7時 起床
小さい頃、母の話を聞いてシンデレラを好きになったの、何よりも強かったからだ。絵本のシンデレラはそんな事なかったけれど母の話に出てくるのは強くてかっこいいシンデレラだった。
――シンデレラを探しにいく途中王子様たちは悪い人たちに囲まれてしまいました。
王子を召使いが守ろうとするも、何とその悪い人たちは物凄く強い悪い人だったのです。
召使いたちはすぐにやられてしまいました。
そして悪い人たちは王子にも手を出そうとしました。
そんな時です。
何処からともなく現れたシンデレラは悪い人たちを全部倒し王子を守りました。
その場にいたもの全てが見ていた。
少女が光に包まれる瞬間を。
七黒灯墨が差し出した手を金色の髪の少女がとったところまではわかる。では何故光に包まれたのか。そんな疑問を湧くものがいる中それに直面したことがある者は直ぐに察した。
組織内でも有力な者たちだから見覚えがあったもの、一般人にはそれを目にする機会などなく本来のソレの名称すら知ることなく老いてゆく。
そして、それを知る者は例外なく、悟ることになる。
アレはマズイと。
そのは、恐怖で倒れ伏しているもの、腰が抜けているもの、そうでないものを見れば状況の把握ができているものとできていないものを判別できるほどに、恐怖を振りまいていた。
ここにいる全員の体験した恐怖と名のつくものすべて合わせて足りぬほどに。
そして、その空気を打ち破るかのように眩い光が破られる。
光が消え現れたのは唯の少女。魔女にもなっていないし化け物にもなっていない。先ほどと違うのは着ている服がメイド服ということだけ。
メイド服はハウスキーパーと言うにはコスプレじみていて、コスプレというにはシンプルなデザインをしていた。ベースは白でエプロンは黒、アスコットタイのような二つに分かれたネクタイは右が白、左が黒になっている。短いスカートから伸びる白く華奢な足は美しく眩しい。
先程と変わらず一つにまとめられた夜空のように落ち着いた金の髪。そこから覗くアイスブルーの瞳はまるでこの世のものではないかと思えるほどに美しかった。
同時にその場にいた男たちは恐怖を覚えた。それは、これが何なのか理解できぬ者すらも例外なく。
「う、撃てっ、七黒灯墨ごとでもこの際構わん!撃てぇええ!!!」
誰もが撃ちたかったのだ。アレは殺らなければいけないモノだと。さもないと殺されると。恐怖を感じた者たちはそれでもかろうじて理性で抑えていただが、それが今放たれた。2桁にも及ぶ弾丸が一人の少女に放たれる。
「――四芒星」
だが次の瞬間血のように赤黒く真っ赤に染まった何かに防がれる。それは成人男性の身長を優に超える3メートルもある十字だった。否十字ではなく四芒星、いわばユビキタスの星だ。だがそれは縦に長く横に短く、おおよそ縦の比は1:2のため男たちにはそれが十字架にも見えた。
「……いけ」
少女が指示すると少女を囲むように宙に浮いていた四芒星はその尖った先端を男たちへと向けて狙いを定める。男たちが身構えた瞬間には既に数人の首は飛んでいた。
そこからはただただ一方的だった。
首が飛ぶ。首が飛ぶ。首が飛ぶ。
ここにいる者にはすでに赤く血みどろの十字架に首を捧げることしかできなかった。
レイ・ミュリスは後悔していた。何をと言われれば全部と言おう。手違いでバケモノを連れてきてしまった事、そもそも七黒灯墨を狙っていた事。その全てだ。
どうかどうかとレイ・ミュリスは祈った。
助けを求め只々祈った。
全ての反省をし祈った。
そして、赤の十字架によって殺された。
老人の名はエリク・バールと言った。
彼はこの空間においては絶対的な強者であった。彼以外は彼よりも下の存在であり彼の命令には従わなければならない。そして、実力面においても優れていたのは彼だ。この空間の中では全てにおいて彼が優っていた。伊達に歳をとっているわけではない。此処に玉座があるとすればそれに座るべきは彼であった。
だが、先ほどその玉座は粉々に崩れ、瓦礫の玉座に座るのは金の髪を持つ少女だった。
一番下にいたはずの彼女があの一瞬で頂点へ上り詰めたのである。
もう彼女には勝てない、そう悟った時には首が飛んでいた。
黒髪の少女――七黒灯墨は感動していた。最愛の少女、御沓レラが悪しきモノたちから守ってくれたのだから。本当なら巻き込むつもりなど一切なかったが、あの状況では仕方ないと、そう、七黒灯墨は思い込んだ。
何故ならばとてもカッコよくて可愛かったからだ。それ以上に理由はいらない。
御沓レラは先生のお話に出てくるシンデレラと同じ、それだけで十分であった。
だけど、それはいつの間にか変わっていたことに気付いた。そう、逆なのだ。シンデレラを再現出来るからではなく。前提が御沓レラに置き換わった。だから、そういう理由に変わっているのだと。
その瞬間から七黒灯墨は御沓レラに恋をした。
元から彼女の最愛は御沓レラではあった。それでも、シンデレラの物語に恋をしていた。だが今、この時、それは変わった。
この瞬間御沓レラ自身に恋をした。
そしてその事実は心象能力によって確実に強固に繋がれる。
床一面に転がる男どもの死体。その中にはただ一つの命もない。全て平等に死んでいる。今倒れている男たちの頭は禿げているものもいればそうでないものもいる。それはどうしても生まれてしまう差ではあるが死は平等であった。
「結構効いたから、あなた達でこの子を運んであげて」
胸を苦しそうに抑えている七黒灯墨はそう指示を出す。ウラが心配そうな表情を顔に出す。
「大丈夫なんですか?」
「だ、大丈夫よ……」
そんな二人の会話を半目でサラは見る。自分達は主人と繋がっているのだから態々聞かなくてもわかるだろうにとウラを見るが気付いてないようだ。
「……はぁ、ウラ、姫様は恋の病にかかっておられる。だから大丈夫だ」
「こ、恋の病!?そ、それは大丈夫なのですか!?」
より心配そうに主人を見るウラを見ながら倒れているレラを担がせ移動する。長く居て見つかっても面倒臭い。
3人はレラを担ぎ車まで歩いて向かった。




