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おそらく不定期更新です。
灰の様にくすんだ金の髪。
アイスブルーの瞳。
白を基調とした黒で装飾された服。
三つの特徴のうち、美しいと言えるのは瞳の色だけ、灰のようにくすんだ髪に、地味な装い、その筈なのにその少女はとても美しく可憐で儚げで。
少女はそこに立っていた。
そして赤く十字の花が舞う。
否。
これは花ではない。
花というには無骨で無機物的で冷たい印象すら抱かせる。
強いてこれを現すのなら手裏剣。
極東で忍と呼ばれる者たちが使用する手裏剣に酷似している。だが、その全長は3メートルにも及び血のように赤黒い。
その血のように赤い四芒星は彼女を囲むように浮かんでいる。
「四芒星」
それが少女の一言でまるで花吹雪のように宙を舞い、世界を赤く彩った。
「死んで、レラ」
初めて言われたのは小学三年生の時だった。
特に仲がいいわけでもない男子に言われた。
なんて事はない私の本名が御沓レラで、名前と"死んで"と合わせると語呂がいい。それに私の髪は金髪で目の色も青色だったから日本人っぽくなかったのだろう。
ただそれだけ。
嫌われてたからとかじゃなく、ただ思いついて言いたくなったからその子は言ったんだろう。
それでも悲しくなる訳で泣いたけれど。
でも、それで"シンデレラ"が嫌いになったりしなかった。
それは昔お母さんが寝る前によく聴かせてくれた物語だったから。
それはとても大切な思い出だったから。
でもお母さんが話してくれる"シンデレラ"は少し普通とは違っていた。
私が飽きてしまわない様に本来の話とは少し変えて聴かせてくれたのか、時にはガラスの靴は履かず原作に近い要素があったり実は主人公のシンデレラがジャパニーズニンジャの末裔だったりと。
今思えばめちゃくちゃだったがそれが大好きだった。
私にとっての"
母が死んだ。
「死んで、レラ」
二度目は母の妹――叔母に言われた。
母が亡くなったのは交通事故から私を守ったため。
それで叔母は私に当たった。
本当は泣きたかった。
母が目の前で亡くなってしまって、自分のせいで亡くなってしまった事が悲しかった。
それでも、泣きたかったけど人前では泣かなかった。子供ながらに人前で泣かないというプライドなようなものがあった。泣くのは母の墓の前でだけ。態々、と言っても実際、家に居たくなかったから苦ではなかったけれど子供の足では長距離とも言える位置にある墓まで毎日通っていた。
そしてそのすべての行動には"シンデレラ"が影響していたのだろう。
今思うと、それが原因だったのだろう。母が命に代えて守った子供は母のことなど忘れたように悼むことすらせず過ごしていたのだから、叔母にとっては、さぞ、憎かったのだろう。
でも、その時はそんなことはわからなくて、叔母が悲しんでいて、その原因は自分。
なら、泣いてはいけないとそう言い聞かせた。
そう言い聞かせることしか出来なかった。
そして、泣いた。
誰にも聞かれない様にひとりで。
「死んで、レラ」
三度目は今、この時。
目の前には綺麗な黒髪を揺らしながら微笑む少女がいた。