尋ね人
アッシュブロンドのストレートヘアを腰まで伸ばし、つり目がちなロイヤルパープルの瞳が印象的な美人
エジャートン伯爵
リリー様(21歳)
オレンジがかったブラウンのボブヘアはゆるくカールし、ヘーゼルの瞳は優しく微笑んでいる可愛らしい人
サマセット子爵
オリヴィア様(27歳)
輝くプラチナブロンドをハーフアップにし、宝石の様なアクアマリンの瞳には好奇心がのぞく美人
ヨーク侯爵
エヴァ様(19歳)
「以上、3名が尋ね人候補です。
会って確認されるなら、私が仲立ちいたしますがいかがでしょう」
伯爵家の応接間の机の上には、まるで釣書のようなそれぞれの令嬢の特徴などが書かれた書面と、
絵姿が並べられている。予想以上のフェリシティの行動の速さに、驚かされる。
「・・・フェイ、どうやってこの御三方を見つけられたのですか?」
「ブルーサファイアローズは、公共の場所ですと王立植物園にしか咲いていません。ですので、過去4年間分の王立植物園に来園した方々のリストを手に入れました。そこから、性別、貴族であるかどうか、年齢、園芸に興味のありそうな方を選出しました」
「さすが、キャンベル家と言いますか・・・いえ、
お忙しい中、ありがとうございます。
しかし、残念ながらこの方、と断言できる人はいません。せっかく調べていただいたのに、申し訳ないのですが・・・」
「いえ、私がお手伝いしたいと言って、勝手に調べただけですから。
他になにか情報はありませんか?」
「他に、ですか・・・
そういえば、ブルーサファイアローズを育てていると・・・」
「ブルーサファイアローズを?」
「ええ」
「・・・・・・・・・ーーーーそうですか」
「個人では育てづらいのですか?」
「いえ、個人でも育てられます。
元々バラは育てるのが大変ですが、ブルーサファイアローズは更に手間暇がかかります」
「そうだったのですね。バラを育てるのも、難しそうだ」
「セオ様。
来たばかりですが、本日はこれで失礼してもよろしいでしょうか。少し確認したい事がありますので・・・」
「もう少し、一緒にいたいのですが・・・ダメでしょうか?」
セオドアの言葉に、フェリシティの顔が固まる。
「・・・構いませんが、まだ何かお話が?」
一緒にいたいと言われるとは思っていなかった、という様な間が空いた。いつもの完璧な公爵令嬢よりも、戸惑った感じが可愛らしくて、セオドアは知らず微笑んだ。その微笑みを見て、フェリシティの頬が赤らむ。
「いいえ。ただもっと可愛いフェイを見ていたくて」
「・・・からかっていらっしゃるのですか?」
「いいえ。本心です」
やはり固まってしまったフェリシティの手を取り、隣に座る。いつもとは違うセオドアの態度に困惑しているのがよくわかり、申し訳ないと思いつつ、普段見られないフェリシティの様子が可愛い。
「執事の淹れてくれたミルクティーは、お気に召しませんか?」
「そんな事は・・・ありません」
「どうぞ、一口」
「ーーー手を・・・、離してください」
「ああ、気付かずすみません。さぁ、どうぞ」
そっと離された手を、名残惜しそうに見つめる。フェリシティの手は公爵令嬢らしく細く綺麗な手をしているが、少しカサついている様にも見えた。それが嫌な感じではなく、暖かく感じるのは何故だろう。
「フェイは、薔薇を育てているんですか?」
何気なく聞いた事だったが、なぜか答えを知っているような、しっくりくる疑問だった。
「はい。花は好きですから」
「今度、育てた花を見せてくれますか?」
「タウンハウスの方ではあまり育てていませんので・・・お見せできるほどのものではございません」
「たった一輪でも、フェイの育てた花が見てみたいな。どうしてもダメですか?」
「・・・今度お会いする時に、一輪お待ちします。それで許してくださいませ」
「ありがとう。楽しみにしていますね」
嬉しそうな笑みを浮かべるセオドアを見て、フェリシティはそっと息を吐いた。
◆◆◆◆◆
この婚約はお祖父様から打診されたものだった。
フェリシティはオリヴァーと結婚し、この公爵家を守っていくと思っていた。オリヴァーとは公爵家に引き取られてからの付き合いだが、フェリシティの事もある程度理解があるので、一緒にいて苦ではない。結婚しても、穏やかな家庭を築けると思う。そんな時に、ウェスト伯爵家との婚約の話は寝耳に水だった。第一、ウェスト伯爵家と繋がりをもった所で、キャンベル公爵家に益があるように思えなかった。ただ、お祖父様のお考えを推察する事はできなかったので、断らなかった。
顔合わせの日、フェリシティの事を覚えているかもと、まだ嫌われているかもと緊張していたが、そんな心配は無用だった。セオドアはフェリシティの事を全く覚えていなかった。そうでなければ、あんなに丁寧に接する事はできないだろう。
覚えていなくて、がっかりしたような、安堵したような気持ちだった。
(いえ、覚えていなくて良かったのよ。きっとまだ辛い記憶なんだもの。忘れたままでいいーーー)
セオドアとまた一から付き合い始めて、改めて大人になったんだなと、姉のような感情を持ち始めた頃、セオドアがどこか心ここに在らずの状態に気付いた。一先ず見守ろうと思ったが、人伝にセオドアが平民の女性と懇意にしていると聞いた。もしかして、その女性に好意を持っていて、婚約を破棄したいのかもしれない。伯爵家から公爵家へ婚約破棄など立場的に難しいだろうから、フェリシティから提案すればいいのではないかと考えた。フェリシティにとって、セオドアが幸せになれるなら相手は自分でなくてもいい。
しかし、どうやらそれは早とちりだったようで、セオドアからは婚約破棄の意思はないと言う。しかも、なぜか以前よりも距離が近く、からかっている様な節もある。
(近頃のセオ様は、なんだかあの方に似てきたなーーー)
◆◆◆◆◆
それから数日後、フェリシティから手紙が届いた。
『尋ね人と思わしき人を見つけたので、会ってみて欲しいのです』と。