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死んで、レラ  作者: えとう えと
第二章
16/16

15時 掃除


 空は真っ赤に染まっている。綺麗だな、なんて思いながら視界の端でゆっくりと街路樹が一本、また一本と過ぎていくのをぼんやりと捉える。


 そんなこんなで私は歩いていた。理由はもちろん帰るためだ。カフェに行った後私はかなえと別れて帰路に着いた。


 灯墨(ひすみ)ちゃんは?と思った人も少なくないと思うけど、それも仕方ない。当の本人はずっと隣を歩いているのだから。


 私は街路樹とは反対側の視界の端に映り続けている少女に意識を向ける。相変わらず綺麗な顔……って、違う。違くはないけど。


「どうしたの?レラ?」


 あたふたしてると気になったのか話しかけてくる、灯墨ちゃん。


「どうしたのじゃないよ、何で私と一緒に帰ってるの?」


「いやなの?」


「い、いやじゃない、けど……そうじゃなくて灯墨ちゃんのお家に帰らないの?」


 確か土曜日に私の家に送ってもらう時、車内でした話に、どこに住んでいるかって話題になった。その時に少なくともこの近くではないと聞いていた。


「私はレラのお家に行こうと思って」


「行こうと思ってって」


 幾ら灯墨ちゃんでも、そう簡単に入れるわけにもいかない。ゴミ袋とかペットボトルとか放置しっぱなしだしここは何とでも死守しなければ!














 ダメだった。


 45リットルのパンパンになったゴミ袋が玄関から続く廊下に敷き詰められている。紛れもなく私の家であった。いや、正確には1人紛れているのだけれど。


「……レラ、これは流石に……」


 灯墨ちゃんは凄い顔をしている。だから嫌だったのに。多分引いてる。絶対引いてる。多分私のこと嫌いになっちゃうんだ。あれ、なんか涙出てきた。


「う、ぅぅ、灯墨ちゃん今までありがとう……」


「ちょっ、どうして泣いてるの?」


 灯墨ちゃんはこんな時でも私のことを心配して顔を覗き込んでくる。


「まぁ、いいわ。今からここ片付けるけど良いわよね?」


「うぅ……ぅへぁ?」


「……それ返事?……じゃあ始めるわよ。――王子の召使い(サラ・ウラ)


 瞬間、眩い光と共に2つの人影が現れる。


「「――此処に」」


 サラとウラだ。


 今更手品だとは思ったりしないけど。


「……どう言う事?」


「ん?そう言えばちゃんと伝えてなかったわね。サラとウタはね心象能力(アニムス)によって顕現してるの」


「顕現って、サラとウラは人間じゃないの?」


 どう見ても人間の女の子だし、意思疎通もできる。


「うーん、人間じゃないかって言われると、うまく説明できないわね。まぁ、なんていうか……イマジナリーフレンドみたいなものよ」


「イマジナリーフレンド?」


「えーと、空想上の友達って感じかしら」


 お友達を想像して遊ぶのかな?


「え?でもそれってさ、現実に友達と遊んだほうがよくない?」


「うぐっ……」


 灯墨ちゃんがショックを受けたように胸を抑える。もしかして、私がサラとウラと遊ぶよりも現実の友達と遊んだほうがいいって聞えちゃたのかな?


「え、あっ、サラとウラのことを悪く言ってるんじゃないよ」


「わ、分かってるわ……それにダメージを受けたのはそこじゃないし」


 そういって、限界とばかりに倒れこむ。


「?……灯墨ちゃんっ!?」


 いきなり倒れた灯墨ちゃんに駆け寄った。

















「姫なら少しすれば目を覚ましますよ」


 さっきから、そわそわしている少女、御沓レラに声をかける。主である七黒灯墨の思い人でありながら強力な心象能力(アニムス)の所持者である。本人に記憶がないからというのもあるがやはり何度見ても強力な力を持っているようには見えない。


 そんな少女は安心したようでさっきとは打って変わって笑みを浮かべている。


「ホントに!?」


「本当ですよ。さっき姫が言ってたように私たちは心象能力(アニムス)によって生み出されているので、なんていうか、こう、見えない力で繋がっているんですよ」


 そんな話をしている横でウラが「これ前回みたいな恋の病ってやつですかね」と真面目な顔で言う。こいつには灯墨の感情なんかは自分と同じくらい伝わるはずなのにいつもこうだ。そして、それを聞いたレラがうろたえている。というかこの子もこの子だとサラは思う。そもそも、灯墨が倒れた理由はこの少女にあるのだ。


 灯墨は結構何でもできる。それは灯墨に使えるサラにとってはうれしい事ではあるのだが、その影響もあって高嶺の花のような存在に見られてしまい友達がいなかった。そのため、先ほどの「え?でもそれってさ、現実に友達と遊んだほうがよくない?」という言葉は灯墨に刺さったのだ。まぁ、サラやウラを想像したのは幼少のころできっかけは少し違うのだが。


 そして、サラ個人としてはレラはもちろんだが、主に話しかけてくれた、三葉かなえに対してもありがたく思っている。ちなみに、灯墨が体験したことは基本的に共有される。


「……ん、んん」


「さ、そろそろ起きそうですし、通路から始めましょうか」


 身じろぎをする灯墨を見ながらサラはそういった。

 

 


 















 玄関から続く道には塵1つなく、勿論ゴミ袋が敷き詰められている訳でもない。こんなに輝いているフローリング――と言うよりフローリング自体、最後に見たのはいつだったか。


 テーブルに並べられていたペットボトルは全て無くなり、置いてあるものといえば滅多に使わないテレビのリモコンとティッシュ箱くらい。


「すごいきれいになってる!」


「ありがと、サラ、ウラ」


 灯墨ちゃんがそういうと二人は返事をした。


「二人ともありがとう!」


 私からも挨拶をする。お礼を言うのは大事なことだし。


「それにしても、レラ、ペットボトルは捨てましょうよ」


「うぐ、で、でも、洗ってあるし」


 何とか反論してみるが汚いものは汚いと言われた。


「でも姫も結構人のこと言えませんよ」


「え?灯墨ちゃんも!?」


「流石に、飲食したものは片づけるわよ」


「でも、着替えとか、ドアの閉め忘れとか結構ありますよね」


「水道とか、冷蔵庫の締忘れとかもですよね」


 そんなこんなで話は弾んでいった。ちなみにこういうことが起きるのは大抵二人を出していない時で、そもそも、二人がいるときは着替えから何まで全部やってくれるんだそう。


ちなみにずっと二人を出してればいいのではないかと聞いたら、本人曰く、心象能力(アニムス)をずっと使っているわけにもいかないんだそう。

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