『ここで装備していくかい?』
「しかしなあ、やっぱアレは『闇』じゃなく『金』って言うべきだろ」
「いや、他の『闇属性』なんか見た事ないし、知らないけどさ……『こんな』店、他の街にもあるようなものなのか?物騒だな」
『適性試験』で二人の長短を見た次の日。俺は二人に合った装備を見繕う為、買い物に連れ出していた。
「そんな訳ないだろ。ここが『イリア』だからモノが揃ってんのさ。最近『ガラデア』じゃ傭兵の需要が高まってるからな、大都市になるとこういう店も自然と増える」
「ねえ、どうしても。武器は持たないとダメかな……」
レネイは少し怯えたように言う。まあ、この街に来て直ぐ『兵士』に槍を突き付けられたのだから、『こういうもの』に対する忌避感は強いのだろう。
「悪いが、『どうしても』だ。武器は傷つける為じゃなく、自分や仲間を守るために必要となる。敵は魔獣だけじゃない。レネイはもう分かっていると思うが、時として人も敵になるんだ。死にたくなければ、『殺したくなければ』、必ず武器を持て」
そのように、武器、武器、武器……と古今東西様々な道具を眺めていると、或るモノが目に留まった。
「これは、短刀……か?いや、それにしては柄と刀身が緩い……おい、店主。こりゃなんだ」
「ん?ああ。投げナイフの一種だな。遠心力に魔力を乗せて、刀身を飛ばすんだ。一発限りだから割に合わないがな」
「おい、ユート」
「あー……成程。これなら」
俺達の会話に、レネイは不思議そうな顔をする。
「レネイの黒曜石、詠唱での魔法が使えない時の為に削って溜めておけば。これで上手く使えるんじゃないかな」
「それに、ちょいと弄って腕に仕込むようにすれば、一見丸腰にも見える」
「あっ、そういう。たしかにいいかも……物々しくないし」
「純粋に削った黒曜石をいくらか持っているだけでも小刀として使えるしな。」
「……それってただ黒曜石持ってるだけじゃダメかな?」
それでも、武器は嫌らしい。
「レネイ、君はナイフを真っ直ぐ、生きた筋肉に刺さる勢いで投げられるか?」
「……無理」
「そういうことだ、とりあえずこれは決まりだな」
次に、ユートなんだが。
「なあ、お前武器必要か?」
「……どういうこと?」
「『神器召喚』」
「あー、確かに要らない」
「まあ、『魔力封じ避け』くらいはあった方がいいな。万一魔法を封じられるとどうしようもなくなる」
そのように言いながら、俺は自分に嵌めていた指輪を投げ渡した。
「『呪詛返しの環』、何年か前に遺跡でくすね……拾った指輪だ。効果は実証済み、しかも抜群だ」
「そんなの、貰っちゃっていいのか?これアッシュの為の『魔法避け』だろ?」
「いいんだ。昨日よく分かったと思うが『肉体強化』が無くても俺は戦えるし、これから背中を預けるヤツが持ってくれていれば安心だ」
それに納得したユートが試しに指輪を嵌めてみると、俺よりも一回りは細い彼の指にピタリと指輪の径が縮み綺麗に収まった。
そうして次に向かったのは、旅商や狩人……要するに『長く街を離れる職業』向けの万屋。そのような場所で二人の為の『冒険者装束』を整えていた。
「ま、『冒険者』ってのは傭兵みたいにごちゃごちゃと何かを纏うモンじゃない。天候から身を守るための外套、ハラワタを守る程度の腰巻と小物を下げる為の帯……そんなもんか。あとレネイは『角』を隠すための襟巻が必要だな。ずっと布被ってるのも嫌だろ」
そのような俺の言葉に、ユートは訊ねる。
「それだけでいいのか?」
「寧ろだ、それ以上は持たない方がいい。無駄な装具は足枷となる、高級品は野盗を呼び寄せる」
一応小刀や鉤縄程度の『重荷』は必要だが、それは俺が持っていればいい。
俺は二人の身丈を大まかに見て、店の親仁に細かい所を見繕って貰い。そして、それを娘さんに整えてもらう。布地こそは変わらないが、丈に合わせて裁断し、解れないよう縫い付ける必要があるので案外時間と金はかかる。ただその分長持ちする為、俺はこの店を贔屓にしている。
そのように、装束が出来上がるまで店で一息ついていると、親仁が俺に話しかけてきた。
「よう、なあアッシュ」
「応、なんだ親仁」
親仁は店に置かれた様々な道具を見て回る二人を眺めながら言う。
「オレはな、あの二人を見た時。手前が初めてウチに来た時を思い出したよ。……手前も歳を食ったな」
「なんだ、随分言うじゃねぇか」
「だが、それよか。手前の目が、あの頃を思い出させた……オレが好きだった、古き良き『冒険者』の目だ。何があってあのガキ等を連れてんのか知らねぇがよ、アイツ等を大事にしろよ『冒険者』アッシュ」