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恋愛偏差値なんて底辺に決まっています

『スカートはやめとけ』

『化粧はすんなよ』

『門限21時な。むしろ20時な』



・・・お前は束縛彼氏か。いや夫か。



ピロリンピロリンと、嫌がらせみたいにちょこちょこ入ってくるメッセージに時間をとられて、家を出るのが遅くなってしまった。


結局、あっちゃん用に簡単なご飯を用意していたら時間がなくて制服のままだ。


最寄り駅まで大急ぎで走って、電車にのって5駅。

待ち合わせの駅に着いたときにはすでに、ゆっこも野呂君も来てた。



「ごめん、お待たせっ」

「お、なっしー。あれー、結局制服のままかぁ」

「りこ、ごめんね。急に人数増えちゃって」

「いいよいいよ」


待ち合わせ場所にいたのは総勢5人。

てゆうか、みんな制服じゃん。1人私服に着替えてこなくてよかった。


嫌がらせメッセージの合間に、ゆっこから

「人数ちょい増えるみたい」って来てたから、増えたのは知ってるんだけど・・・えっと?



「こいつらオレの友達」


目があってペコッと頭を下げてくれたのは、今年から同じクラスの高道君。野呂君と一緒にいることが多い、いつも穏やかに笑ってるイメージの人だ。


だけど、あと2人がぜんぜんわからない。



「・・・ゆっこ、知ってる人?」

「男のほうは同中なの。女の子は私も知らないや。もー、アタシはりこと2人が良かったのにー」


とりあえず場所をうつそうと、カラオケに向かう。

同じ駅前だから歩いてすぐそこだ。




「こいつは1組の橋本。んで女の子は橋本の彼女で・・なんだっけ、名前」

「私、ほのか。あのぅ、よろしくお願いしますぅ」

「ほのかはこう見えて人見知りでさ、仲良くしてやって」


丸刈りの橋本君はものすごく細長い人で、ほのかちゃんの背は彼の胸の高さより低い。

ふわっふわの肩下までの髪は天パなんだとかで、たくさんのヘアピンで留めている。

ゆっことはベクトルの違う、賑やかな感じの派手な見た目だ。


「なかなか女の子の友達が出来なくてぇ。だから無理言って連れてきてもらったんですぅ」


ほのかちゃんは、見た目は派手カワだけど実は2次元オタクで、その繋がりで橋本君と付き合うことになったらしい。


「好きな漫画のキャラがぁ、学校のセンセに似ててね。その話題ではっしーと盛り上がったのがきっかけでぇ」

「あ、アタシその漫画知ってる!似てんのって体育の野グマでしょ!」

「やーん、ゆっこちゃん!あったりぃ」


・・・・体育の野隈先生か。


なにやら盛り上がり始めたほのかちゃんとゆっこを微笑ましく見ていると「はい」と飲み物が置かれた。



「アイスティ、山盛さんでよかったよね」

「ありがと、高道君」


いいえ、とそのまま隣に座ってきた高道君は、ごめんね、と呟いた。


「急に僕達が増えたから驚いたでしょう?」

「んーん。私も諸事情で、大人数のほうがよかったから、気にしないで」

「あはは。諸事情って、恋愛関係かな?」

「・・・・・なにか御存じなのかな、高道君」

「あ・・・・・いや」


いつも穏やかな笑顔の高道君が、バツが悪そうなのはなんでかな?



「あいつから話したわけじゃないんだけど、あいつ顔に全部出るから・・・。最近よく山盛さんに絡んでたし、告白でもしたかなって。違ってたらごめんね」



ごちん、とテーブルに頭を伏せる。


「クラスの子たちは気付いてないと思うよ」

「そう願いたい」



なにせ野呂君は人気者だ。

ウワサなんてあっという間に広まっちゃうだろう。


「ちょっと。なっしーに何してんの、ヤマト」

「少し話してるだけだよ、たまにはいいだろう?」


歌の間奏で、マイクを握ったままこっちに呼び掛けた野呂君は、しっしと追い払われてる。



「あいつ、中学の時からよくも悪くも目立ってね。迷惑かけてるようなら注意するから。でも、山盛さんのことはふざけてるんじゃないと思うから、できれば真剣に考えてやって」

「・・・・高道君はずっと仲がいいの?」

「僕達、幼馴染みなんだ。あいつ、いいやつだよ」



・・・それはわかるんだけどね。

そもそも、タイプだと宣言されただけなんだけど、どう対処するのが正解なのか。



そんなモヤモヤは横に置いといて、ゆっこが一緒に歌おう!と知らない昭和歌謡をいれたり、ほのかちゃんがノリノリでアニソンを歌い上げたり、あまり得意じゃなかったカラオケも、けっこう楽しめた。




