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死んで、レラ  作者: えとう えと
第一章
2/16

1時 少女は眠る


 小さい頃、母は寝る前にお話をしてくれた。


 聞かせてくれるのは"シンデレラ"のお話。私はそれが大好きだった。

 

「ママっ今日もしんでれら!」


「じゃあ、そうしよっか」


 母は絵本を取り出す。表紙には平仮名で大きく"しんでれら"と書かれている。


「ごほんじゃなくてママのやつがいい!」


 そうやって駄々をこねる。そうすると母は「ごほんのほうも見てしいんだけどなぁ」なんて言いながら本を置く。そして私の布団を掛け直すと話し始める。


 




 昔々、シンデレラと呼ばれる、美しく、心の優しい娘がいました。


 本当は貴族の娘なのですが、意地悪な 継母とその連れ子である二人の義理の姉にその美しさを妬まれ、まるで召使のように扱われていました。


 シンデレラは思いました。なぜメイド服を着せてもらえないのかと。


 召使といえばメイド服ではないのかと。


 なぜフリフリの可愛いやつを着させてもらえないのかと。









 






 

 朝、クラシックな音楽と共に目を覚ます。と言ってもこの曲は既に三回は流れている。少なくとも二回は音楽を止めた後布団を被った覚えがある。


 なんか起きれないし曲変えた方がいいのかなぁ。好きな曲にするとその曲嫌いになるし。嫌いな曲は嫌いだし。あまり聞いた事ない曲は起きれないし。


 枕元に置かれたケータイを目を擦りながら眺めるが視界がぼやけていまいち見えない。


 暫く画面を覗き込んだり遠ざけたりしていたが顔を洗った方が早いと言う天才的な考えのもと洗面所へと向かう。


「……さむっ」


 布団をどけると共に一気に中に侵入してくる冷たい空気に顔を顰める。不法侵入だぞ!と言いたいくらいだ。かれこれこの世界に生を受けてから16回冬を越しているが慣れるものではない。と言うか慣れる人なんて存在しない。多分。


 ひどく冷たく感じるフローリングの上に足をつけながら目的地へと向かう。目的地というと大袈裟かもしれないけど私にとってこのフローリングは極寒の中を裸足で歩くのと同義だ。


 視界には白い地面と雪吹雪、全面真っ白の銀世界。自分の足跡さえすぐに消えてどこを歩いてきたのかもわからない。そんなところをあてもなく、ただ前へ前へ進む様な――


 ――ジャァーーー


 手の甲で軽く押すと冷たい水が出る。そして右手の親指の先だけ流れ落ちる水に触れる。段々と温かくなっていき丁度いい温度になったと感じたら手を皿の様な形にしてお湯を溜め顔にかける。目を覚ますなら冷水でしょとかは言わないで欲しい。


 両手で掬ったお湯を指の隙間から漏れない様に注意しながら顔にかける。二、三度繰り返した後タオルをとり、顔を拭く。
















 


 


 リビングに移動した後昨日コンビニで買っておいたメロンパンを頬張る。


「もぐもぐ――飲み物はっと」


 何かないかと無数の空のペットボトルが立ち並ぶテーブルの上を見渡す。昨日買った筈だよなぁ、なんて思いながら見渡していると視界の端にコンビニのロゴが描かれたカップを捉える。


「あ、コーヒー昨日買ったのに飲み忘れてた」


 昨日はコーヒーを飲みたい気分だったので買ったのだった。他のものを珍しく冷蔵庫に入れようと思ってここに一旦おいた後すっかり忘れていた。


「ん?他のもの?」


 そこで私のあいきゅーごせんの脳みそはあることを思い出す。そう、昨日コーヒーとは別に買ったお茶を冷蔵庫に入れていたのだった。


 そうとわかれば簡単だ。冷蔵庫から"お○いお茶"を取り出し蓋を捻る。パキッと音を鳴らし蓋を開けお茶を飲む。なんて有意義な時間なんだろう。


「ん、時間?」


 そう言えば時間を見るために顔を洗ったんだっけ?視線は壁に掛けられた電波時計へと向かう。


「あ、遅刻!」


 ドタバタと動き回りながら支度を済ませ玄関へと向かう。今更ゴミを出しとけばよかったなどと後悔しながらリビングから玄関まで続く道を占領している幾つもの45リットルの容量を最大限に活用しているゴミ袋を掻き分けながら進み靴を履く。


「行ってきます」


 それだけ言うと家を飛び出した。
















 ガラガラガラと新しい癖に妙に古臭い音を立てるドアを開けて教室に入る。ドアの近くの生徒が一瞬こちらを見るがすぐに目を逸らす。


 教室に入り友達に挨拶をしながら自分の席に着く。ちなみに私は他の女子の様に群がったりしない。別に群がると言うと聞こえが悪いけれどその子たちのことを悪く言っている訳ではない。それ自体は本能的なものもあるだろうし。それに群がらないとは言ってもあの子たちほどではないと言うだけで男子に比べれば圧倒的に女子で固まって行動していることは多い。特にトイレなんかこの私ですら一人で行ったことはない。


「レラ〜おはよ〜」


 頭に重みを感じて若干振り向くと見慣れた顔がその無駄にでかい物体から覗く。思わず大きなそれを見ながら私は自分の胸に手がいってしまうが仕方ない不可抗力だ。なんか惨めになってきた。


「小さくて可愛い〜」


 この子の名前はかなえ、今年の春、つまり高校からの友達だ。いつも可愛いとか言って頭を撫でてくる。それと私はたしかにすこーしだけ小柄だけど小さくない。多分これから伸びるし。二年間伸びてないのは成長するために力を溜めてるからだし。


「レラって身長いくつなの?」


「……143」


「そんなに小さいの!?」


「小さくない」


「うふふ、そうだね〜」


 なんか言い方がムカつく。馬鹿にした様な言い方だし。相変わらず人の頭上に脂肪の塊を乗せているのでわざわざ振り返って見上げなければ表情は見えないけど。


「いいなぁ、この金髪も綺麗だし」


「――っ」


 一瞬頭に昔のことが思い起こされる。


「どうしたの?」


 私の様子がおかしかったのだろうか?先ほどまで乗っていた重さをさらにかけて顔を覗こうとしてくる。


「何でもない」


 顔が埋もれて窒息する前に返事を返す。このままだと圧死しかねない。そして頭が軽くなったのを感じて押されて下がっていた顔を上げると先生が来たところだった。あたりを見渡すといつの間にかかなえは自分の席に戻っていた様だ。


 そして、日直の号令と共にHRが始まった。

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