8時 朝ご飯
暖かいかい。久しく感じていなかった温かみだ。人の温かみ。思わず無意識に抱き締める。何か妙に艶しく足に何かが絡んでくるが不快なモノではない。太ももの辺りにはすべすべしてモチモチとした感触の何かがあって温かくてとても気持ちがいい。
「……ん、…んん…………ん?」
段々と覚醒した意識は状況を理解しようとする。温かみを感じさせている原因は人だ。目の前には人形と見間違えてしまう程綺麗な顔がある。そして私の足に絡んできているのは目の前にいる少女の足だ。それによって私の太ももに相手の太ももが密着してモチモチとした感覚が伝わってくる。
い、いや待て、どう言う状況?この女の子は昨日助けてくれた灯墨ちゃんだと言うことはわかる。いや、でも何で同じベットで?なんかそう言うことをしちゃったのかなぁ?ま、枕投げとか……誰ともしたことなかったのに。ど、どうしよう?全然記憶にない。
「……ん、レラ……おはよう」
灯墨ちゃんが起きたようだ。すぐにどかないと。ん、あれ?体がホールドされて動かない。ぬぉおっ!私の力ではびくともしない。
「どうしたのレラ?トイレに行きたいの?」
「別に行きたいところはないけど……」
「なら、もう少し横になってましょ」
ちゃんと否定すればよかった。こういう時ちゃんと自分の意見を言える大人にならなければ。別にこの状況が嫌ってわけではないけど……でもやっぱり少しだけ恥ずかしいし。
それでも、人の温かみは偉大なようでまた私は意識を手放した。
七黒灯墨は人生で一番幸福を感じていた。なんと、あの奥手そうなレラが灯墨に抱きついてきたのだ。その小さな体で一生懸命、それが何とも可愛くて。しかも、しかもだ、足まで絡めてきて一番密着している太ももに当たる感触はとても良い。いつまでも堪能していたい。そんな時レラが離れようとしたので用があるのかと聞いたら唯の身じろぎだったようなのでもう少しこの感覚を堪能することにした。
あれからどれくらい経ったかは定かでは無いが灯墨は仕方なく起き上がる。さずがに一日中寝ているわけにもいかない。メイド達を呼び出し支度をさせる。
「寝顔もやっぱり素敵」
すやすやと未だ眠るレラを見ながら微笑む。
「姫、お着替えを用意しました」
「ん、ありがと、この子可愛すぎて濡れちゃったから早く着替えたかったのよね」
灯墨は優しく枕にレラを寝かせて頭を撫で着替えを始める。トラックショートパンツを脱ぎサラに渡してその下も脱ぐ。上も同様に脱ぎ一糸纏わぬ姿となる。
「姫、こちらをどうぞ」
そして渡された着替えを身につけていく。プリーツスカートを履きワイシャツを着て裾を中に入れ、金具をはめる。そして渡された黒を基調としたネクタイをつければ完成だ。
「よし」
そう気合を入れてベットに腰掛け彼女が起きるまで観察しようと思った。
目を覚ました私は灯墨ちゃんと食卓を囲んでいた。私がいつも食べているコンビニのパンとは比べ物にならないほど豪華なものが並んでいる。いや、コンビニのパンも美味しいけどね。
並べられているものはベーコンエッグ、コーンスープ、なんかいい感じのサラダ、トーストくらいなものだが、なんて言うかとてもおしゃれな感じだ。
「ん、おいし」
見た目通りやはり美味い。壁際に立っているメイドの人が微笑んでいる。あの人が作ったんだろうか。
「良かったわ、気に入ってもらって。本当は私が作ってあげたかったのだけど生憎目を話すことができなったもので」
灯墨ちゃんはそう言う。やはり昨日のような悪い人たちが追ってきたりしないように目を見張らせてたとかだろうか。やっぱり灯墨ちゃんはすごい。
ふと、聞こうと思っていたことを思い出す。
「それで私、昨日のことよく分かってなくて……」
そもそも、ここがどこかも分からないのだけど。
今、聞きたいのは昨日何故私は灯墨ちゃん達に車で拉致られ、更に逃げたら悪い人たちに捕まったのかを。
「わかったけど、先ずはこの子達の紹介をさせて」
灯墨ちゃんがそう言うと壁際に立っていた2人のメイドは前に出てくる。
「先ずこっちのレラから見て右に立っているのがサラ」
サラさんは片足を後ろに引き両手でスカートの裾を掴み軽く持ち上げると会釈をする。結構短いけどそんなにあげて大丈夫なのかな?
サラさんは淡い茶髪、そこから覗くその眠そうな瞳は翠に輝いている。髪の毛はツインテールになっていてとても似合っている。着ているメイド服は本格的なものではなくコスプレにも見えるけどそれにしては妙に生地が良さそうだ。
「気軽にサラと呼び捨てで呼んでください」
「よろしくね、サナ」
初対面の人を呼び捨てで呼ぶ機会なんて少ないから緊張する。
「はい、よろしくお願いします」
そう言ってまたお辞儀をする。
「次に左にいるのがウラ」
ウラと呼ばれた少女もまたサラと同じように挨拶をする。
「私のこともウラと呼んでください」
ウラはサラと同様に淡く茶色の髪をしているがその瞳は淡い赤色をしている。赤というよりは桃色に近い気がする。髪型は私と同じポニーテールだ。
「よろしくウラ」
「よろしくお願いします」
頭を下げてから一歩下がる。
「それで、昨日のことなんだけれどあれは私のせいよ。御免なさい」
灯墨ちゃんが頭をいきなり下げてくるので慌ててしまう。
「そ、そんな謝ることじゃないよ。私は無事だったんだし」
「……そう?ありがとう。なら、まずは昨日のあらましから伝えるわね」
そうしてことの真相が語られる。