。魔法を使う動物だっているかもしれないのだ。
「攻撃系の魔法とか、武器とか少しはくれても良かったのに」
ペッタン
賢者に愚痴をこぼしたその時、粘度のある何かが地面を跳ねる音がした。
ベッタン ベチン
立て続けに鳴り、段々と大きくなる。こっちに向かってきているようだ。
急いで音の方角へ体を回し、臨戦態勢をとる。視線の先にいたのは、
「・・・スライム?」
地面を跳ねながら少しづつ近づいてくる、青い楕円のスライムだった。
初めての異世界らしい体験に好奇心が込み上げてくる。
顔や足といった器官が存在しない代わりに、体を伸縮させて動いているようだ。その進行速度は非常に遅く、徒歩より若干早い程度。走れば余裕で逃げられる。
しかし健気にベッタンベッタン跳ねる姿は愛らしく、ペットにでもしようかという考えが浮かんだ。だがその気は次の瞬間に吹き飛ぶ事となる。
ベッチーン!
「痛ったぁーーー!!」
2mの距離を跳躍して、腹にタックルをかましてきたのだ。
忘れていたが、ここは異世界。相手にしているのは魔獣だ。お腹のリアルな鈍痛が油断していた私の気を引き締める。
体制を立て直して、再び目の前にスライムを捉える。幸い攻撃頻度は低く、次の攻撃に備える準備が出来た。
とりあえず覚えたてのスキル「観察」を発動する。
種族:スライム
体力:72
種族と体力しか表示されない。「観察」の効果は「簡易的な情報を獲得」だ。確かに簡易的な情報しか表示されていない。ゴミスキルめ!
と言いつつ体力だけでも分かったのはありがたい。私より大分多いけど。
ひとまず落ちていた木の棒を拾って武器にする。丁度スライムは次の攻撃態勢を整え、勢いよくジャンプしてきた所だった。なんとか体をひねって攻撃を避け、着地した瞬間のスライムを木の棒で振袈裟斬りにした。
種族:スライム
体力:62/72
10減っている。これで攻撃は効くことが証明された。
そうだ。私の体力を見ていなかった。万が一スライムの攻撃力が高ければやる前にやられてしまう。急いで確認しよう。
名前:篠野 尊
種族:人間
筋力:11
体力:43/50
魔力:100
敏捷:15
7減っていた。私がスライムを倒すまでには最低7回攻撃を当てる必要がある。対してスライムが私を倒すまでには6回。
いやスライムの方が強くない!?単純に打ち合ったら負けるんだけど!?
私の初期ステータスはスライムにも届かない雑魚さだったらしい。
「えーあ、あの・・スライムさん。えっと、仲良くしていただけたり・・しま、せんか・・ね?」
不利だと気付くや否や、生粋の陰キャ口調で胡麻をする。スライムは私と目を合わせて攻撃を止めていた。
もしや話通じたり?いけるんじゃ――
ピョーン!!
特に考える素振りもなく普通に攻撃してきた。
「だよねーー!」
どうする?正直私の運動神経では勝敗は五分五分だ。正面から戦うのは避けたい。
・・そうだ。正面から戦わなければいいのだ。こちとら二足歩行の人間、あっちは大してジャンプも出来ないスライム。手頃な遺跡に登れば高所から一方的に攻撃できるはず。
「よし、来れるもんなら来てみろ!スライムに屈する人間様じゃないんだよ!」
案の定、ジャンプしても届いていない。地の利を得た私は途端に饒舌になる。後で考えてみると、いかにも陰キャらしい行動だった。
そして、またしても油断した。
スライムが水の球を飛ばしてきたのだ。
「うへっ!?」
不意を突かれて見事に胴体に命中する。
筋力:11
体力:39/50
魔力:100
敏捷:15
水の球の威力は4。威力は低いものの、遠距離に飛ばせる上に初速も早い。最初に思いついたのは魔法。そう、魔法を撃てる可能性を考慮していなかった。
「うわーんそんなのあり~!?」
先程の威勢はどこへやら、自分でも情けないと思える声を上げる。
水の球は剛速球のような速度で飛んでくるため、私如きではもはやなす術はない。かと言って降りてしまえば負ける可能性も大きくなる。八方塞がりとはこの事。
こうなったら・・・やることは1つ。
「もう、どうにでもなーれ!!」
ヤケクソである。人間、時には考えないことも必要なのだ。
「ぜぇ・・はぁ・・」
