辺境に嫁いだら人生変わった!
嫌な予感はしていた。
婚約者が重要な夜会のエスコートを断った時、何かしでかすだろう。とどこかで私は感じていたのかもしれない。
「ベラトリクス!貴様との婚約を破棄する!」
婚約者の私の皇太子が腰を抱くのは、庇護欲を駆り立てるような小柄で愛らしい少女だった。
捏造された罪と共に私の話など受け入れられず、半ば強引に婚約は破棄された……。
そして、新しく結ばれた婚約は腹いせそのものだった。
「お前は辺境伯との婚姻が決まった」
謹慎中の私の元にその知らせを教えてくれたのは父だった。
婚約破棄された私に新しい縁談話などきっとないだろうとおもっていたのだが、なぜそのような話が出たのだろう。
「なぜ?」
私の問いかけに父は苦笑い混じりに口を開く。
「おそらく腹いせだろう。皆、辺境の事を田舎だと思っているようだが、あそこは国の要だ。あのボンクラの妻になるよりもずっといいかもしれない」
そこには、すでに王族を見放している気配が見えていた。
「一度行ってみるといい。お前の幸せのために」
そして、私は父に勧められるままに辺境に向かった。
「待ち合わせの場所はこの村だけれど」
辺境伯は自ら土地の案内をしてくれるそうで、ある村で待ち合わせをすることになっていた。
「ベラトリクス様!バンザーイ」
何の前触れもなく聞こえてきたのは、私の名前と万歳三唱の声。
それは、とても雄々しく戦の知らせの如くだった。
村に流れ込む人の数も相まって、ヒャッハーな世紀末的な略奪でも起こりそうな気配がする。
「ベラトリクス様バンザーイ!!」
そしてさらに響く私の名前と万歳三唱。まるで選挙カーのようだ。
そこに……。
人影の中に一際目を引くものが私の元に近づいてくるのが見えた。
「なにあれ?」
それは、神輿だった。
しかし、ただの神輿ではないその上には玉座が二つあるのだ。
一つの玉座の上には屈強な青年が気だるそうに座り、猛者のオーラを漂わせながら薄ら笑っていた。
それが、少しずつ近づきそして私の目の前で止まった。
「ベラトリクス!バンザーイ!辺境にようこそ!」
屈強な男性は万歳をしてそう叫びながら神輿から飛び降りた。
「オェエエエ!!」
そして、四つん這いになり地面に吐物をぶちまけた……。
どうやら、気だるそうに座っていたわけではなく本当に調子が悪かったようだ。
その姿には、酔い潰れた親父のような哀愁が漂っていた。
なにを考えているのだ。この人は、そんなことはどうでもいいのだけれど、このまま他人のフリをするわけにもいかず私はその青年の背中をさすりながら声をかける。
「だ、大丈夫ですか?!」
「すまぬ。三半規管が弱いのだ」
青年は申し訳なさそうに弱々しく呟く。
なぜ、神輿できた?拘りなのだろうか……?そうしないと死んじゃうとか?
色々と思うところはあるけれど、わたしは言葉を飲み込む。
「なぁに、この田舎に美しい娘が嫁いで来てくれるのなら、神輿で迎えに行くのが筋だろう」
どのような筋だろうか。いや、それは、置いておこう。
「あ、ありがとうございます?」
「このような、無様な姿を見てもうぬは笑わぬのだな……、しかも美しい」
青年はうっとりと私を見ている。
「私は、辺境伯のメリーだ」
辺境伯のメリーは名乗るなり再び吐き出した。
グダグダの状態で初対面は終わり、神輿に担がれて私は彼の屋敷に連れて行かれた。
「うぬの話は、お父上から聞いている。大変だったな。それなのに、逃げもせずにここまで来てくれて感謝している」
「いえ、そのような事は」
この縁談は貴族として当然の責務だ。それを、逃げるなどという考えは私にはない。
「うぬはとても強い。しかしな、私はとても弱いのだ」
メリーは、そう言うなり申し訳なさそうに目を伏せる。
「弱いとは?」
「私の力では辺境を守る程度の力しかないのだ。歴代の辺境伯は違うのだがな」
メリーから漂うオーラは素人の私から見てもただならないものにしか見えず。指先一つで人をノックアウト出来そうな雰囲気だ。
辺境伯って国の要なのにそれを守る程度の強さって、十分強いじゃない……!
「私は弱い」
しかし、彼は自分のことを弱いと言い切る。
「なぁに、王都を攻め落とす事を婚姻の祝いと考えていたが、私の力ではそれができぬ」
ナチュラルに口から飛び出でるクーデターの言葉、しかし、それよりも彼が自信を喪失している事の方が私は気になっていた。
「なぜ、弱いと思うのでしょう?」
「迎えに来た時の神輿での移動が戦闘スタイルなのだが、私が弱いせいで長距離の移動ができないのだ」
それって、弱いのが物理じゃなくて三半規管だけじゃないの……?
そもそも、神輿で移動する必要性ってあるの?
メリーの弱い理由を聞くなり私の頭の中で、様々な疑問がぐるぐると回り出す。
「あの、神輿に乗らなければいいのではないでしょうか」
「しかし、辺境伯の戦闘スタイルなのだ!」
「神輿に乗っているせいで本来の力の半分も出せていないのです。一度だけ、一度だけでいいので神輿から降りて戦ってくださいな」
「わかった。とりあえず王都を落とそう」
メリーは、さも当然のように王都を落とすと言い出した。
それは、先程嘔吐した事への駄洒落をかけているのか、それとも嘔吐したことへの贖罪の意味があるのか、単純に婚姻の前祝いなのか、私にはわからなかった。
そして、3日後。
神輿という移動手段をやめた事によってメリーは、本来の力を発揮する事ができ王都を落としてしまった。
「ベラトリクス、すまなかった。許してくれ」
「どなたでしょう?」
「婚約者だった僕の事を忘れたのか?」
そういえば、殿下のような顔をしている気がする。
すっかり顔を忘れてしまったけれど、彼のふさふさの頭を見るとなんだか嫌な気分になってきた。
「メリー様、この男の頭を落武者スタイルにしてください」
「あい、わかった!」
メリーは、「うぬの頭皮に一片の毛は無し!」と叫びながら元殿下の髪の毛をむしり始めた。
「うふふ。きっと、似合いますよ。落武者」
辺境に嫁ぐと聞いた時、私は自分の人生がつまらない物になると思っていた。
しかし、蓋を開けてみればクーデターは起きる。一方的に婚約破棄を突きつけてきた男は落武者になる。
なかなか面白い事になっている。
きっと、私の人生は有意義で楽しい物になるだろう。メリーと一緒に生きていく限りそれは間違いない。
「世は、まさに世紀末!」
メリーの叫び声と共に、メリーの世界統一が始まった。
そして、辺境伯メリーは、正帝メリーを名乗り世界を統一したのだ。
もちろん、彼はあれ以来神輿に乗ることはなかった。
怒らないでください