途中、トイレにたったついでにスマホをチェックすると、駿兄から怒涛のメッセージが入っていた。

早く帰りたいって愚痴と同じくらい、私の帰り道を心配する言葉が入ってる。


カラオケに行くことだけで、こんなに心配するはずない。犯人にメッセージを送るとすぐに返ってきた。


『あっちゃん何かチクったでしょ』

『男連れだって話しただけだ。んで俺にも、とばっちりがきたわ。帰る前に連絡しろ、迎えに行く』



「もう、何考えてるかな」

「何が?」

「っ!!!!!!」



壁のよりかかってスマホをいじってた私の横に並んだ野呂君に、声も出ないくらいびっくりした結果、取り落としたスマホが床でイヤァな音を立てて野呂君の足元まで滑っていった。


「わり、平気そう?」

「大丈夫、壊れてない・・・って野呂君、返して」


画面も無事だ。

けど、拾って画面を見せてくれたっきり、野呂君が握ったまま返してくれない。



「なっしー、楽しめてる?オレ、こうやって一緒に出掛けるのも初めてだから嬉しくって、ついあいつらに自慢しちゃってさ。そしたら一緒にまぜろってなって。急にごめんな」

「や、それは全然気にしないで。高道君とかともけっこう色んな話が出来てよかったし」

「そっか。オレはちょっと寂しかったけどなぁ」


野呂君の手の中で、スマホからピロリンピロリンと音がなる。


「なっしーが他の男と仲良くしゃべんってんの、ちょっと妬けたしね」

「・・・・他の男って高道君だよ?それより、ねえスマホ返してよ」


「メッセージすげーきてるね」

「ホントに、いいかげん返して!」


メッセージは文面なしで通知がくるだけの設定になってるから、誰からとも内容も見られていないはずだ。


それでも、あっちゃんのことが、もしもでもバレたらまずい。


「ごめんごめんて。はい」


返してもらったスマホをそのままポケットにしまう。傷以外の動作確認をしたいけど、それも後回しだ。


「あ!なっしー、足元」

「え?」


思わず下を向いたその耳元に、野呂くんが囁いてくる。


「今度は2人だけで出掛けような」

「っ!!!」

「っいてっ」


至近距離に感じる、他人の体温が怖い。

思わず力一杯野呂君を突き飛ばしてしまった。


「っってぇ」

「っあ、ご、ごめ」

「りこーー、どしたのーー?」


聞こえてきたゆっこの声になんだかほっとする。


「なんかあったの、りこ?顔色悪いよ?」

「なっ何でもない、ちょっとお腹の調子悪いかも。ごめん、またトイレ!」

「えー、大丈夫なのー」


逃げ込むようにトイレに逆戻りすると、個室にとじ込もってようやく息をつく。



手のひらを広げると少し震えている。


「野呂君、大丈夫だったかな」


力一杯おしやってしまった。


男の子だからって、友達なのに、あのくらいの接近で怖がりすぎだ。


軽く自己嫌悪になりながらポケットからくぐもった音を響かせているスマホを取り出す。

ピロリンとうるさいくらいになっていたのは駿兄からで、やたらと『男友達』のことに探りをいれてきていた。

あっちゃんめ、どんな風にチクったのだ。



「あっちもこっちも、もうーーー」



自慢じゃないが、年齢=彼氏いない歴だ。

色恋ごとのスキンシップは未知の世界すぎる。

手の震えもおさまってきたし、このままここにいるわけにもいかない。


ピロリンとなったスマホには『次、ご飯いくべ』と、呑気な野呂君と、ゆっこの心配するメッセージ。


ぺちぺちと頬を叩いて気合いをいれるとゆっこたちが待つ部屋に戻った。







「送るって。なっしー1人じゃん」

「まだ8時だから大丈夫だよ。じゃ、みんな、また月曜にね」


私ひとりだけ帰りの電車の方向が逆だから、みんなとは駅でサヨナラだ。

帰宅ラッシュとまではいかなくても、人出はそれなりに多い。1人で帰るにもなんの問題もない。


都内とは違って次々と電車がくるわけじゃないけど、待っても15分程度だから、さして苦でもないしね。




少し前にいれたメッセージにはあっちゃんからの返信がきていた。


『駅前のコンビニで待ってるわ。アイスおごりな』

『私がお迎え頼んだんけじゃないのに、なんでよ』


電車待ちの間、壁にもたれてスマホを弄っていると、ふと横に並んだ気配に視線をあげた。




「・・・なんでいるの」

