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薔薇の名前  作者: 菖蒲
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ブルーサファイアローズ

やっと投稿です。

できれば本日中にもう1話投稿したいです、




「現在、キャンベル家の事業と領地は、お祖父様が運営されております。直系で後継者がいない為、セオ様と私の子が、公爵家を継ぐ事になります」

「もし男子が1人しか産まれなかった場合は、キャンベル家とウェスト家、どちらを継がせるのですか?」

「ウェスト家です。キャンベル家は養子をもらい、家門を存続させることになります」

「名門キャンベル家として、血統はよろしいのですか?」

「陛下よりキャンベル家を存続させよ、と言われているから存続させるのであって、お祖父様や私は血筋に固執してはおりません」

「そうなのですね。もう養子の候補がおられるのですか?」

「ええ、コーンウォリス伯爵家次男の、オリヴァー様です。キャンベル家を継ぐ事がなかったとしても、執事としてお迎えする予定になっています」


「ーーーオリヴァー様、」


コーンウォリス伯爵家のオリヴァー様とは、夜会で数度、挨拶を交わした事がある。ミルクティーベージュのふわふわした髪は耳にかからないくらいで揃えられ、青みの濃い菫色は優しげで、笑顔に親しみのある人物だか、どこか見定められているように感じる事があった。

油断はできない人物だと思ったが、それもキャンベル公爵家の後継となるなら当たり前なのかもしれない。




ふと、フェリシティの髪に飾られた、赤い薔薇に目が止まる。真っ白な封筒が届かなくなってしばらく、差出人の彼女は、どうしているのか。


「・・・セオ様、ーーーセオ様?」


「・・・ああ、すみません。

フェイの白金の髪に、赤い薔薇がよく似合っているな、と見入ってしまいました。

薔薇の花がお好きなのですか?」


ほんのり頬に赤みが差したように見えたが、フェリシティがすぐに俯いたせいでそれ以上表情の変化は見えなかった。


「ええ、薔薇は好きです。

セオ様は、なにかお好きな花はありますか?」


「好きな、花ですか・・・。

・・・興味がある花でしたら、・・・ブルーサファイアローズ、でしょうか」


あのラブレターを思い出していたせいなのか、つい口をついて出たのは、彼女が育てたというブルーサファイアローズ。


「ブルーサファイアローズでしたら、王立植物園で見られます。今度、ご案内いたしましょうか?」


「・・・ええ、フェイさえよろしければ」


少しの後ろめたさを感じながら、誘いを受ける。


「本日はここまでにいたしましょう。では、またお手紙を送りますね」


「ええ、また今度」


公爵家の馬車を見送り、屋敷に入る。


執務机の引き出しを開くと、木目の美しい長方形の箱が入っている。その箱を取り出し、中に大切に仕舞われた真っ白な封筒を見つめる。


(まさか、貴女が育てているものと同じブルーサファイアローズを、フェイと見ることになるとは)


ブルーサファイアローズを見る時、隣にいるのが彼女だったらーーー

そう思わない訳ではなかったが、植物園に行くのが楽しみだった。






◆◆◆◆◆






フェリシティと共に植物園へと向かう日。

先に馬車から降り、フェリシティに手を差し伸べる。セオドアの手を取り馬車を降りるフェリシティは、どこか表情が明るく見えた。




「セオ様、こちらです」


フェリシティの手の指す方に目を向けて、セオドアは目を見開く。


「これが、ブルーサファイアローズ・・・」


セオドアの視界は、鮮やかな青の花弁が美しく咲き乱れた。


「・・・私の瞳は、こんなに鮮やかに見えるのだろうか・・・」


ここまで案内してくれたフェリシティの存在を忘れ、独りごちる。

フェリシティはそんな呟きを拾っていた。





「・・・セオ様、近頃、心ここに在らずだったのは、

・・・想い人がいらっしゃるからですか?」


「?!」


セオドアはフェリシティからの思い掛けない問いかけに、言葉を詰まらせた。

(ーーー否定しなければ)

セオドアが口を開いた時、フェリシティが続けた。


「・・・少し前から、気付いていました。

私とは政略結婚ですもの、想い人がいらっしゃってもしょうがないと思います。

・・・お祖父様に勧められた結婚ですが、今からでも間に合います。婚約を解消いたしましょう」


「いあ、えと、・・・フェリシティ、待ってください。

なにかの誤解です。私に想い人など・・・」


「ここでは誰に聞かれるかわかりません。

続きはまた後日にしましょう。

どうぞ、次はセオ様の正直な気持ちをお聞かせください」


急な展開についていけず、フェリシティに言われるまま馬車へと戻り、フェリシティを送ってからタウンハウスへと戻った。

道中の馬車の中では、フェリシティが考えたい事があるからと会話は止められてしまった。



決してフェリシティに文句があるわけでもない。

この婚約を破棄したいと思っている訳でもないのに、自分の優柔不断な態度のせいでフェリシティに誤解されてしまった。

ーーーいや、誤解なのだろうか。

この恋焦がれる気持ちが、本当に愛なのだとしたら、自分はこれからどうするのだろうか。


初めて顔合わせをしてから、ゆっくりと関係を深めているフェリシティに何も思わないわけではない。ふと気を緩めた時の柔らかな雰囲気に、思わず手を伸ばしてしまいそうになった事もある。徐々に心を許してもらえている事に、暖かな喜びを感じる。世間での評価など、当てにならないと実感してきた。

このままフェリシティの手を離してもいいのか、フェリシティは自分の事をどう想っているのか、セオドアの心は千々に乱れていた。




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