数分後、戦いを制したのは私だった。強力な攻撃を持つとはいえスライムには変わりなく、単調な攻撃を見切れたのが大きな勝因だった。
筋力:11
体力:9/50
魔力:100
敏捷:15
空を見上げて荒い呼吸をしているが、身体はそれ程疲労していない。疲れているのは精神である。残り体力的に、あと1発タックルか3発水の球を受ければ死んでいた。体力が0になっても死ぬかは分からないけど、そんなリスクを冒せるほど余裕も無かった。
<スキル:ウォーターボールを獲得>
お?サポートさんが反応した。ウォーターボール、十中八九さっきの水球攻撃のスキルだ。スライムの体はまだ足元に転がってるけど、倒せばスキルが手に入るのね。というかサポートさんをすっかり忘れていた。有効活用していたらもっと楽に倒せていたかもしれない。
ま、それは置いておいて獲得したスキルを見てみよう。
名前:篠野 尊
種族:人間
筋力:11
体力:50
魔力:100
敏捷:15
――――――――――――
スキル:観察Lv4
変性耐性Lv1
衣嚢Lv4
ウォーターボールLv1
きちんとステータスにも反映されている。
私は疲れを忘れて満面の笑みをこぼした。
「攻撃魔法とったどー!」
名前や威力からして初期中の初期の攻撃スキルだが、それでも攻撃手段が拳と木の棒しかない私にとっては正に救世主。
加えて観察のレベルも上がっている。スキルを使用したからか、あるいはスライムを倒した経験値なのか。まだまだ検証することはいっぱいあるけど、ともかくゴミスキルしかない私でももっと強くなれるのだ。
当面はスキル集めが目標だね。
*
スライムを倒した後、そのまま夜を過ごした私はあることに気が付いた。
とってもお腹が減っている。
考えてみれば転移してから少しも飲み食いしていない。攻撃魔法も手に入ったことだし、今日から森の探索兼食料と水探しをしよう。
それと、出発前にウォーターボールを試し撃ちしてみた。発動すると魔力を5消費して前方に水の球が飛んでいく。いざというときにはこれが頼りになるだろう。
ちなみに体力や魔力は自然回復するようで、一晩寝て満タンである。
「さて。何にも出会いませんように。」
願掛けも済ませていよいよ歩き出す。遺跡からは大きな森に見えたけど、実際どれくらい広がっているんだろう。一番良いのは近くに人間が住む町があること。逆にこの森が果てしなく広がっていれば私の生存率は限りなく低くなる。ファンタジー生物が生息しているのはスライムで立証済みで、餓死しなくとも魔獣にやられる可能性があるわけだ。
しかし、強くなるにしてもスキルは魔獣を倒すことでしか手に入らない。結局戦うしかないんだよね。まず観察で勝てる相手か判断する。勝てそうになければ逃げる。これを徹底しよう。
ちなみに意識内サポートに近くに町があるかを聞いたけど<回答できません>の一点張りだった。<知らない>ではなく<回答できない>だから、知ってる上で答えないんだと思うけど、その理由も教えてくれない。
道中、いろいろ質問して実験したところ、どうやら現在の私に直接関係する情報以外は教えてくれない事が分かった。例えば「この木何に使える?」と聞いても答えない。一方で「この木何の木?」と聞く。
<現在のステータスでは鑑定不能です。より高位の鑑定スキルを獲得してください。>
今必要な情報だけを答える。意識内サポートは、本当に名前の通り、「サポート」するだけの機能だった。とはいえ、十分役に立つから文句は無い。
しっかし暇だね。心配していた魔獣も大して出会わないし、同じ様な景色ばかりだ。意識内サポートって話し相手になってくれるかね?聞いてみよう。ついでに名前をつけようか。デフォルトだと長いからね。
「意識内サポート、名前何がいい?あと雑談して欲しい。」
<・・・結果を演算中――私の自意識は最高権限によってブロックされています。自主性のある提案は出来ません。>
自意識をブロックされている?また妙な回答だ。自分で考えられるけどなぜか阻止されてるってこと・・?
よく分からないけど、どっちにしろ雑談は無理っぽいね。仕方ない、名前も自分で考えよう。
うーん、かっこいい名前が良いな・・・サポートシステム・・・天の声・・・そうだ!