「んー、やっぱなっしー1人で帰すの心配だからさ。家までおくるって」

「・・・そのこころは」

「なっしーの家の場所わかんじゃん?ラッキーみたいな」


へらりと笑った野呂君になにかを言い返す前に、ちょうど滑り込んできた電車に、手を引かれて乗せられる。


「いや、ホントにいいから!」

「さっきの、ビックリさせちゃったみたいであやまりたかったしさ。それに今日、一緒に住んでる兄ちゃんもいないんじゃ、駅から家まで1人じゃん。危ないって」

「・・・・う」


出来れば、突き飛ばしたあたりのことは話題にしてほしくなかったんどけど。

1人で狼狽しているうちにガタンと電車が動き出してしまった。



「駅何個目?」

「・・・・5」


とりあえず高速であっちゃんに来なくていいってメッセージ送ってみたけど、既読がつかない。


どーする、私。



「あ、あのね野呂君。私の家、駅からほんとすぐだし、暗い夜道とか通らないし、それに、あのっ」

「あちゃ。もしかして、迷惑だった?」

「・・・・・ちょっと強引かな」


人混みから庇うように私をドアとの間に囲った野呂君を恨めしげに見上げると、珍しく顔を赤らめて、わりぃと呟いた。



「オレ、暴走してる?」

「私は混乱してる」

「困らせるつもりじゃなくて。なっしーにオレのこともっと意識してもらいたくて・・・やりすぎ?」



ぐいぐいきてたくせに、このタイミングでちょっと引くとかさ。

きっとこんなところも人気者たるゆえんなんだろうな。


って、感心してる場合じゃない。


「ここだろ、なっしーが降りるの」

「あ、はい」


当然のように2人で改札にむかう。


・・・え、これ本当に家まで一緒に帰る感じ?



改札が目の前に見えたとき、いやーな汗をかいた手で握りしめてたスマホから音がなる。


あっちゃんから電話だ。



「ごめん

野呂君。ちょっといい?」


通路の端により、さらに野呂君から少し離れる。


「もしもし?」

『連絡おっせえ!突然来んなって送られても、もう家出てるっつーの』

「・・・・ごめん。こっちはこっちで緊急事態なんだってば」



とりあえず駅にはついてることと、野呂君が一緒にいることを手短に伝えると『ああー?』と面倒臭そうな声が返ってくる。


野呂君はコソコソと小声で話してる私の様子に不思議そうな顔だ。マズイ



『状況はわかったから、とりあえず1人で改札出てこいよ。この後、違う友達と約束してたんだってことにすりゃいいだろ』

「あっちゃんが友達ぃ?」

『夫だって宣言したほうがいいのかよ』

「ごめんなさい」



電話を切って、あっちゃんの提案をそのまま伝えると、野呂君の表情が険しくなった。


「この時間から遊ぶの?友達って男?女?」

「おーおおおおおお」


なんで私、追い詰められてんの!


通りすぎていく会社員の人たちが怪訝な顔でチラチラ見ていく。

そうだよね!壁に追い詰められてるの気になるよね!





「りこ」



改札の外から響いたのは、よく知ってる声で。



「・・・誰?」

「と、と、友達!野呂君ここまでありがと、じゃ!」

「あ、おい。なっしー!」


逃げるように改札を抜けて、あっちゃんに駆け寄る。と、あっちゃんは着ていたパーカーを脱いで、私の肩にばさりとかけた。


「なんで制服なんだよ」

「あっちゃんの嫌がらせのせいでしょ」



キャップを目深にかぶってるからあまり表情は見えないけど、大きなため息プラス舌打ちしたから、ご機嫌ナナメなのはよくわかったよ。


振り返って野呂君に手を振ると、さっきまでと同じ場所にたったままだった野呂君が、ぎこちなく手を上げてくれた。よし


「ほらいくぞ。肉まんおごりな。アイスはさみぃわ」

「ご飯食べたんでしょう?」

「成長期なの俺」

「・・・・・横に?」



ぺちりと私の頭を叩くあっちゃんは、部屋着にキャップ。家用の縁太眼鏡。野呂君が芳賀先生だと気がつくことはない、と思いたい。


「りこ、行くぞ」


ぶかぶかのパーカーに袖を通しながら、歩きだしたあっちゃんを慌てて追った。


背中越しに野呂君の視線は痛いほど感じていたけど、もう振り返る勇気はなかった。




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