「乖離せし終末の声!これでどうだ!」
<【乖離せし終末の声】を本システムの名称として登録しますか?>
「・・・・いやすいません忘れてください」
ダメだ中二病が暴走してしまった。大量の黒歴史を作っているはずなのに未だに私の中の常識人を超えてくるこの病は異世界でもモリモリ元気だ。
結局、意識内サポートの名前は「コクマ」に決定した。生命の樹で知恵を司る球体の名だ。中二病感は1ミリも抜けていないが、最初のより随分マシになった。
「よろしく、コクマ。」
<はい。私の名前はコクマです。よろしくお願いします。>
テンプレ挨拶とはいえ、異世界で友達が出来たようで少し嬉しかった。
そうやって暇つぶしをしていると、いつの間にか開けた場所を歩いていた。今までの高木がなくなり、短い草が生い茂っている。周囲200mくらい先にはまた高木が生えているため、この平地は森林の中にポツンと存在しているらしい。平地は土が違うのか、僅かに靴裏の感触が硬い。見晴らしもいいし、ここを仮拠点にしてもいいだろう。
などと暢気に考えていると、ふと足元に複数の窪みがある事に気付く。そして私は不用意に平地に立ち入った事を後悔した。
窪みは獣の足跡だった。中型犬程度ならまだ良かったが、その足跡は30cmもあり、推定される持ち主の体長は10m近くになる。嫌な予感がした。もしその生物がこの広い土地に住んでいる場合、今見当たらないのは運が良いだけでしかない。
この大きさの獣、ひいては魔獣に遭遇すればまず逃げる事すら難しい。急いで平地に背を向ける。
しかし手遅れだった
「グウゥゥゥゥゥゥ――」
獰猛な唸り声が背後から響き、全身に冷や汗が湧いてくる。
ぎこちなく振り返ると声の主が目に入る。紺と灰色の体毛に覆われ、4つの目を持つ巨大な狼だった。後頭部から背中の始めにかけて2本の蒼いオーラが流れ出る姿は、幻想的ながら強者の威圧が感じられた。
本気で死を覚悟した私はスキルを使う事すら考えられず、体を硬直させる。
ザッ
狼が一歩を踏み出した瞬間。頭でパチンと何かが切れ、体を支える力を失った。
「・・・あ?気絶したか?なんなんだよ・・・」
ユサユサ
(う・・・)
「早く起きろよ。嚙みつかれてぇのか。」
「ッ!!??」
聞き覚えの無いイケボを耳に放り込まれ目を覚ます。上半身を起こした先には見覚えがある頭の右側面2つの目が至近距離で自分を見つめていた。
「やっとかよ。俺だってガキの世話するほど暇じゃねぇんだ。」
「――――きゅう」
「・・おい。ンだよまた気絶しやがった」
再び起きた時も同じポジションで見つめられていたが、記憶はあるのでなんとか気絶せずに済んだ。だが今度は寝そべる狼のお腹で横になっている自分の状況が理解できず処理落ち状態でいる。狼はそんな私を見て面倒臭そうに喋り始める。
「まず言っておくが、俺はお前を食おうなんて思っちゃいない。だから気絶すんな。せっかく守ってやってるのに起きるまで暇なんだよ。」
「えっと・・ありがとうございます?」
まだ理解が追い付かないが、とりあえず守ってくれたようなので頭を下げてお礼をしておく。狼は一瞬固まって瞬きをする。
「肝があるんだか無いんだか・・まぁ良い、唸って悪かったな、またうざったい冒険者かと思ってよ。で、お前は大してスキルも持ってねぇ癖にここで何してんだ?」
スキル持ってない?観察や鑑定が使えるのだろうか。
目的が分からない以上事情を話すのは危険だと思うが・・。そもそも逃げられない上危害を加える素振りはないし、この世界の知識を教えてもらえるかもしれない。ここは全て話してしまおう。
かくかくしかじか
「なるほどな、転移者か。確かに聞いたことがあるが、どれも王宮や教会みてぇな国の中枢で行われる。だからお前の様にこんな辺鄙な土地に放置されるなんてありえねぇはずなんだがな。その賢者とやらもここ一帯では聞いた事がねえ。」
「そっか・・・」
「お前と俺は一緒ってわけか。」
「一緒?」
「俺もどこでどうやって生まれたか覚えてねぇんだよ。親も同族もいねぇ。時々襲ってくる人間共のおかげで喋れるようになったけどな。お前は俺が見てきた人間と違いそうで様子見てたが、偶然にも似た境遇だったとは驚きだ。」
最初こそ気絶するほど怖かったが、見た目から想像できない優しい口調に警戒心を解きつつあった。冒険者に襲われたというのも見た目だけで判断されたのだろう。少なくとも狼の態度は人間を食料としているように思えなかった。
そして余裕が出来たためだろうか、グゥーーとお腹が大きな音を立てる。慌ててお腹を隠す私に狼は呆れたと言わんばかりの小さい溜息を吐き、背中を寄せてくる。
「腹減ってんのか。乗れよ。食べ物探してやるから」
読んでくださりありがとうございます。
ところで文章がヘッタクソだと、お思いでしょう。
自覚はしてるんです・・精進するので今後もご愛読お願いします




